Last Updated on 2025年9月26日 by 渋田貴正
近年、海外に不動産を持つ方が増えています。
そのため、相続や贈与で外国の不動産を取得するケースも珍しくなくなりました。
しかし、日本の税務申告にあたって「外国不動産をどのように評価するのか」が分からず戸惑う方が多いのも事実です。
この記事では、外国不動産の評価額の考え方、国別の実例、そして実務上の注意点を、税理士・司法書士の立場から分かりやすくご説明します。
国外財産が課税対象になる人・ならない人
そもそも国外財産が日本の相続税・贈与税の課税対象になるかどうかは、「無制限納税義務者かどうか」で判断されます。
相続税では、「居住者/非居住者」だけでなく、課税財産の範囲を確定するために 無制限納税義務者/制限納税義務者 という区分が設けられています。
- 無制限納税義務者:国内外のすべての財産に相続税がかかる人。相続人が日本に住所を持つ場合や、過去10年以内に住所があった日本国籍者などが該当。
- 制限納税義務者:日本国内の財産にのみ課税される人。海外に住む相続人で、無制限納税義務者の要件に当たらない場合がこれに当たります。
例えば、日本に住む方がアメリカの不動産を相続した場合、その不動産も相続税計算に含まれます。
一方、長年海外に住んでいる方が外国不動産を相続・贈与で取得した場合には、国外財産は課税対象外になる場合があります。
この区分を誤ると、不要な申告や逆に申告漏れを招くため注意が必要です。
外国に所在している不動産の税務上の評価額を決める方法
外国不動産の評価は、国内不動産のように路線価や固定資産税評価額といった全国共通の基準が存在しないため、個別事情に応じて合理的に「時価」を算出しなければなりません。
評価の基本的な考え方
- 評価の基本は「時価」。
- 時価とは、通常の売買が行われた場合に成立すると考えられる価額です。
- 国ごとの制度を確認し、その国で用いられている評価方法や資料を最大限活用します。
評価を決めるために利用できる資料
海外に所在する不動産の評価を決めるために利用できる資料としては以下のようなものが挙げられます。
| 資料の種類 | 内容・特徴 | 実務でのポイント |
|---|---|---|
| 公的な固定資産税評価額や課税台帳 | 各国の税制度で用いられる評価額。最も利用しやすい基準 | 公的機関が発行するため信頼性が高く、日本の税務署にも説明しやすい |
| 不動産鑑定評価額 | 現地鑑定士による鑑定。市場実勢を反映 | 費用はかかるが、客観的で説得力のある評価資料となる |
| 売買実例価格 | 対象不動産や周辺地域の直近の売買価格 | 実勢を示す有力な根拠。売買事例が豊富な地域では特に有効 |
| 専門家意見価格(精通者意見) | 公的制度や取引情報が不十分な国・地域で、現地不動産会社や専門家が提示する査定価格 | 補足的に利用。根拠資料を添付すると税務署への説明がスムーズ |
評価を決めるための資料の優先度合い
海外不動産を評価する際には、どの資料を使うか、優先順位をつけて考えるとわかりやすいです。
| 状況 | 基本の考え方 | 補足の方法 |
| 売買実例がある場合 | 実際に取引された価格をそのまま基準にできる | もっとも信頼性が高い根拠になります |
| 売買実例がない場合 | 公的な評価額(固定資産税評価額や課税台帳の数値)をベースにする | 不動産鑑定士の鑑定書や現地不動産会社の査定を追加して補強 |
| 制度が未整備な国や地域 | 公的評価や売買実例が乏しい場合は、複数の専門家意見を集めて平均値を出す | 客観性を高める工夫として有効 |
つまり「売買実例があればそれを優先し、なければ公的評価額+補強資料、制度が未整備なら専門家の意見を複数組み合わせる」という流れです。
為替換算のルール
海外不動産の評価額はまず「現地通貨」で算定します。
その後、日本の課税手続きでは 日本円に換算 する必要があります。
| 税金の種類 | 換算に使う為替レート |
| 相続税の場合 | 被相続人が亡くなった日の為替レート |
| 贈与税の場合 | 贈与契約が成立した日の為替レート |
例えば、アメリカの不動産の評価額が「50万ドル」だった場合、相続なら「死亡日のドル円レート」、贈与なら「贈与日のドル円レート」で日本円に直して申告します。
国別評価の例(実務パターン)
実務でよく見られる国ごとの特徴をまとめると以下の通りです。
| 国名 | 評価の基準 | 入手しやすさ | 実務での対応例 | ケースイメージ |
| アメリカ(カリフォルニア州など) | 固定資産税課税台帳、不動産鑑定、直近の売買実例 | 比較的容易 | 公的評価額に鑑定書を補足し換算 | 200万ドルの評価を相続日レートで円換算 |
| フランス(パリ近郊など) | 税務評価制度、鑑定、売買実例 | 都市部では比較的容易 | 公的評価と鑑定を組み合わせ算定 | €300,000の評価を相続日レートで換算 |
| 中国(北京市など) | 市政府発表の課税評価、売買価格、鑑定 | 地域差が大きい | 売買実例と鑑定を重視 | 2,000,000元の実例を基準に換算 |
| ハワイ州(米国) | 州の固定資産評価、直近売買、鑑定 | 観光地では豊富 | 鑑定と売買価格を併用 | US$500,000の実例を採用 |
| 東南アジアの地方都市 | 公的評価制度が未整備、売買実例が少ない | 困難 | 複数の業者査定を平均 | 地元業者査定で1,000,000ドルを換算 |
国外の不動産を相続、贈与する場合の注意点としては以下のような点が挙げられます。
- 二重課税の可能性
外国で相続税や贈与税が課税される場合、日本と二重課税になることがあります。この場合は外国税額控除で調整できるか確認が必要です。 - 登記の問題
外国不動産は日本の法務局では登記できません。名義変更は現地制度に従って行う必要があります。 - 評価の不確実性
市場価格や制度の整備状況によって評価がぶれることがあります。複数資料を組み合わせ、合理性を持たせる工夫が必要です。 - コストと準備期間
鑑定書の取得や翻訳・認証に時間と費用がかかります。計画的に準備しましょう。
海外にある不動産を相続や贈与で取得すると、日本での税務申告が複雑になります。
現地の評価資料を揃え、日本円に換算し、税務署に提出できる形に整理するには専門的な知識が欠かせません。
当事務所では、外国不動産を含む相続・贈与の案件に多数対応してきました。評価方法のご説明から、税務申告や関連する登記のご案内までワンストップでサポート可能です。
もし海外不動産を相続・贈与することになった方は、どうぞお気軽に当事務所へご相談ください。

司法書士・税理士・社会保険労務士・行政書士
2012年の開業以来、国際的な相続や小規模(資産総額1億円以下)の相続を中心に、相続を登記から税、法律に至る多方面でサポートしている。合わせて、複数の資格を活かして会社設立や税理士サービスなどで多方面からクライアント様に寄り添うサポートを行っている。
