Last Updated on 2025年12月9日 by 渋田貴正
未成年の子が財産を取得した場合、その財産は原則として親権者が管理します。親権者は子の財産を管理し、法律行為について子を代表する立場にあるためです。そのため、相続や遺贈、贈与によって子が財産を取得すると、通常は父母のいずれか、または共同で管理することになります。
| 民法 (財産の管理及び代表) 第824条 親権を行う者は、子の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為についてその子を代表する。ただし、その子の行為を目的とする債務を生ずべき場合には、本人の同意を得なければならない。 |
しかし、「再婚相手に子の財産を使い込まれないか心配」「元配偶者に管理させたくない」「第三者の目で管理してほしい」といった事情もあるケースがあります。こうした場合に使われるのが、遺言によって特定の親権者に管理させない、あるいは第三者を管理者として指定する方法です。
遺言で親権者の財産管理権のみを排除できる
民法では、第三者が無償で未成年の子に財産を与える場合、親権者に管理させない意思表示ができると定めています。ここでいう「無償」とは対価を伴わないもので、贈与や遺贈が典型例です。
| 民法 (第三者が無償で子に与えた財産の管理) 第830条 1.無償で子に財産を与える第三者が、親権を行う父又は母にこれを管理させない意思を表示したときは、その財産は、父又は母の管理に属しないものとする。 2.前項の財産につき父母が共に管理権を有しない場合において、第三者が管理者を指定しなかったときは、家庭裁判所は、子、その親族又は検察官の請求によって、その管理者を選任する。 3.第三者が管理者を指定したときであっても、その管理者の権限が消滅し、又はこれを改任する必要がある場合において、第三者が更に管理者を指定しないときも、前項と同様とする。 |
重要なのは、この「第三者」には、父母の一方も含まれる点です。たとえば父が自分の財産を遺言で子に遺贈し、その管理を母にさせたくないと考えた場合、父はここでいう第三者として管理排除の意思表示をすることができます。
また、父母以外の祖父やその他の親族などが未成年の子に遺言を残したい場合、父母の双方を排除することも、一方のみを排除することも可能です。一方の親権者だけを排除した場合、他方が単独で管理することになります。
親権者双方に管理させない意思表示をすると、子の財産を管理する人がいなくなります。この場合、遺言で管理者を指定しておくことが非常に重要です。遺言で管理者が指定されていない場合、家庭裁判所が管理者を選任することになります。裁判所主導の手続きは時間や手間がかかり、相続後すぐに財産を動かせないケースもあります。そのため、実務では遺言の中で親権者の代わりに財産を管理する者を具体的に指定しておくことが必須です。
| 遺言の内容 | 財産を管理する人 |
|---|---|
| 親権者への管理排除なし | 父母が親権者として管理 |
| 一方の親権者のみ管理排除 | 排除されていない親権者が管理 |
| 父母双方を管理排除+管理者指定あり | 遺言で指定された管理者 |
| 父母双方を管理排除+管理者指定なし | 家庭裁判所が選任した管理者 |
死亡後に残された親権者が家庭裁判所で管理権を回復できるのか
ここで多くの方が疑問に思うのが、「遺言で管理権を奪われた親が、死後に家庭裁判所へ申し立てて管理権を取り戻せるのか」という点です。この点について、民法上「管理排除の意思表示を取り消して回復させる」制度が明確に用意されているわけではありません。遺言による管理排除は、遺言者の最終意思として強く尊重されるのが原則です。
ただし、実務上は、事情変更があれば家庭裁判所の関与がまったく排除されるわけではありません。たとえば、
・指定された管理者が不適切な管理をしている
・管理者が死亡、行方不明、著しく不適任となった
・子の利益を著しく害する事情が生じた
といった場合には、子や親族などの申立てにより、管理者の変更や解任が問題となる余地があります。ただし、単に「自分が管理したい」「気が変わった」という理由だけで、遺言による管理排除が当然に無効になるわけではありません。
もっとも、指定された管理者が死亡した場合や著しく不適切となった場合には、家庭裁判所が新たな管理者を選任することになります。その結果として、事情次第では親権者が管理者に指定される可能性が全くないわけではありませんが、これは遺言による管理排除が当然に撤回されるという意味ではありません。
そのため、遺言で管理権を排除された親権者にとっては「家裁に申し立てれば簡単に管理権を回復できる」と考えるのは危険です。遺言で管理を排除する段階で、将来のトラブルも見据えた設計が不可欠です。
未成年の子を守るための遺言であっても、管理権を巡る問題は親同士の感情的対立に発展しやすい分野です。だからこそ、「誰を排除するか」だけでなく、「誰に任せるか」「任せ続けられなくなった場合はどうするか」まで考えた遺言が重要になります。実務では、遺言の書き方ひとつで、相続後に家庭裁判所の手続きが増えるか、スムーズに管理が進むかが大きく変わります。当事務所では、未成年の子を守る遺言設計から、相続後の実務対応までを見据えた遺言作成を、司法書士として丁寧にサポートしています。将来のトラブルを避けたい方は、一度専門家へご相談ください。

司法書士・税理士・社会保険労務士・行政書士
2012年の開業以来、国際的な相続や小規模(資産総額1億円以下)の相続を中心に、相続を登記から税、法律に至る多方面でサポートしている。合わせて、複数の資格を活かして会社設立や税理士サービスなどで多方面からクライアント様に寄り添うサポートを行っている。
