Last Updated on 2025年5月4日 by 渋田貴正
所有権移転登記の誤りと更正〜共有と単独の取り違え事例〜
不動産取引では、所有権移転登記の際に誤って単独名義や共有名義としてしまうケースが珍しくありません。
今回は、「共有にすべきところを単独名義で登記」「単独所有を誤って共有と登記」といった誤登記をどう是正するか、更正登記の可否について説明します。
ケーススタディ:典型的な誤登記パターン
事例 | 実際の権利関係 | 登記内容(誤り) |
① | AからBとCが共有で取得 | B単独名義で登記 |
② | AからBが単独で取得 | BとCの共有名義で登記 |
こうした登記の誤りは、実体(現実の権利関係)と登記内容が食い違っているため、是正しないと将来大きなトラブルになる可能性があります。
こうしたことが起こる原因はさまざまですが、以下に実際に起こった例や、理屈的には起こりそうな例を挙げてみます。
更正登記は可能か?〜法律上の考え方〜
基本的な結論としては、事例①・②いずれも更正登記で是正することが可能です。
その理由は次のとおりです。
① 登記の「同一性」が維持されている
登記の「同一性」とは、誤りを正した後でも元の登記と基本的な権利関係の枠組みが変わらないことです。
たとえば、事例①ではBが実際に共有持分を持っており、B単独名義をBとCの共有名義に変更するのは同一性を害しません。
事例②でも、Bがすでに登記名義人であり、単独名義への変更は同一性が維持されます。
② 利害関係人がいない
すでに他人に持分が譲渡されたり、抵当権などが設定されている場合は更正が困難になります。しかし今回の想定では、利害関係人はいないものとします。
しかし、一つだけ大きな問題があります。それは誰が登記申請者になるのかということです。更正登記は登記権利者と登記義務者の共同申請が原則です。
事例 | 登記権利者 | 登記義務者 |
① | C | B・A |
② | B | C・A |
BとCだけで手続きできれば話は早いのですが、元の所有者Aも登記義務者になっている点が非常に重要かつ実務的に更正登記を困難にしている決定的なポイントです。
なぜ更正登記では元所有者も登記義務者なのか?
これは、更正登記の本質が「誤った所有権移転登記を抹消し、正しい移転登記をやり直す」のと同じ構造だからです。つまり、誤った登記を更正するのは元の登記の抹消と新たな所有権移転の2段階が一つになったようなイメージです。
義務者 | 権利者 | |
元の登記の抹消 | B | A |
新たにやり直す登記 | A | C |
BとCだけで手続きが済むと思って進めると大きな落とし穴となりますので注意が必要です。
元の所有者の協力が得られない場合
ここが実務上の最大のハードルです。
Aが知人や親族などの場合は協力を得られる可能性があります。
しかし、ハウスメーカーや不動産会社などの事業者がAである場合、売却後に関与を拒否されたり、倒産して連絡が取れないケースも珍しくありません。
この場合、次の代替策が考えられます。
【代替策1】真正な登記名義の回復登記
誤って登記された名義を実体に即して回復する登記。
ただし、この場合も通常は元所有者Aの協力が求められます。
【代替策2】売買など別の法律行為による登記
実態が売買や持分譲渡とみなせる場合は、新たに「売買による所有権移転登記」を行うことも可能です。
この場合、Aの協力が不要(BとC間のみで登記が完結する)であるケースもあります。ただし、この場合、所得税などの問題が出ないように慎重に売買契約を進めることが重要です。
方法 | Aの協力 | メリット | デメリット |
更正登記 | 必要 | 正確な是正 | Aの協力が前提 |
真正な登記名義の回復 | 必要でない場合もある | 実体に忠実 | 必ずしも認められない |
売買・譲渡登記 | 不要 | 実務的に実現しやすい | 実体が売買に近いことが条件 |
更正登記の申請内容と登記記録
無事に元の所有者の協力も得られた場合、申請時には以下の情報を登記所に提出します。
- 登記の目的:「○番所有権更正」
- 登記原因:「錯誤」(日付は不要)
- 更正後の事項:
- ①「共有者B 持分●分の●、C 持分●分の●」
- ②「所有者B」
申請が受理されれば、申請内容に基づいて登記記録が修正されます。
更正登記が使えない特別なケース
以下のようなケースでは更正登記ができません。
- 競売(民事執行法)の登記で誤りが生じた(裁判所の売却許可に基づく登記のため)
- 既に利害関係人(第三者)が存在する(たとえば、すでに持分が売却・担保設定されている)
この場合は、裁判(所有権確認訴訟等)で是正するか、登記官への嘱託(競売の場合)によって訂正手続きを進めます。
登記の誤りを放置すると、売却や相続の際に深刻なトラブルに発展します。当事務所では、更正登記の申請はもちろん、Aの協力が得られない場合の実務的な解決策の提案から裁判手続までトータルサポートしています。
「もしかして自分の登記が間違っているかも?」と心配な方は、お気軽にご相談ください。

司法書士・税理士・社会保険労務士・行政書士
2012年の開業以来、国際的な相続や小規模(資産総額1億円以下)の相続を中心に、相続を登記から税、法律に至る多方面でサポートしている。合わせて、複数の資格を活かして会社設立や税理士サービスなどで多方面からクライアント様に寄り添うサポートを行っている。