Last Updated on 2025年10月2日 by 渋田貴正

国際相続において、最初に直面する大きな課題が「死亡証明書(Death certificate)」の取得です。被相続人が海外で亡くなった場合、現地で発行された死亡証明書を日本での相続手続きや相続税申告、不動産登記に利用することになります。
しかし、死亡証明書の代理取得は国ごとに制限があり、認証や翻訳といった追加手続きも不可欠です。そのため、事前の確認と計画的な対応が非常に重要となります。

海外での死亡証明書取得の流れ

被相続人が国外で亡くなった場合、まず現地の医師や役所が死亡診断書・死亡証明書を発行します。これをもとに日本大使館や領事館を通じて届出を行い、日本の戸籍に「死亡」の事実が記載されます。ただし戸籍に反映されるまでには通常1か月程度かかるため、相続登記や相続税申告に直結する場合には早めの対応が欠かせません。

さらに、日本で使用するには提出先に応じて以下の手続きが必要になる場合があります。

手続き 内容 注意点
アポスティーユ認証 ハーグ条約加盟国の場合、現地で認証を受ける 取得に数日~数週間かかる
領事認証 非加盟国では大使館・領事館の認証が必要 国によって手続きが煩雑
翻訳 日本語に翻訳し添付 専門性のある翻訳が望ましい
戸籍反映 大使館経由で届出 反映まで時間がかかる

外国発行の死亡証明書の代理取得の制約

国によっては死亡証明書の請求権者を厳しく限定しており、代理人が取得できない場合があります。例えば、直系の親族や配偶者に限定されることが多く、司法書士や税理士といった専門家が直接請求できない国もあります。

また、現地で代理取得が認められていても、日本での登記や税務申告に利用する際に「有効書類」と認められないケースもあるため、利用可能性を確認することが必須です。

国別によくある制限

以下は、実務上よく見られる国別の制限の一例です。国や地域ごとに制度は異なるため、実際には現地当局への確認が必要です。

国・地域 制限内容 備考
アメリカ(州による) 配偶者・直系親族のみ請求可。第三者は原則不可 弁護士でも取得できない場合あり
中国 家族関係を示す書類を提出する必要あり 公証書を併せて求められるケース多い
インド 原則として遺族のみ。外国人代理人の請求は困難 手続きに長期間かかる
欧州諸国(フランス・ドイツ等) 親族または法定代理人に限定 弁護士の委任状で認められる場合あり
ブラジル 直系家族以外は不可。司法書類で裏付けが必要 公証制度の関与が多い

このように、国ごとに「誰が請求できるか」「どの書類が必要か」が異なるため、代理人を通じた取得が難航するケースは少なくありません。

代理取得を円滑に進めるためのポイント

代理取得や証明書利用をスムーズに進めるためには、以下の点を押さえておくことが有効です。

表:代理取得の成功ポイント

ポイント 内容
制度確認 国・地域ごとの請求権者の制限を確認
委任状整備 代理取得に必要な委任状や本人確認資料を準備
認証・翻訳 アポスティーユや領事認証、日本語訳を早めに依頼
専門家活用 国際相続に詳しい司法書士・税理士に依頼し期限遅延を防止

署名証明書(サイン証明書)の位置づけ

相続人が海外に住んでいる場合、日本の印鑑証明書を取得できません。その代替として在外公館で発行される「署名証明書(サイン証明書)」が利用されます。
ただし、これは本人が領事館などに直接出向き、その場で署名することが必須です。代理人による取得は一切できないため、相続税申告や登記の準備に時間を要する要因の一つとなります。

海外の死亡証明書と各種手続きの関係

相続税申告

相続税の申告では、被相続人の死亡を証明する書類が必須です。海外発行の死亡証明書を使用する場合、認証や翻訳を整えたうえで添付しなければなりません。
また、相続人が海外居住者である場合には署名証明書の取得も必要ですが、これは代理で取得できないため、準備の遅れが申告期限(10か月)超過につながる可能性があります。期限を過ぎると延滞税や加算税が課されるため、早期の対応が不可欠です。

相続登記

不動産の名義変更である相続登記においても、死亡証明書は必須の書類です。海外発行の証明書を利用する際には、ア日本語訳を揃えたうえで法務局に提出します。代理人である司法書士が登記を申請する場合でも、事前に形式要件を確認することが極めて重要です。

国際相続における死亡証明書の取得は、国や地域によって代理取得の可否や手続きの難易度が大きく異なります。代理人での取得が可能な場合もあれば、直系親族以外は一切認められない国もあります。さらに、日本での利用には認証や翻訳が不可欠であり、時間的制約も伴います。
当事務所では、海外で発行された死亡証明書の取得から日本での認証・翻訳、相続税申告や相続登記まで一貫してサポートしています。複雑な国際相続に直面された方は、ぜひ安心してご相談ください。