Last Updated on 2025年7月29日 by 渋田貴正

親族間で農地の贈与を行った後に、「事情が変わったので、やはり元に戻したい」となるケースは少なくありません。
しかし、一度成立した贈与契約は、当事者間の合意だけでは税務上「なかったこと」にすることはできません。

すでに贈与税を申告・納付している場合、その税金を取り戻すには「更正の請求」という手続きが必要です。
ただし、更正の請求が認められるのは、民法上の法定取消事由など、明確な法的根拠がある場合に限られます。

今回は、農地という特殊な資産について、贈与契約の取り消しと贈与税の更正請求の関係、登記や農地法の取扱いまでをわかりやすく解説します。

合意解除では贈与税の更正請求はできない

贈与契約を当事者同士の話し合いで合意解除したとしても、税務上は有効に贈与が行われたとみなされます。
したがって、ただ「やっぱりやめた」と話し合って財産を返しても、納めた贈与税は戻ってきません。

税務上、更正の請求が認められるのは「法定取消権」等に基づいて契約が取り消された場合に限られます。

更正の請求が認められる「法定取消権等」とは

民法では、一定の事情がある場合には、契約の取消しを認める規定があります。贈与契約もその例外ではありません。

贈与契約の法定取消しが認められる主な事由

取消事由 民法の根拠条文 内容
詐欺・強迫による取消し 第96条 騙されたり脅されて結んだ契約は取り消せる
未成年者の取消し 第5条 法定代理人の同意がない契約は無効にできる
夫婦間契約の取消し 第754条 夫婦間の贈与は自由に取り消せる

このような「法定取消権等」に基づいて贈与契約が取り消され、かつ贈与財産の名義が元に戻された場合には、税務署に申し出ることで「贈与がなかったもの」として更正の請求が可能になります。

農地特有の論点:農地法の許可とその取消し

農地の贈与には、農地法による制限が加わります。
贈与により農地の所有権を移転するには、農地法第3条または第5条の許可が必要です。

そして一度その許可が下りてしまえば、登記自体は進めることができます。
つまり、贈与者に名義を戻す登記(抹消登記)を行う際に、農地法の許可の「取り消し」は不要です。

しかし、問題は「税務上の更正の請求を通すため」には、別の視点が必要になります。

すでに農地法の許可を得て贈与契約が成立していた場合に、その贈与を取り消して税金を戻してもらいたいと考えたとき、「合意解除」では足りません。

さらに、たとえ「詐欺や錯誤による取消し」などの法定取消事由があったとしても、農地法の許可が有効なままでは、贈与が完了していたと評価される可能性があります。

したがって、農地法の許可に基づく贈与を「そもそも無効にする」ためには、その許可の取り消しが求められることがあるのです。

このような取り消しは、農地法第65条に基づき、農業委員会または都道府県知事が行う行政処分です。
たとえば、申請に虚偽の記載があった、実態に即していなかったなどの場合に、取り消しが認められる可能性があります。

農地の贈与の取消しによる贈与税の更正の請求を通す要件と書類

■ 更正の請求を通すための実務要件

要件 説明
贈与契約に法定取消権がある 詐欺・強迫・未成年など
名義が贈与者に戻っている 登記簿謄本で証明
税務署が名義戻しを確認できる 合意書や判決文など書類提出
農地法許可の取消しがされている(必要な場合) 税務署が「贈与がなかった」と判断するための条件

※更正の請求期限は、贈与があった年の翌年3月15日の翌日から5年以内です(国税通則法第23条)。

農地の贈与取り消しにおいては、「登記は戻したが税務上は戻せない」といった事態に陥ることもあります。

  • 登記上は農地法の許可取消しなしで名義戻し可能
  • 税務上は農地法許可の取消しがないと更正請求が通らないことがある

このように、登記と税務で評価が異なるため、両方の制度を正しく理解し、連携させて手続きする必要があります。

農地の贈与取り消しは、民法・税法・農地法・登記の知識を横断的に要する高度な手続きです。
当事務所では、贈与契約の作成・取り消し・農地法手続・登記名義戻し・贈与税の更正の請求までワンストップで対応いたします。

贈与を取り消したいが、税金はどうなる?」「農業委員会への相談は必要?」といった疑問にも丁寧にお答えします。
お困りの際は、どうぞお気軽に当事務所までご相談ください。