Last Updated on 2025年7月1日 by 渋田貴正
日本に不動産を所有していた方が亡くなり、相続が発生する場面において、被相続人や相続人が外国籍あるいは海外居住者であるケースは年々増加しています。いわゆる国際相続です。
こうした国際相続では、相続税の申告や不動産の名義変更といった税務・登記手続きのほかに、「外国為替及び外国貿易法(以下、外為法)」に基づく報告義務にも注意が必要です。本記事では、外為法上の「非居住者」概念を踏まえ、相続による不動産取得が報告対象となるケースや、その具体的な手続きについてわかりやすく解説します。
外為法における「非居住者」とは?
外為法では、日本国内の資本や経済活動に対する外国からの影響を監視する目的で、一定の取引に報告義務が課されています。この報告義務が発生するかどうかの判断において重要となるのが、「非居住者」という概念です。
外為法上の非居住者とは、以下のような方をいいます。
- 外国籍の個人で、日本に居住していない者
- 日本人であっても、1年以上海外に居住し、日本に生活拠点を持たない者
- 外国法人(本店所在地が海外にある法人)
つまり、国籍に関係なく、日本に生活拠点がなければ外為法上の「非居住者」と扱われます。
相続による不動産取得も「資本取引」に該当
外為法では、非居住者が日本国内の不動産を取得する行為は、「資本取引」に該当するとされています。これは売買や贈与による取得だけでなく、相続や遺贈による取得も含まれるため、金銭の授受がなくても報告義務が発生することがあります。
これは、日本国内の土地や建物の所有権が外国に移転すること自体が、日本の資本構造や安全保障に関わる重要な情報と位置づけられているためです。
報告が必要となる国際相続の典型的パターン
では、国際相続において実際に報告が必要となるのはどのようなケースでしょうか。以下の表にまとめました。
被相続人の居住地 | 相続人の居住地 | 報告義務の有無 | |
日本国内 | 海外(非居住者) | 報告が必要 | 非居住者による日本不動産の取得に該当 |
海外(非居住者) | 海外(非居住者) | 報告不要 | 日本の資本移動に直接関係しないため |
海外(非居住者) | 日本国内 | 報告不要 | 相続人が居住者であれば報告義務なし |
上記のとおり、判断の基準は「相続人(取得者)が非居住者かどうか」です。被相続人が日本に居住していたかどうかは直接の判断要素にはなりません。
国際相続で不動産を取得したときの、外為法の具体的な報告手続き
報告義務がある場合には、次のような手続きが必要です。
- 提出期限:不動産取得の日から20日以内(通常は相続登記が完了した日など)
- 提出先:日本銀行本店 国際局 外為法手続担当(郵送提出可)
- 提出書類:資本取引に関する報告書(日本銀行HPよりダウンロード可)
- その他:郵便切手を貼った返信用封筒、報告書控えなど
提出は相続人本人が行うことも、専門家が代理提出することも可能です。委任状の提出は不要ですが、手続きが複雑なため、専門家への依頼が安心です。
所得税法との「非居住者」定義の違いに注意
なお、「非居住者」という言葉は、所得税法でも使用されていますが、外為法とは定義や目的が異なります。
法律名 | 非居住者の定義 | 主な目的 |
外為法 | 日本に生活拠点を持たない者 | 資本取引の監視・報告義務 |
所得税法 | 日本に住所も1年以上の居所もない者 | 納税義務の有無の判定 |
したがって、税務では非居住者であっても、外為法では居住者とみなされることがあるため、実務上は慎重な判断が必要です。
よくあるご質問
Q:被相続人が日本に住んでおり、相続人が海外在住(非居住者)の場合は?
A:報告が必要です。非居住者が日本の不動産を取得することになるため、20日以内の報告が求められます。
Q:相続人が複数おり、1人だけが非居住者です。全員報告が必要ですか?
A:非居住者に該当する相続人のみが報告対象となります。他の居住者相続人には外為法上の報告義務はありません。
Q:被相続人も相続人もともに海外居住者ですが、日本の不動産が含まれている場合は?
A:このケースでは報告義務は不要です。ただし、相続登記や相続税の申告は別途必要です。
国際相続は、ただでさえ煩雑な相続手続きに、居住地や国籍の違いが加わることで、手続きや法的判断が複雑になります。特に外為法に基づく報告義務は、見落とされがちですが、提出を怠ると行政指導や罰則の対象となることもあるため、注意が必要です。
当事務所では、税理士・司法書士のダブルライセンスによるワンストップ対応を強みとして、以下のようなケースに対応しています。
- 海外在住の相続人による日本不動産の取得・登記
- 外為法に基づく報告書の作成と提出
- 相続税申告および納税管理人の選任
- 英語・中国語・ベトナム語など多言語の書類取得支援
国際相続のご不安は、専門家にご相談いただくことでスムーズに解決できます。まずはお気軽にお問い合わせください。

司法書士・税理士・社会保険労務士・行政書士
2012年の開業以来、国際的な相続や小規模(資産総額1億円以下)の相続を中心に、相続を登記から税、法律に至る多方面でサポートしている。合わせて、複数の資格を活かして会社設立や税理士サービスなどで多方面からクライアント様に寄り添うサポートを行っている。