Last Updated on 2025年10月7日 by 渋田貴正

借地権の対抗力」とは、借地権が設定されている土地が第三者に譲渡されたり抵当権が設定された場合に、借地権者がその第三者に対して自分の権利を主張できるかどうか、という問題です。
通常、権利を第三者に主張するには登記が必要ですが、借地権の場合には特別な制度があります。それが借地借家法10条1項の規定です。

借地借家法10条1項では、建物の所有を目的とする地上権または土地賃借権について、たとえ借地権そのものに登記がなくても、借地上に借地権者が所有し登記をしている建物があれば、第三者に対して借地権を主張できると定めています。
つまり、

  • 借地権自体を登記する
  • 借地上の建物の所有権登記をする
    のいずれかによって対抗力を得られるということです。
対抗力の有無 登記の種類 対抗可能な相手
あり 借地権の登記 または 建物所有権の登記 土地の譲受人・抵当権者など第三者
なし 登記なし、または他人名義の登記 第三者に借地権を主張できない

建物登記の名義が重要な理由

借地権の対抗力を得るためには、建物の登記が借地権者本人の名義である必要があります。
例えば、将来の相続を考えて子や配偶者の名義で建物を登記してしまうと、その建物は借地権者の所有ではないため、借地権の対抗力は生じません(最大判昭和41年4月27日)。

この点は、遺言や相続でも重要な争点になり得ます。たとえば、土地は被相続人が賃借していたが、建物は法人名義で登記されている、というケースがあります。この場合、遺言で「借地権を相続人に承継させる」と書かれていても、建物が法人名義である以上、借地権の対抗力は相続人に承継されない可能性があります。借地権と建物登記の名義が一致しているかどうかは、登記実務上も非常に重要なチェックポイントです。

対抗力が問題となる典型的な場面

借地権の対抗力の有無が実務上問題となるのは、次のような場面です。

場面 対抗力が問題となる理由
土地の譲渡 新しい土地所有者に対して借地権を主張できるか
抵当権設定・競売 抵当権者や競落人に対して借地権を維持できるか
相続・遺言 建物名義と借地権者が異なる場合の承継の可否
建物の名義変更 名義人変更による対抗力喪失のリスク

特に「相続・遺言」に関しては、建物が法人名義で借地権が個人名義という構造になっている場合、遺言で個人から相続人に借地権を移しても、建物が相続されないため、対抗力を失うリスクがあります。実務では、建物と借地権の名義関係を整理した上で、遺言や登記内容を調整する必要があります。

建物登記の内容が少し違っている場合の扱い

建物登記に記載された所在地番や床面積が多少誤っている場合でも、建物の種類や構造、床面積などの記載とあわせて、同一性が認められれば対抗力は有効とされています。
つまり、形式的な誤記があるだけで直ちに対抗力を失うわけではなく、実質的にその建物を特定できるかどうかが判断基準となります。

借地権の及ぶ範囲と複数筆の土地

建物登記がある場合でも、借地権の対抗力がどの範囲の土地に及ぶかは別問題です。
一筆の土地の一部に建物がある場合は、原則としてその一筆全体に借地権が及びますが、複数筆の土地を賃借している場合は注意が必要です。

最高裁昭和40年6月29日判決は、甲・乙2筆の土地のうち建物が甲地にしか登記されていない場合、原則として乙地には対抗力が及ばないとしています。
ただし、最高裁平成9年7月1日判決では、ガソリンスタンドの例で、両筆が一体的に利用されており乙地がなければ営業が成り立たないなどの特別な事情がある場合には、乙地についても明渡請求が権利濫用として認められないと判断されました。

遺言や名義が異なる場合の実務上の注意点

今回のように、建物が法人名義で借地権が被相続人個人名義というケースでは、遺言で借地権を相続人に移そうとしても、借地借家法10条1項の対抗力が働かないため、第三者に対して権利を主張できなくなるおそれがあります。
この場合、以下のような対応が考えられます。

問題 実務上の対応例
借地権と建物の名義が不一致 名義の統一を検討(建物所有権移転登記や借地権移転登記)
遺言で借地権のみ相続させたい 建物の帰属・利用関係を遺言書で明確化、登記上の調整
法人所有建物を前提とする借地権の相続 法人と相続人の関係を整理し、必要に応じて契約や登記を見直す

借地権の対抗力は、登記の有無や名義の一致といった一見形式的な点で結果が大きく変わる、非常に重要な法律問題です。相続や遺言、法人との関係が絡むと一層複雑になります。当事務所では、税理士・司法書士の立場から、借地権と建物の登記関係、相続・遺言との整合性まで一貫してサポートいたします。相続や登記でお困りの方は、ぜひお気軽にご相談ください。