Last Updated on 2025年12月1日 by 渋田貴正
アメリカ、カナダ、イギリス、フィリピンなど、多くの国では「プロベート」が遺言執行の必須手続きとなっています。プロベートとは、遺言の有効性を裁判所で確認し、遺産管理人(エグゼキューター)を任命し、相続財産を調査・清算する一連の手続きです。
国によって細かな違いはありますが、共通する特徴は次のとおりです。
・手続きが裁判所主導で進むため時間がかかる
・相続財産や遺言が公開される(公開制度)
・一定の費用が発生する
・海外資産も対象となる場合がある
特に日本に住んでいる外国籍の方の場合、母国のプロベート制度が日本の財産に影響してしまうことがあり、「日本にある財産だけでも日本のルールで処理したい」というニーズが増えています。
そこで有効な手段の一つなのが死因贈与契約です。死因贈与契約が遺言よりも「確実性が高い」と評価されるのは、内容が生前の合意によって契約として固定されるため、後から争われる可能性が低いことが大きな理由です。遺言は変更や撤回が容易ですが、死因贈与契約は双方の合意が前提となるため、途中で意思内容が覆りにくく、贈与者の意思がそのまま死後に反映されやすいという特徴があります。さらに、公正証書で作成する場合には、公証人が本人の意思能力や契約内容を厳格に確認するため、手続き自体に高い証明力が生まれます。これは、特に親族間で将来トラブルが生じやすい国際相続において強みとなります。
また、金融機関や法務局では公正証書による死因贈与契約を遺言書と同等に扱うことが多く、死亡後の不動産登記や預貯金の払戻しなどの実務が安定してスムーズに進みます。加えて、相続ではなく「契約」として扱われるため、外国籍の方の場合でも本国のプロベート制度の影響を受けにくいという利点があります。このように、内容の確実性、手続きの証明力、実務での扱いやすさ、国際的な効力の安定性が相まって、死因贈与契約は遺言よりも確実性が高いといわれています。
死因贈与契約とは何か
死因贈与契約とは、生前に「死亡したら財産を渡す」という契約を締結し、死亡を条件として効力が発生する制度です。遺言が「本人だけの意思表示」で成立するのに対し、死因贈与契約は「贈与者と受贈者の合意」によって成立します。
契約である以上、国籍に関係なく、本人が日本にいる状態で自由意思に基づいて契約すれば、日本法に基づく有効な死因贈与契約となります。ここが、外国籍の方にとって利用しやすいポイントです。
なぜ死因贈与契約がプロベート回避につながるのか
最大の理由は、死因贈与が「相続ではなく契約」に分類されるという制度的な違いにあります。相続は国際私法上、被相続人の本国法が準拠法となるため、外国籍の方の場合、死亡後の手続きが母国の相続法やプロベート制度に左右される可能性があります。特にアメリカやフィリピン、カナダ、イギリス、インドなど、プロベートが必須の国では、遺言が存在しても裁判所による検認・承認手続きが避けられず、日本の財産がその対象に含まれるかどうかで大きく混乱が生じることがあります。
しかし死因贈与は「契約」です。契約はどこで締結されたか、どの法律が適用されるかが明確で、日本で作成された死因贈与契約は日本法が適用されるのが原則となります。つまり、日本の財産については、日本法による契約として処理されるため、母国の相続制度の影響を受けにくいという大きなメリットがあるのです。とくに、プロベートに巻き込まれると財産調査や裁判所管理、資産凍結などが発生する国では、死因贈与契約がプロベート回避の強力なルートとして機能します。
遺言と死因贈与との比較
死因贈与契約と遺言は、どちらも有効な財産承継手段ですが、性質が異なります。
| 遺言(公正証書) | 死因贈与契約(公正証書) | |
| 成立方法 | 本人のみで成立 | 当事者双方の合意で成立 |
| 撤回のしやすさ | 自由に変更・撤回が可能 | 原則として一方的撤回は不可 |
| プロベートとの関係 | 本国法次第で影響あり | 契約扱いで影響を受けにくい |
| 日本での実務 | 広く普及している | 遺言と同様に扱われるケースが増えている |
簡単に言えば、「柔軟性は遺言、確実性は死因贈与」というイメージです。
外国籍の方が死因贈与を利用しても問題はないのか
この点については、もっともよくいただく質問です。結論としては、日本法に基づき日本で死因贈与契約を結ぶ限り、外国籍であってもまったく問題ありません。
特に次のような理由から、外国籍の方でも安定して利用できる制度と評価されています。
・日本法が適用される「契約」であり、本国法(相続法)の影響を受けにくい
・公証役場で作成されるため、日本の金融機関・法務局から信頼性が高く扱われる
・国籍による制限は一切ない
・日本語が不安な場合は通訳を入れて作成できる
実務では、アメリカ国籍、フィリピン国籍、カナダ国籍、イギリス国籍など、幅広い国の方が日本の不動産や預貯金について死因贈与契約を作成しています。母国のプロベートが重たい国ほど、死因贈与契約を選ぶ傾向が強く、死亡後の手続きも日本国内で完結するケースが多いのが特徴です。
死因贈与契約を成功させるためには、個別事情に応じた設計が欠かせません。不動産の特定方法、預貯金の範囲の明確化、未成年の受贈者がいる場合の利益相反の調整、執行者の選任など、細かい点をしっかり固める必要があります。
「とりあえず名前だけ入れておけば大丈夫」というものではなく、将来の相続手続きを左右する重要な契約ですので、専門家のサポートを受けながら作成することが望ましいといえます。
日本の財産を確実に子どもへ承継したい、できれば母国のプロベートは避けたいという場合、死因贈与契約は非常に有効な選択肢です。遺言と併用することで、さらに確実性が高まることもあります。
当事務所では税理士・司法書士として、死因贈与契約、遺言、公正証書手続き、不動産登記、税務申告まで一括でサポートしております。外国籍の方の相談実績も豊富ですので、まずはお気軽にお問い合わせください。

司法書士・税理士・社会保険労務士・行政書士
2012年の開業以来、国際的な相続や小規模(資産総額1億円以下)の相続を中心に、相続を登記から税、法律に至る多方面でサポートしている。合わせて、複数の資格を活かして会社設立や税理士サービスなどで多方面からクライアント様に寄り添うサポートを行っている。
