Last Updated on 2025年5月11日 by 渋田貴正
相続が発生すると、預金の払戻し、不動産の名義変更、相続税申告など、多くの手続きが必要になります。これらの手続きを自分で行うのが難しい場合、誰かに代わりに動いてもらう必要があります。そうしたときによく出てくる言葉が「代理人」と「遺産整理受任者」です。
金融機関などで「どちらの立場ですか?」と聞かれて戸惑った経験がある方も少なくありません。実際、どちらも「相続人以外の第三者が手続きを代行する」という点では似ていますが、法律上の立場や責任範囲には明確な違いがあります。
「代理人」とは?基本的な意味と法的根拠
代理人とは、相続人本人に代わって一定の法律行為を行う人です。民法第99条に基づき、代理人が行った行為は本人が行ったのと同じ法律効果を持ちます。
(代理行為の要件及び効果)
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たとえば、相続人が遠方に住んでいる場合や、高齢で手続きが難しい場合などに、司法書士などが「代理人」として預貯金の解約や相続登記などの手続きを代行するケースが「代理人」としての手続きです。
<代理人の主な特徴>
- 相続人1人1人が個別に代理権を与える必要がある
- 委任状に基づいて特定の手続きを代行
- 範囲は委任契約に基づいて限定的
「遺産整理受任者」とは?
一方で、「遺産整理受任者」とは、相続人全員から包括的な委任を受けて、遺産全体の管理や分配までを行う人を指します。
従来は、遺産整理を職業専門家に一括で任せるには「遺産分割協議後に各相続人から個別委任を受ける」必要があり、煩雑でした。遺産整理受任者は、遺産分割協議がまとまる前に、もしくは遺産分割協議をまとめるために動く者といったイメージかもしれません。
<遺産整理受任者の主な特徴>
- 相続人全員の合意により一括委任が可能
- 財産の管理、債務の弁済、遺産分割の実行など広範な業務を包括的に受任
代理人と遺産整理受任者の違い
項目 | 代理人 | 遺産整理受任者 |
委任者 | 相続人ごと | 相続人全員から一括 |
業務範囲 | 委任契約で限定的 | 包括的に遺産管理・分配 |
金融機関での手続き | 委任状の提示が必須 | 包括的委任契約書で対応可能 |
相続登記との関係 | 相続人から個別委任が必要 | 登記には別途協力が必要なことも |
向いている場面 | 特定手続きのみ依頼したい場合 | 一括してすべて任せたい場合 |
専門家の就任 | 司法書士や税理士など | 弁護士がなるケースが多い |
税務や登記の観点から見る違い
税理士や司法書士が代理人として相続人の代わりに税務署に申告書を提出したり、登記所に相続登記の申請をすることはよくあります。ただし、あくまで「相続人の代理」であるため、複数の相続人がいる場合は、全員の委任状が必要になることが一般的です。
一方で、遺産整理受任者として包括的に業務を受任している場合は、相続税の申告や納付、準確定申告、債務の弁済、金融機関の解約、不動産の売却など、広い範囲の実務に対応することが可能です。
代理人と遺産整理受任者のそれぞれ適したケース
以下のようなケースでは、それぞれ適した方法があります。
【代理人が向いているケース】
- 手続きは限られた一部のみ(例:特定の銀行口座解約など)
- 相続人が1人だけ、または少人数で連絡が容易
- すでに遺産分割協議がまとまっている
【遺産整理受任者が向いているケース】
- 相続人が多数いて調整が困難
- 遺産分割をまとめる手助けもしてほしい
- 手続きが多岐にわたる(不動産、税務、金融、年金など)
- 高齢の相続人が多く、一括して任せたい
「代理人」と「遺産整理受任者」はいずれも相続手続きをスムーズに進めるための制度ですが、依頼者の状況やニーズに応じて選ぶべき方法が異なります。
たとえば、すでに遺産分割協議が済んでいて、特定の銀行口座の解約や相続登記など、限られた手続きだけを依頼したいという場合は、「代理人」を選ぶのが適しています。相続人が1人しかいない場合や、他の相続人の協力が容易な場合にも、委任状だけでシンプルに対応できるため、費用も比較的抑えられる傾向にあります。
一方で、相続人が多数いて連絡を取り合うのが難しい場合や、財産の種類が多く(預金、不動産、有価証券など)、それぞれの手続きが煩雑な場合には、「遺産整理受任者」に一括して依頼するのがおすすめです。特に、高齢の相続人や遠方に住んでいる相続人が多い場合、相続手続き全体を任せられるのは大きなメリットです。包括的な管理と調整を行えるため、相続人間の調整役としても機能し、トラブルの防止にもつながります。
代理人も遺産整理受任者も、信頼できる専門家に任せることで、煩雑な手続きを安心して進めることができます。当事務所では、相続人の状況に合わせて最適な方法をご提案し、円滑に手続きが進むようお手伝いいたします。
相続手続に不安を感じている方、遠方に住んでいて時間が取れない方、ご高齢や日中働いていて外出が難しい方など、お気軽にご相談ください。

司法書士・税理士・社会保険労務士・行政書士
2012年の開業以来、国際的な相続や小規模(資産総額1億円以下)の相続を中心に、相続を登記から税、法律に至る多方面でサポートしている。合わせて、複数の資格を活かして会社設立や税理士サービスなどで多方面からクライアント様に寄り添うサポートを行っている。