Last Updated on 2025年11月3日 by 渋田貴正

「エステートプランニング(Estate Planning)」とは、将来の相続に備えて、財産の分配方法や税金対策をあらかじめ設計することをいいます。
日本語で「エステート(estate)」というと、「不動産」や「土地」というイメージを持つ方が多いですが、エステートプランニングにおける“エステート”は、不動産に限らず個人が保有するすべての財産を意味します。

つまり、エステートプランニングとは、「自分の資産全体(不動産・預金・株式・保険・海外資産など)を、どのように相続・贈与・信託などで承継するか」を包括的に設計することを指します。
特に海外に資産や家族がある場合、複数の国の法律や税制が関係するため、専門家による事前の整理が欠かせません。

特に国際相続で重要なエステートプランニング

国際相続では、次のようなリスクが発生しやすいです。

  • 国によって遺言の形式が異なり、無効となるおそれがある
  • 日本と海外の両方で相続税が課され、二重課税となる場合がある
  • 海外の銀行口座や不動産の名義変更・登記に時間がかかる
  • 相続人の国籍や居住地によって課税範囲が変わる

たとえば、日本に住む方がアメリカに不動産を所有していた場合、アメリカの相続税法により課税される一方、日本でも「全世界所得課税」の原則に基づいて同じ資産に課税されることがあります。
このようなケースでは、日米租税条約に基づき二重課税の調整を行うことが可能ですが、申告書類の提出や適用手続きが必要です。

エステートプランニングで整理すべき財産の範囲

エステートプランニングでは、不動産だけでなく次のような財産を総合的に管理します。

財産の種類 具体例
不動産 自宅、賃貸物件、海外の別荘など
金融資産 預金、株式、投資信託、外貨建て資産など
生命保険 国内・海外保険会社の契約、受取人指定
事業資産 自社株式、合同会社の持分、営業権など
その他 貴金属、芸術品、暗号資産(仮想通貨)など

このように、エステートプランニング=不動産対策ではなく、資産全体をどう承継するかを設計することが本質です。
特に国際相続の場合、どの国にどの資産があるかを一覧化することが最初のステップになります。

例えば海外に証券口座を持つケースを考えてみます。

日本在住のAさんが米国の証券会社に投資口座を持ち、家族が日本にいるケースを考えます。
Aさんが亡くなった場合、アメリカ側では「非居住者に対する相続税」が課される可能性があり、日本でも同一資産に相続税が課されます。

このような場合、

  • 米国で「リビングトラスト(生前信託)」を利用し、相続手続きを簡略化
  • 日本では遺言書を作成し、信託契約と整合を確保
  • 両国の税務当局に「租税条約適用届出書」や「外国税額控除」を申請

といった対応により、遺族の負担を大きく減らすことができます。

エステートプランニングで実際に行う主な対策

エステートプランニングでは、相続や登記、税務を見据えて次のような準備を進めます。

対策項目 内容 目的
遺言の整備 各国の法形式に合った遺言書を作成 手続きの混乱を防ぐ
資産の洗い出し 国内外の資産をリスト化 登記・税務の把握を容易に
税務対策 相続税評価の引き下げ、贈与の活用 税負担の軽減
名義整理 海外不動産・金融口座の名義統一 手続きの円滑化
信託や保険の利用 リビングトラスト、保険金の活用 節税と承継の安定化

特に遺言については、1961年「遺言の方式に関する法律の抵触に関する条約(ハーグ遺言方式条約)」により、加盟国間では形式の相互承認が可能です。
たとえば日本とオーストラリアのように両国が批准していれば、日本で作成した遺言がオーストラリアでも形式上有効となる場合があります。

海外不動産の登記は現地の専門家との連携が不可欠

海外不動産の相続では、国や地域によって登記制度が異なります。
たとえばアメリカでは州ごとに登記制度が異なり、日本のような全国統一の登記簿は存在しません。
そのため、各州の登記官や現地の弁護士を通じて名義変更を行う必要があります。

一方、日本の不動産を外国籍の相続人が承継する場合は、日本の法務局で登記が可能ですが、在外公館(大使館・領事館)で発行される「署名証明書」などの添付が必要です。
住所表記の翻訳や本人確認書類の整備など、手続き面でも準備が欠かせません。

複数国に資産がある場合、同じ資産に複数の国が課税する「二重課税」が生じることがあります。
これを回避するには、次のような対応を検討します。

  • 租税条約による調整を確認
  • 外国で支払った相続税を日本の税額から控除(外国税額控除)
  • 贈与や信託を活用して課税タイミングを分散

国際相続税務は複雑で、居住地・国籍・資産所在地の組み合わせにより結論が変わります。
専門家による事前シミュレーションが不可欠です。

エステートプランニングは、法律・税務・登記のすべてを横断的に考える必要があります。
税理士・司法書士・海外の弁護士や会計士が協力することで、ようやく全体最適の設計が可能となります。

国際相続のエステートプランニングは、「相続が起きてから」ではなく、「起きる前に」整えておくことが最大のポイントです。
当事務所では、海外資産や外国籍関係者が関わる複雑な相続にも一貫対応しております。
相続に備えて安心できる体制を整えたい方は、ぜひ一度ご相談ください。