Last Updated on 2026年3月2日 by 渋田貴正
不動産売却というと、不動産会社に依頼するのが当たり前と思われがちです。しかし、法律上は、不動産会社を通さなくても不動産を売却することは可能です。売主と買主が合意すれば、不動産の売買契約は成立します。実務でも、不動産会社を通さずに売却されるケースは一定数存在します。特に相続や親族間の取引では、「すでに買主が決まっている」ため、不動産会社が介在しないのが通常です。
不動産会社の本来の役割は買主を探す(ときに自ら購入する)ことです。すでに買主が決まっている場合、不動産会社の役割は大幅に小さくなります。一方で、登記と税金は必ず発生します。ここは誰も代わりにやってくれません。
不動産売買において不動産会社が仲介しない代表的なケース
相続した不動産を親族に売却する場合
最も多いのが、相続した不動産を親族の一人に売却するケースです。たとえば、兄弟3人で相続した実家を、長男が引き継ぐ代わりに他の兄弟へ代金を支払う場合です。このようなケースでは、すでに買主は長男と決まっています。不動産会社に依頼しても、買主を探す必要がありません。そのため、不動産会社を通さずに直接売買するのが合理的です。しかし、このような親族間売買では税務上の注意が必要です。売却価格が時価より低すぎる場合、差額は贈与とみなされる可能性があります(相続税法第7条)。たとえば、時価3,000万円の不動産を1,000万円で売却した場合、差額の2,000万円に贈与税が課される可能性があります。「家族間だから自由に価格を決めてよい」と思われがちですが、税務署はその価格が合理的かどうかを確認します。ここで税理士の関与が重要になります。
隣地所有者や知人に売却する場合
隣地所有者が土地を買い取りたいというケースも多くあります。たとえば、「駐車場を広げたい」「建物を建てるために土地をまとめたい」といった理由です。この場合も買主は明確です。不動産会社を通す必要性は高くありません。知人間売買も同様です。ただし、このようなケースでも売買契約書は適切に作成する必要があります。不動産売買契約書には、次のような内容を正確に記載する必要があります。
・売買価格
・引渡日
・所有権移転の時期
・固定資産税の精算方法
契約書の不備は、後のトラブルの原因になります。不動産売却は金額が大きいため、「言った」「言わない」の争いは深刻な問題になります。
自治体の空き家バンクを利用する場合
相続した実家や地方の不動産を売却する際、「空き家バンク」を利用するケースも増えています。空き家バンクとは、市区町村が運営する不動産のマッチング制度です。空き家の所有者が物件を登録し、購入希望者と直接交渉する仕組みです。多くの自治体では、物件情報の掲載までは自治体が行いますが、売買契約自体は当事者間で直接行います。そのため、不動産会社が仲介に入らないケースも多くあります。特に地方では、「移住希望者が直接購入したい」というケースが多く、不動産会社を介さずに売却が成立することは珍しくありません。
たとえば、親から相続した地方の実家を売却したい場合、不動産会社に依頼しても買主が見つかりにくいことがあります。一方、空き家バンクに登録すると、移住希望者が購入を希望するケースがあります。この場合、買主はすでに決まっているため、不動産会社の仲介は必須ではありません。しかし、ここで注意が必要です。空き家バンクはあくまで「出会いの場」を提供する制度です。売買契約の作成、所有権移転登記、税務申告は自治体が行ってくれるわけではありません。つまり、不動産会社がいない場合と同様に、登記と税金の手続きは自分で対応する必要があります。
不動産会社を通さなくても必ず必要になる所有権移転登記
不動産を売却すると、所有権移転登記が必要になります。これは、不動産の名義を売主から買主へ変更する手続きです。不動産の所有権は、登記によって第三者に対抗できるようになります(民法第177条)。登記をしなければ、買主は法的に保護されません。登記には次の書類が必要です。
| 書類 | 内容 |
|---|---|
| 登記申請書 | 法務局へ提出する申請書 |
| 売買契約書 | 売買の事実を証明する書類 |
| 登記原因証明情報 | 所有権移転の原因を示す書類 |
| 印鑑証明書 | 売主本人の意思確認のための書類 |
| 固定資産評価証明書 | 登録免許税の計算に使用 |
登録免許税は固定資産税評価額の2%です(登録免許税法第9条)。たとえば評価額2,000万円であれば40万円です。この登記は司法書士が行うのが一般的です。登記は一度申請すると簡単には修正できません。不動産の名義は「戸籍のようなもの」です。一度誤ると、後からの修正は極めて大変になります。
不動産会社を通さなくても必ず必要になる譲渡所得税の問題
不動産を売却すると、譲渡所得税が発生する可能性があります。譲渡所得とは、売却益のことです。
譲渡所得=売却価格-取得費-譲渡費用
取得費とは購入時の価格です。譲渡費用とは売却のための費用です。税率は所有期間によって異なります。
| 所有期間 | 税率 |
|---|---|
| 5年以下 | 約39% |
| 5年超 | 約20% |
また、自宅を売却した場合は3,000万円特別控除が適用できる可能性があります。この特例を適用すれば、多くのケースで税金は発生しません。ただし、適用には確定申告が必要です。不動産会社は法律上確定申告を行うことができません。ここは税理士の専門分野です。
不動産会社を通さない場合でも、司法書士と税理士の役割は明確に分かれています。むしろ仲介がいない分、専門家の責任範囲はより重要になります。
| 項目 | 司法書士の役割 | 税理士の役割 |
|---|---|---|
| 売買契約書の作成・確認 | 契約内容が登記に適合しているか確認します。 所有権移転時期や特約が法的に有効かをチェックします。 ※契約書そのものの作成はケースにより可能ですが、内容次第では弁護士領域となるため確認が重要です。 |
売買価格が税務上問題ないか確認します。 時価との乖離による贈与税リスクを検討します。 特例適用の可否を事前に判断します。 |
| 所有権移転登記 | 法務局へ所有権移転登記を申請します。 登録免許税の計算を行います。 登記原因証明情報を作成します。 |
|
| 相続登記の確認 | 相続登記が未了の場合は事前に対応します。 戸籍収集や遺産分割協議書作成を行います。 |
相続税申告の要否を確認します。 取得費の整理を行います。 |
| 譲渡所得税の計算 | 譲渡所得の計算を行います。 取得費・譲渡費用の判定を行います。 特例(3,000万円控除など)の適用可否を判断します。 |
|
| 確定申告 | 譲渡所得の確定申告書を作成・提出します。 税務署対応を行います。 |
|
| 価格が低額な場合の税務リスク検討 | 売買の法的有効性を確認します。 | 贈与税・みなし譲渡課税のリスクを検討します。 |
| 法人が関与する売買 | 代表者の権限確認を行います。 会社実印・資格証明書を確認します。 |
法人税・消費税の影響を検討します。 時価取引原則を確認します。 |
当事務所では、不動産会社を通さない不動産売却について、契約内容の確認、所有権移転登記、譲渡所得税の申告まで一括して対応しています。親族間売買や相続不動産の売却では、特に税務と登記の整合性が重要です。不動産会社を通さない売却をご検討の場合は、ぜひ税理士・司法書士の両方の視点を持つ当事務所へご相談ください。不動産の売却を安心して完了させるところまで、責任をもってサポートいたします。

司法書士・税理士・社会保険労務士・行政書士
2012年の開業以来、国際的な相続や小規模(資産総額1億円以下)の相続を中心に、相続を登記から税、法律に至る多方面でサポートしている。合わせて、複数の資格を活かして会社設立や税理士サービスなどで多方面からクライアント様に寄り添うサポートを行っている。
