Last Updated on 2025年7月14日 by 渋田貴正

相続手続きは、被相続人が日本国内に不動産や預貯金などの財産を持っていた場合、日本法に基づいて行われます。近年、自筆証書遺言を安全に保管できる制度として「遺言書保管制度(法務局保管制度)」が注目されています。

この制度は、日本人だけでなく外国籍の方でも利用可能です。しかし、相続発生後の手続きは、外国籍特有の事情から日本人よりも煩雑になる傾向があります。

外国籍でも遺言保管制度は使える

結論から言えば、外国籍の方でも自筆証書遺言の形式を満たせば、遺言書保管制度を利用できます。

■ 利用のための要件(民法第968条)

要件 内容
年齢 15歳以上であること(民法第961条)
自書性 遺言者本人が全文・日付・氏名を自書し押印すること
使用言語 原則、日本語で書かれていることが望ましい
保管申請 本人が法務局に出頭して申請すること

実際、長期滞在中の外国籍の方や、日本で生活基盤のある外国人配偶者などが制度を利用するケースが増えてきています。

外国籍の被相続人が遺言保管制度を利用していた場合の流れ

1.遺言書情報証明書の取得(最初のステップ)

被相続人が遺言書保管制度を利用していた場合は、家庭裁判所の検認は不要です。その代わり、相続人などが「遺言書情報証明書」を法務局から取得することで、遺言書の存在や内容を証明できます。

ただし、外国籍の被相続人の場合は、死亡の事実や相続関係の証明が日本人と比べて複雑になります。

日本国籍と外国籍の被相続人の必要書類の比較
書類の種類 日本国籍の被相続人 外国籍の被相続人
死亡の証明 戸籍(除籍)謄本 死亡証明書(Death Certificate)+日本語訳
相続関係の証明 戸籍一式(出生から死亡まで) 出生証明書・婚姻証明書等+日本語訳+親族関係説明図など
身元確認資料 住民票の除票など パスポートの写し等
相続人の証明 戸籍謄本 各相続人の出生証明書・身分証明書+日本語訳

※多くのケースで、本国の公証書・翻訳証明などが必要となり、準備に時間と費用がかかります。

2.不動産の相続登記

日本国内に不動産がある場合、遺言内容に基づいて相続登記を行う必要があります。

遺言書保管制度を利用した場合でも、以下のような書類が求められます。

  • 遺言書情報証明書
  • 被相続人の死亡を証する書類
  • 相続関係を証する書類(出生証明書や婚姻証明書等)

遺言の内容により「○○に不動産を相続させる」と明示されていれば、単独での登記申請が可能です。

3.相続税の申告と税務上の注意点

相続税の課税関係は、被相続人および相続人の住所と国籍により変わります(相続税法第1条の5)。

被相続人 相続人 課税対象となる財産
日本国内居住 国内・国外 国内外すべて
日本国外居住 国内居住 国内外すべて(ただし10年ルールあり)
日本国外居住 国外居住 日本国内の財産のみ(例:日本の不動産)

つまり、外国籍の方でも、日本に不動産や預金があれば相続税申告が必要になる場合があります。

■ 書類の翻訳・認証の必要性

相続税申告書に添付する書類のうち、外国語で作成されたものには日本語訳の提出が必要です(国税庁「相続税申告の手引き」)。また、公的証明書については翻訳証明やアポスティーユが求められるケースもあります。

相続人が外国籍・海外在住である場合、以下の点にも注意が必要です。

これらの書類が整わないと、相続登記や相続税申告に支障が出る可能性があります。

このように、外国籍の方が遺言保管制度を利用していた場合、相続手続きは書類面・手続面ともに日本人より複雑です。
特に相続関係の証明、書類の翻訳、公証・登記・税務対応など、多岐にわたる専門知識が求められます。

当事務所では、外国籍の方の相続・遺言・登記・相続税に関する実績が多数ございます。ワンストップで対応いたしますので、お困りの際はぜひ一度ご相談ください。