Last Updated on 2025年11月30日 by 渋田貴正

フィリピン国籍の方が日本で亡くなった場合、相続関係(相続人の範囲・相続分・遺産管理など)は原則としてフィリピン法により判断されます。フィリピンでは、遺言が存在する場合にはプロベート(Probate)と呼ばれる裁判所手続が必要となる可能性が高いため、実務負担が重くなるという特徴があります。そのため、本稿では「遺言がないケース(無遺言相続)」を前提として整理します。

相続法の基本構造とフィリピンへの当てはめ

国際相続では「どこの国の法律で相続人や分割方法を判断するか」が最初の重要ポイントです。各国は必ずしも同じ法体系を採用しておらず、相続の準拠法が国によって大きく異なります。

分類 説明 フィリピンの扱い
相続統一主義か相続分割主義か 相続統一主義:相続全体を一つの国の法律で判断する方式/相続分割主義:動産・不動産など財産種類ごとに準拠法が変わる方式 相続統一主義(民法10条2文により、財産の種類を問わず被相続人の本国法を適用)
人的不統一法国かどうか 宗教・慣習により複数の相続法体系が存在する国 本稿の前提では該当しない(非ムスリム)
場所的不統一法国かどうか 不動産は所在地法、動産は別基準など複数基準を併用する国 該当しない(フィリピン民法10条により同一ルールを使用)

フィリピンの相続制度は「管理清算主義」を採用しています。死亡時に相続人へ直ちに財産・債務が移転する日本の包括承継主義とは異なり、遺産管理人(administrator)や遺言執行者(executor)が一旦遺産を管理し、債務の清算後に残余財産を相続人へ分配する仕組みです。

そのため、日本側では「相続人・相続分をフィリピン法に基づいて確定する」必要があります。本稿では以下で、無遺言相続におけるフィリピンの法定相続人制度を整理します。

フィリピンの法定相続人(無遺言相続の基本)

フィリピン民法960条以下は、遺言がない場合の相続(intestate succession)を詳細に定めています。主なポイントは次のとおりです。

・無遺言相続が発生するケース
 ① 遺言がないとき
 ② 遺言はあるが、財産の一部しか指定されていないとき
 ③ 任意相続人が遺言の条件を満たさないとき
 ④ 任意相続人が相続できない事情があるとき

相続順位 相続人の範囲 相続のポイント
第1順位 直系卑属(嫡出子・認知婚外子等) 性別・年齢による差はなく均等。認知婚外子は嫡出子の1/2、その他の嫡出でない子は認知婚外子の1/5。卑属がいなければ親・祖父母が相続。
第2順位 直系尊属(父母・祖父母) 父母は均等。いない場合は、親等の近い尊属が優先。親等が同じ者が複数いれば人数按分。
第3順位 非嫡出子 直系卑属・直系尊属がいない場合に相続人となる。
第4順位 生存配偶者 子がいる場合は子と均等。尊属のみの場合は配偶者が1/2。
第5順位 傍系親族 上記がいない場合に相続。
第6順位 国家 いずれの相続人も存在しない場合。

なお、相続順位とは別に、フィリピン民法887条が定める Compulsory Heirs(遺留分を有する法定相続人)も存在します。

反致(通則法41条)との関係について

日本の国際私法(通則法36条)は相続の準拠法を「被相続人の本国法」としつつ、通則法41条により、外国法が日本法へ差し戻す(反致)場合には日本法が適用される仕組みを採用しています。

しかし フィリピン民法10条2文は、財産の種類に関わらず“相続は被相続人の本国法による”と明確に規定しており、日本法へ差し戻すルールを持っていません。

したがって、

フィリピン国籍の方の相続では反致が成立せず、相続人の範囲・相続順位・相続分は必ずフィリピン法で判断する必要があります。

この点が、反致が成立し得る国(例:インドのように動産=本拠地法、不動産=所在地法とする国)との大きな違いであり、日本側で相続登記や預貯金手続きを行う場合でも、フィリピン法に基づく相続関係説明資料が不可欠となります。

さらに、フィリピン民法887条は、遺留分に類似した Compulsory Heir(法定相続人)を定め、一定の範囲については遺言でも自由に処分できないとしています。

Compulsory Heirs には以下が含まれます。
① 嫡出子・嫡出直系卑属
② 直系尊属(子や卑属がいない場合)
③ 生存配偶者
④ 認知された婚外子・法的擬制による婚外子
(兄弟姉妹は法定相続人ではなく、任意に遺言で指定可能)

以上のルールに基づき、フィリピン人の無遺言相続では誰が相続人となるか、各人がどの程度相続するかを判断することになります。

フィリピン国籍の被相続人が所有していた日本にある不動産の相続登記

フィリピン国籍者が日本で死亡し、日本国内に不動産を所有していた場合、その不動産の名義変更は日本の不動産登記法に従って行われます。ただし、相続人の範囲・相続分の判断はフィリピン法(無遺言相続)に基づいて確定する必要がある点が最大の特徴です。

必要書類の例
・フィリピン発行の死亡証明書
・婚姻証明書・出生証明書
・相続関係を示す Affidavit(宣誓供述書
・フィリピン側相続ルールに基づく相続関係説明資料
・日本語翻訳文

相続登記義務化(2024年施行)により、相続開始から3年以内の登記申請が求められるため、フィリピン側書類の取得に時間がかかる点には注意が必要です。

フィリピン国籍の被相続人が所有していた日本にある預貯金・株式・動産の相続手続

日本の金融機関での相続手続きは日本の内部規程に従いますが、相続人の範囲・割合はフィリピン法で確定する必要があります。フィリピンに住む親族が Compulsory Heirs に該当する場合、日本の預金でも相続分を有するため注意が必要です。

実務上は次の書類が求められます。
・PSA書類(出生・婚姻・死亡)
・相続関係 Affidavit
・翻訳文(署名付き)
・金融機関所定の相続届

特に証券口座では、海外在住の相続人について「サイン証明書(Signature Certificate)」が追加で求められることがあります。

フィリピン国内にある不動産・預貯金の相続手続

フィリピン国内の財産についてはすべてフィリピン法に基づき相続手続が行われます。日本で相続が発生しても、フィリピン側の Estate Tax(遺産税)を納めなければ、現地の不動産・銀行口座が移転できない点が最大の実務ポイントです。

現地手続の流れ(典型例)
・Estate Tax の申告・納税
・裁判所による遺産管理人(Administrator)または遺言執行者(Executor)の選任
・不動産の名義変更(Transfer Certificate of Title の変更)
・銀行口座の凍結解除手続
・残余財産の分配

フィリピンの相続手続は裁判所関与が前提となりやすく、日本側の手続が完了しても現地側が何ヶ月も動かないケースが多いため、日本とフィリピン双方の制度を踏まえてスケジュール管理する必要があります。

国際相続は、日本とフィリピンの制度差や書類取得の難しさにより、ご自身で進めようとすると大きな負担が生じます。当事務所では、司法書士・税理士によるワンストップ体制で、日本側の相続登記・預貯金手続から、フィリピン側書類の取得サポート、相続人確定のための英文・宣誓供述書(Affidavit)作成まで丁寧にお手伝いしています。

「どこから着手すればよいかわからない」「フィリピンの相続法の判断に自信がない」「日本とフィリピンにまたがる手続をまとめて任せたい」という方は、ぜひ一度ご相談ください。初回相談は無料で行っております。

複雑な国際相続こそ、経験のある専門家にご相談いただくことで、最短・安全な手続が可能になります。
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