Last Updated on 2026年1月11日 by 渋田貴正
相続放棄の相談で非常に多いのが、「戸籍や必要書類がまだ全部そろっていないが、この状態では相続放棄はできないのか」という不安です。相続放棄には期限があり、被相続人が亡くなったことを知った日から原則3か月以内、いわゆる熟慮期間内に家庭裁判所へ申述しなければなりません。この期限だけを見ると、「書類がそろうまで待っていたら間に合わないのではないか」と焦るのも無理はありません。
結論から言えば、熟慮期間中にすべての書類が完璧にそろっていなくても、相続放棄ができなくなるわけではありません。実務では、むしろ「そろわないことを前提にどう動くか」が重要になります。
書類がそろわない典型パターン
転籍が多く戸籍がそろわない
相続放棄の実務では、「本人の対応が遅い」というよりも、構造的に書類が間に合わないケースが少なくありません。まず多いのが、被相続人の出生から死亡までの戸籍を集めようとしたところ、転籍が多く、請求先の市区町村が複数に分かれてしまうケースです。古い戸籍は別の自治体に保存されていることもあり、請求先を特定するだけでも時間がかかります。さらに、郵送請求の場合、役所側の処理期間や郵送日数を考えると、1通取得するのに数週間かかることも珍しくありません。特に普通郵便だと数日かかるのが通常です。
相続放棄の熟慮期間は3か月しかないため、戸籍収集を完了させる前に期限が迫ってしまうことは、実務ではよくある話です。
外国籍の被相続人のため現地の書類の取り寄せに時間がかかる
もう一つ、特に注意が必要なのが、相続人が外国籍の場合です。本国で発行される出生証明書や親族関係証明書は、日本の戸籍のように即日・短期間で取得できるとは限りません。国によっては、申請から発行まで数か月を要することもあり、さらに日本で使用するためには翻訳文の作成も必要になります。加えて、書類の形式が日本の戸籍と大きく異なるため、親族関係が一目で分からず、追加説明や補足資料を求められるケースもあります。
本国の行政手続が日本ほど迅速でないことも多く、証明書の発行までに相当な時間を要することがあります。また、書類の形式が日本の戸籍と異なり、親族関係が直感的に分かりにくいこともあります。このような場合でも、相続放棄の申述自体を先に行い、外国の公的書類や翻訳文を後日提出する対応は、実務上よく行われています。重要なのは、「間に合わないから何もしない」ことではなく、「間に合わない前提で動く」ことです。
また、日本の在住期間が長い外国籍の被相続人だとそもそも本国に必要な身分関係の届出を行っていないケースもあり、この場合はより複雑になり、まず3か月の熟慮期間中に書類を集めるのは不可能なケースも多いです。
このような状況に直面すると、「熟慮期間中に必要書類がすべてそろわなければ、相続放棄はできないのではないか」と不安になる方が多いですが、実務の現場では、このようなケースは決して例外ではありません。むしろ、相続放棄の相談の多くは、「期限内に書類がそろわないことを前提に、どう動くか」という判断が求められる場面です。重要なのは、書類がそろうまで動かないことではなく、そろわない事情を踏まえた現実的な対応を選択することだといえます。
熟慮期間中に書類がそろわないときの現実的な対応
相続放棄の申述には、申述書のほか、被相続人が亡くなったことを示す戸籍や、申述人が相続人であることを確認できる書類が求められます。ただし、法律上「すべての戸籍や証明書がそろっていなければ申立て自体ができない」と定められているわけではありません。家庭裁判所の運用上は、まず申述を受け付け、その後に不足書類を補正として提出させるという流れが一般的です。つまり、相続放棄は「書類をそろえてから動く手続き」ではなく、「期限を守って動き、足りない部分を補う手続き」と理解するほうが実務に近いのです。
熟慮期間中に戸籍や各種証明書がそろわない場合、実務でよく使われるのが上申書です。上申書とは、現時点で提出できない書類がある理由や、現在取得中であることを家庭裁判所に説明するための文書です。法律上、必須の書類ではありませんが、提出しておくことで裁判所に事情が伝わりやすくなります。特に、期限ぎりぎりで申立てを行う場合には、「なぜ不足が生じているのか」を明示しておくことが、後の補正対応を円滑にします。上申書は、手続きを止めないための安全弁のような役割を果たします。
| 状況 | 実務上の対応 |
|---|---|
| 戸籍の一部が未取得 | 取得中である旨を説明し、先に相続放棄を申述 |
| 外国の証明書が未発行 | 発行に時間を要する事情を上申書で説明 |
| 期限が迫っている | 不完全でも熟慮期間内の申述を最優先 |
相続放棄は、書類の量よりも判断のタイミングがものを言う手続きです。熟慮期間中に書類がそろわない状況でも、実務を理解した専門家が関与すれば、どこまで出せば足りるのか、何を後回しにできるのかを整理したうえで対応できます。特に、外国籍の相続人が関与するケースや、戸籍関係が複雑な相続では、一般の方だけで判断するのは大きな負担になります。税務と登記の両方を踏まえて対応できることは、相続放棄において大きな安心材料になります。
当事務所では、熟慮期間中に書類がそろわないケースを前提に、相続放棄の実務対応を行っています。「まだ何もそろっていない」「期限が近くて不安」という段階でも構いません。相続放棄は、早めに相談するほど選択肢が増える手続きですので、少しでも不安を感じたら、お気軽にご相談ください。

司法書士・税理士・社会保険労務士・行政書士
2012年の開業以来、国際的な相続や小規模(資産総額1億円以下)の相続を中心に、相続を登記から税、法律に至る多方面でサポートしている。合わせて、複数の資格を活かして会社設立や税理士サービスなどで多方面からクライアント様に寄り添うサポートを行っている。
