Last Updated on 2025年5月8日 by 渋田貴正

生前の相続対策として最も広く知られていて、実際に利用されているのは「遺言」といってもよいでしょう。ただ、近年ご依頼が増えているのが「家族信託」の活用です。家族信託は比較的新しい制度ということもあり、どちらを選べば良いのか悩む方は少なくありません。それぞれの制度の違いやメリット・デメリットを比較します。

遺言と家族信託の基本的な違い

それぞれの制度の基本的な違いは以下の通りです。

項目 遺言 家族信託
法的根拠 民法960条〜1020条 信託法
効力発生時期 本人の死亡後 契約締結時(生前から)
主な内容 財産の配分や分割方法 財産の管理・運用・承継

登記や税務面での比較

項目 遺言 家族信託
相続税 遺言内容に基づき通常通り課税 受益者課税(受益者変更時は贈与税がかかる場合あり)
登記 相続登記(登録免許税:0.4%) 信託登記(登録免許税:0.4%)
贈与税 原則なし 信託内容によって発生の可能性あり

ただ、こうした表面的な違いだけでは制度の本質的な違いは分かりませんので、それぞれの制度のメリットデメリットを比較してみます。

遺言・信託のメリット・デメリット

【遺言】のメリット・デメリット

メリット

  • 比較的簡単に作成できる
    自筆証書遺言であれば自宅でも作成可能です。公証役場で作成する公正証書遺言でも10万円〜20万円程度で作成できます。
  • 相続分の調整が可能
    たとえば、特定の子に事業用不動産を相続させ、他の子には金銭を配分するなど柔軟な指定ができます。
  • 公正証書遺言は証明力が高い
    公証人と証人の立会いのもと作成されるため、偽造や変造のリスクが極めて低くなります。

デメリット

  • 遺言能力を巡るトラブルが起こりやすい
    公正証書でも、認知症などで遺言能力が否定されるケースがあります(大阪地裁昭和61年4月24日判決ほか)。
  • 手続の不備や「替え玉」の主張が問題になる場合がある
    稀ではありますが、他人が本人になりすましたとされ無効とされた事例もあります。
  • 生前は効力がありません
    本人が認知症などになった場合、遺言で特定の相続人に残したい財産も、生前に成年後見人が財産を処分することも可能です。
  • 相続人全員の合意で内容が無効になることがある
    遺言よりも相続人全員の遺産分割協議が優先されるケースもあり、被相続人の意思が十分に反映されない可能性があります。
【家族信託】のメリット・デメリット

メリット

  • 生前から財産の管理と承継が可能
    信頼できる方(受託者)に財産の管理・運用を任せられます。本人が認知症になってもスムーズに対応できます。
  • 成年後見制度を回避できる
    事前に家族信託契約をしておくことで、成年後見制度に頼らず、自由な財産管理ができます。
  • 相続財産と分離できる
    信託財産は相続財産に含まれず、相続人や成年後見人でも勝手に変更することはできません(信託法91条)。

デメリット

  • 設計が複雑
    信託契約の設計ミスは大きなトラブルにつながります。司法書士・税理士・弁護士といった専門家の関与が不可欠です。
  • 初期費用が高め
    公正証書作成費用、信託登記費用、専門家報酬などがかかり、遺言より費用負担が大きくなることが一般的です。
  • 金融機関の対応に差がある
    信託口口座を開設できる金融機関が限られており、また、それぞれの金融機関での口座開設や信託契約の妥当性についての審査があり、事前の調整が必要です。

どちらの制度を選ぶべきか

それぞれの制度について、事例ごとにどちらを選ぶべきかについて考えてきます。以下の例はあくまで一例であり、実際にはそれぞれの状況を踏まえて最適な選択を行っていくことになります。

ケース おすすめの方法 理由
不動産と預貯金を複数の子に承継する 遺言 財産の種類が限られ、相続人同士の関係も良好。公正証書遺言で費用も抑えられる。
認知症リスクがあり、不動産が主な財産 家族信託 認知症の発症前に家族信託契約が締結できれば、成年後見制度を回避し、認知症発症後も不動産管理・売却・賃貸がスムーズに行える。
再婚や子連れなど複雑な家族関係 家族信託 家族信託で承継先と管理方法を固定し、相続人の合意で変更されるリスクを防止できる。
子どもがいない夫婦 家族信託と遺言の併用 財産管理は家族信託で行い、死亡後の承継先は遺言で指定すると万全。

当事務所(税理士・司法書士)では、遺言と家族信託の設計から、登記・税務対策までワンストップでサポートしております。初回相談は無料ですので、お気軽にご相談ください。