被相続人が占有していた不動産について、その死亡後に占有を引きついた相続人が時効取得を援用した場合を考えます。このとき、相続人がA1名だけであれば、Aは単独での時効取得の主張が可能です。しかし、相続人が2名以上いると話は変わってきます。
例えば、相続人として子Aと子Bがいる場合を考えます。この場合、遺産分割協議が行われていない場合、AとBの法定相続分はそれぞれ2分の1となります。そのため、もしAが時効取得を主張しようとすると、援用できるのは自己の持分である2分の1だけということになります。しかし、この場合だとAともとの所有者が2分の1ずつの共有となってしまいます。このケースで従来の所有者とAが円満に不動産を共有できる状況には通常ならないでしょう。
そこで相続人としてとりうる方法としては遺産分割協議によって、子Aか子Bが単独で被相続人の占有権を相続した形にすることです。占有権を単独で相続したという遺産分割協議を行うことによって、時効を援用できるのもその単独で占有権を相続した相続人だけになります。この場合、占有権を相続した相続人は単独で所有権の全部について時効の援用をすることができます。
もう一つの方法としては、それぞれの相続人が自己の相続分について時効を援用するということです。このケースでは、もともと被相続人が行っていた占有をベースにしますので、要件を満たしていればいずれの時効取得も認められます。
共有者が行った管理行為や保存行為については各共有者にも効力が及びますが、時効の援用は新たに権利を発生させるものであり、処分行為に該当するものとして扱われます。そのため、占有権を複数の相続人で相続した場合、各相続人が主張できるのは自己の相続分の範囲だけであり、他の相続人の分まで時効取得を援用できるわけではないということです。時効取得を援用するかどうかは各占有者の意思次第ということです。
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司法書士・税理士・社会保険労務士・行政書士
2012年の開業以来、国際的な相続や小規模(資産総額1億円以下)の相続を中心に、相続を登記から税、法律に至る多方面でサポートしている。少しでも相続人様の疑問や不安を解消すべく、複数資格を活かして相続人様に寄り添う相続を心がけている