Last Updated on 2025年10月14日 by 渋田貴正
海外の出生証明書とは、外国の公的機関が発行する出生の事実を証明する書類です。日本の「出生証明書」や「出生届受理証明書」に相当するもので、氏名、生年月日、出生地、両親の氏名などが記載されています。
相続手続きにおいては、被相続人(亡くなった方)や相続人が外国で出生している場合に、身分関係や相続人の同一性を証明するために使用されます。
日本でも出生証明書という書類は存在しますが、日本国籍を有している方の相続手続きでは、原則として出生証明書を提出することはありません。これは、日本には戸籍制度があるためです。戸籍には出生から死亡までの身分関係が一元的に記録されており、相続人や続柄の証明は戸籍で完結するため、出生証明書を使う場面は通常ありません。
一方で、外国籍の被相続人や相続人が関係する相続では、出生証明書が非常に重要な書類となります。戸籍制度が存在しない国では、出生証明書が親子関係を示す唯一の公的な書類となることも多く、日本での相続登記や税務申告でも不可欠な証明資料となります。
相続手続きで出生証明書が必要になる場面
例えば、被相続人が日本国籍を持たず、外国で出生した外国籍の方であるケースでは、日本の法務局に相続登記を申請する際、出生証明書を提出しないと親子関係が証明できず、登記や金融機関の解約手続きが進められません。
また、相続税申告でも、法定相続人の範囲を明らかにするために出生証明書が重要な役割を果たします。
海外の出生証明書は、主に以下の場面で提出が必要です。
提出先 | 使用目的 | 併せて必要となる書類例 |
法務局 | 相続登記で相続人の身分関係を証明 | 日本語訳、宣誓供述書、死亡証明書など |
税務署 | 相続税申告で法定相続人の確認 | パスポート、在留証明、他国の身分証明など |
銀行等金融機関 | 相続口座の名義変更手続き | 死亡証明書、相続関係説明図、各種証明書類 |
翻訳は日本語への正確な翻訳が必要であり、自己翻訳でも形式的には可能ですが、実務では専門家や翻訳会社による翻訳証明付きの書類を提出するケースが多くなっています。
また、提出先によっては公証やアポスティーユ認証など、国際的な認証手続きを求めてくる可能性もあるため、早めの準備が重要です。
例えば、相続人の一人がアメリカで出生し、日本に戸籍がない外国籍の方である場合を考えてみます。
この場合、法務局への相続登記の申請時に、出生証明書と日本語訳、公証書類を提出し、相続関係を証明する必要があります。
翻訳や認証には時間がかかるため、死亡後すぐに書類の収集を開始しないと、登記申請や税務申告の期限に間に合わないおそれがあります。
実務上は、被相続人の死亡直後から、海外の出生証明書・死亡証明書・婚姻証明書など一連の証明書類を並行して収集するのが理想です。
外国が発行した出生証明書の取得方法
出生証明書の取得方法は国によって異なりますが、主な流れは次のようになります。
- 出生地の役所(市役所、州政府など)や国の戸籍担当機関に申請
- 必要に応じて本人確認書類を提出
- 認証や翻訳を経て書類を取得
アメリカでは州ごとにVital Records Office(公的記録事務所)があり、郵送またはオンラインで申請できます。
中国では出生地の公安機関や戸籍管理部門で「出生医学証明書」を取得するのが一般的です。
ヨーロッパ諸国では、出生証明書は市役所やRegistry Office(戸籍登記所)が発行します。
申請者本人が現地にいなくても、代理人や家族が取得できるケースがありますが、委任状や身分証の提出が求められることが多いです。国によっては現地の公証人による委任状認証が必要になる場合もあります。
一般的に出生証明書に記載されている事項
出生証明書の形式や記載内容は国によって異なりますが、一般的には次のような事項が記載されています。
記載項目 | 内容の例 | 相続手続き上の意味 |
本人の氏名 | 出生時に登録された本人の正式な氏名 | 相続人本人の特定に使用 |
生年月日 | 出生年月日(西暦表記が多い) | 戸籍がない場合の身元確認、相続人の同一性証明 |
出生地 | 国名・都市名・州名など | 国籍・居住地確認、他の証明書との照合 |
両親の氏名 | 父母双方またはいずれか | 親子関係の証明(相続人関係の基礎資料) |
両親の出生地・国籍 | 国によって記載あり | 相続関係説明図や法定相続人の確認資料になる |
登録日・発行日 | 出生届提出日・証明書発行日 | 証明書の有効性・最新版かどうかの判断 |
記録番号や登録番号 | 行政上の登録番号 | 証明書の真正性の確認に利用 |
特に重要なのは、両親の氏名と本人の氏名・生年月日です。日本の戸籍のように続柄(長男・長女など)が明記されていない国も多く、その場合は出生証明書を基礎資料として、婚姻証明書や家族関係証明書など他の書類を組み合わせて親子関係を証明する必要があります。
また、出生証明書の発行日が古い場合には、金融機関や法務局で追加の証明を求められることもあるため、相続手続きではなるべく最新版を取得することが望ましいです。
また、出生証明書はもちろん現地国の言語で書かれているので、日本の各提出先に提出する場合には和訳を付けることが必要です。
外国で発行される出生証明書の代理取得は可能か
多くの国では、代理取得は原則として可能です。ただし、必要な手続きや書類は国ごとに大きく異なります。主なポイントは以下のとおりです。
- 委任状が必要(現地言語での作成+認証が求められることもある)
- 本人の身分証明書やパスポートのコピーを提出
- 現地の役所によっては家族のみ代理可能とする場合もある
例えばアメリカでは、代理人が出生証明書を取得する場合、州によっては公証済みの委任状を添付しなければなりません。
一方、中国では親族が代理で申請することが比較的容易ですが、非親族の代理には追加の公証が求められる場合があります。
日本から代理で取得を行う場合、現地の弁護士や公証人を通じて手続きを進めることも可能です。特に相続登記や税務申告の期限が迫っている場合は、早期に代理取得の準備をすることが重要です。
海外出生の相続人がいる場合海外の出生証明書は、相続登記や税務申告の根拠資料として欠かせない書類です。しかし、国によって取得の手間や必要書類が異なるため、個人で手続きを行うのは負担が大きいのが現実です。
当事務所では、海外の証明書取得や翻訳、公証・アポスティーユ対応、登記・税務申告までワンストップでサポートしています。複雑な国際相続の手続きは、早めに専門家にご相談ください。

司法書士・税理士・社会保険労務士・行政書士
2012年の開業以来、国際的な相続や小規模(資産総額1億円以下)の相続を中心に、相続を登記から税、法律に至る多方面でサポートしている。合わせて、複数の資格を活かして会社設立や税理士サービスなどで多方面からクライアント様に寄り添うサポートを行っている。