Last Updated on 2025年11月8日 by 渋田貴正
不動産の名義変更や売却登記を行う際に必要となる「登記識別情報」(旧・権利証)を紛失してしまったという相談は多くあります。
結論から言えば、登記識別情報を失くしても登記そのものができなくなるわけではありません。
本人確認を別の方法で行う「代替手続き」が用意されているからです。登記識別情報を紛失した場合の対応方法を、司法書士の実務経験に基づいてわかりやすくご説明します。
そもそも登記識別情報とは
登記識別情報とは、不動産の所有者(登記名義人)が登記を完了した際に、法務局から交付される12桁の英数字による符号です。これは登記名義人が本人であることを確認するための「本人確認キー」のような役割を持っています。
登記識別情報は、主に売買・贈与・抵当権設定・抵当権抹消など、登記名義人が自ら登記申請を行う(=登記義務者となる)登記で必要になります。
一方で、相続登記のように「登記名義人が死亡しているため本人確認が不要な登記」では、登記識別情報は使われません。相続登記では、被相続人の登記識別情報を提出する代わりに、戸籍関係書類などで相続関係を証明します。
以前は紙の「登記済証(権利証)」が交付されていましたが、2005年(平成17年)3月7日施行の新不動産登記法から制度が電子化され、登記識別情報という形で通知書が発行されるようになりました。
つまり、2005年3月7日以降に登記された不動産には「登記識別情報」が交付され、それ以前の登記では「登記済証」が交付されています。
重要なのは、登記識別情報は一度交付されると再発行はできません。紛失した場合は、次のいずれかの代替手続きを利用します。
登記識別情報を紛失した場合の登記時の対応方法(代替手続き)
登記識別情報を紛失した場合には、主に次の3つの方法のいずれかで対応します。
どの方法を選ぶかは、取引の内容やスケジュールによって判断されます。
① 事前通知制度を利用する方法
登記申請時に「登記識別情報を提供できない」旨を申請書に記載すると、法務局から登記名義人宛てに「登記申請がありました」という通知が郵送されます。
登記名義人本人が2週間以内に異議を述べなければ、登記が完了するという仕組みです。
ただし、通知が届いても放置すると申請が却下されるため注意が必要です。
② 司法書士による本人確認情報の提供
司法書士が登記名義人と面談し、本人確認書類を確認のうえで「本人であることを確認した」旨の書類(本人確認情報)を作成して登記申請に添付する方法です。
手続きがスムーズで、売買や相続、担保設定など実務上もっとも多く採用されています。
費用はかかりますが、取引期日が迫っている場合には最も安全で確実な方法です。
③ 公証人の認証を利用する方法
登記名義人が公証役場に出向き、署名・押印の上で公証人の認証を受けることで、本人確認を代替する方法です。
時間や手間はかかりますが、司法書士を介さずに進めたい場合に選択されることもあります。
| 方法 | 主な特徴 | メリット | デメリット |
| ① 事前通知制度 | 法務局が本人に通知し、異議がなければ登記可能 | 登記官が本人確認を行うため追加費用が少ない | 郵送期間(約2週間)がかかる。売買など急ぎの取引には不向き |
| ② 司法書士の本人確認情報 | 司法書士が面談・確認して登記を進める | 手続きが早く、取引期日に間に合う。実務で一般的 | 本人確認書類や面談が必要。作成費用が発生する |
| ③ 公証人の認証 | 公証役場で認証を受ける | 司法書士に依頼しなくてもよく、コストも低い | 公証役場への出頭が必要で手間と費用がかかる |
登記識別情報を紛失した場合に、登記以外のタイミングで代替書類は作成できる?
実務上、「登記識別情報を紛失しているので、あらかじめ代わりの書類を作成しておきたい」というご相談をいただくことがあります。
しかし、このような事前に作っておける代替書類というものは存在しません。
登記識別情報の代替手続き(事前通知・本人確認情報・公証人認証)は、実際に登記を申請するタイミングでしか作成できない書類です。
理由は、登記申請の具体的内容(誰から誰に、どの不動産を、どんな原因で移転するか)が確定しなければ、本人確認の証明として成立しないためです。
したがって、将来の売却や相続に備えて「いまのうちに登記識別情報の代わりになる本人確認情報だけ作っておく」といったことはできません。
もし紛失に気づいた場合は、実際の登記を行う段階で、司法書士がその都度対応することになります。
抵当権抹消時に登記識別情報を紛失している場合の注意点
抵当権抹消登記では、通常、抵当権者(金融機関など)が登記義務者、所有者が登記権利者となります。
通常であれば、抵当権者が登記識別情報(または登記済証)を提出するため、印鑑証明書の添付は不要です。
しかし、抵当権者が登記識別情報を紛失している場合には、本人確認のために次のような対応が必要になります。
| 書類 | 目的 |
|---|---|
| 抵当権者の実印を押した委任状 | 登記義務者本人の意思確認 |
| 抵当権者の印鑑証明書 | 実印が本人のものであることの証明 |
つまり、登記識別情報の代わりに実印+印鑑証明書で本人確認を補完する形になります。所有権者が登記義務者になる場合はもともと委任状に売主の実印が必要ですが、抵当権者も登記識別情報を紛失している場合は、抵当権抹消時に委任状に実印が必要になるということです。
金融機関が登記識別情報を紛失するということは考えられませんが、個人が抵当権者の場合などには注意しましょう。
登記識別情報を紛失しても、登記は必ず行えます。
再発行はできませんが、司法書士による本人確認情報の作成などで問題なく進められます。
当事務所では、司法書士・税理士の両資格を有する専門家が、登記識別情報紛失から登記完了、所得税や贈与税など税金申告までをワンストップでサポートしています。
登記の流れや必要書類の整理、取引先との調整まで丁寧に対応いたしますので、安心してお任せください。
登記識別情報を紛失してお困りの方は、どうぞお気軽にご相談ください。

司法書士・税理士・社会保険労務士・行政書士
2012年の開業以来、国際的な相続や小規模(資産総額1億円以下)の相続を中心に、相続を登記から税、法律に至る多方面でサポートしている。合わせて、複数の資格を活かして会社設立や税理士サービスなどで多方面からクライアント様に寄り添うサポートを行っている。
