Last Updated on 2025年5月4日 by 渋田貴正

「親から子へ」「知人から友人へ」。不動産や高額なモノ(車・骨董品など)を個人間で時価よりも安い価格で譲り渡すケースは珍しくありません。しかし、単純に安く売るだけでは済まないのが日本の税制と登記制度。知らずに行うと、思わぬ贈与税や譲渡所得税、登録免許税が発生することもあります。

時価より安く譲渡すると「贈与」とみなされる

たとえば、市場価格3,000万円の土地を1,000万円で息子に売却したとします。この場合、「売買」と言いつつ、差額2,000万円については贈与と見なされます。

贈与又は遺贈により取得したものとみなす場合)
相続税法 第7条著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合においては、当該財産の譲渡があつた時において、当該財産の譲渡を受けた者が、当該対価と当該譲渡があつた時における当該財産の時価(中略)との差額に相当する金額を当該財産を譲渡した者から贈与(当該財産の譲渡が遺言によりなされた場合には、遺贈)により取得したものとみなす
(後略)

【事例】安価譲渡の贈与税判定(イメージ表)

時価 譲渡価格 差額
3,000万円 1,000万円 2,000万円が贈与税の課税対象

ここで気になるのが、「著しく低い価額」がいくらかという点です。この点について明確に法律で定められた基準はありませんが、一つの指標としては以下の目安が用いられています。

判定基準 内容
概ね時価の70%未満 一般的に「著しく低い」と判断されやすい。
時価の50%以下 ほぼ確実に贈与とみなされる(否認リスクが高い)。

この70%や50%といった基準は、個人の棚卸資産の低額譲渡(70%)や個人から法人への低額譲渡(50%)に関する考え方を参考にしており、不動産の低額譲渡でも目安として活用されています。ただし、あくまで参考基準であり、具体的事案ごとに総合的に判断されます。

贈与税だけじゃない!元の持ち主には譲渡所得税が課税される

不動産の売却には譲渡所得税も関係します。安く売っても、売主が取得費より高く売った場合、利益に対して所得税・住民税がかかります。

【譲渡所得の計算式】

譲渡価格 -(取得費+譲渡費用)= 譲渡所得

たとえば、取得費500万円の土地を1,000万円で譲った場合、500万円が譲渡所得となります。

※所有期間が5年超なら長期譲渡所得(税率20%程度)、5年以下なら短期譲渡所得(税率39%程度)になります(所得税法第31条)。

登録免許税と不動産取得税も発生する

不動産の名義変更には登録免許税と不動産取得税がかかります。

【登録免許税の概要】

売買:固定資産税評価額 × 2%(租税特別措置法第72条) 贈与:固定資産税評価額 × 2%

なお、売買価格が安くても登録免許税の基礎は「固定資産税評価額」なので注意が必要です。

また、不動産取得税も固定資産税評価額×3%(または4%)を基準に算出されます。

【登記に必要な書類】

  • 売買契約書または贈与契約書
  • 固定資産税評価証明書
  • 登記識別情報(権利証)
  • 印鑑証明書

贈与が成立した場合は贈与税申告書、譲渡所得が出た場合は確定申告書も必要です。

さらに、贈与税については基礎控除110万円を超える部分に課税されます。

【税金のまとめ表】

  • 時価:3,000万円
  • 譲渡価格:1,000万円
  • 取得費:500万円
税金の種類 課税される人 課税対象額 備考
贈与税 買主(譲受人) 2,000万円(時価3,000万円 - 譲渡価格1,000万円) 相続税法第7条により「時価との差額」が贈与とみなされる
譲渡所得税 売主(譲渡人) 500万円(譲渡価格1,000万円 - 取得費500万円) 所得税法第31条に基づき課税。所有期間により税率が異なる
登録免許税 買主(譲受人) 固定資産税評価額×2% 租税特別措置法第72条
不動産取得税 買主(譲受人) 固定資産税評価額×3%(または4%) 地方税法第73条の2

不動産や高額資産を安く譲り渡す行為は、単なる売買では済まない税務・法務上のリスクが多く潜んでいます。特に親族間や知人間の取引は、税務署に目をつけられやすいため、事前の計画と正確な申告・登記が必要です。

「税金も登記も両方対応できる専門家」に依頼することが、安心・安全な資産移転のカギと言えるでしょう。

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