Last Updated on 2025年6月15日 by 渋田貴正
不動産管理会社を設立する際に重要なポイントのひとつが、「株主」と「役員」を誰にするかという点です。とくに相続や節税を意識して設立する場合には、出資者や役員の人選によってその効果に大きな差が出ることがあります。
株主の選定は「相続を見越した設計」が鍵
株式会社は「所有(株主)と経営(役員)の分離」が原則とされています。とはいえ、中小企業では株主と社長が同一人物であることも少なくありません。しかし、不動産管理会社を相続対策として活用する場合、この考え方には注意が必要です。以下の点は株式会社の説明ですが、合同会社の設立を選択した場合も同じように考えて差し支えありません。
株主の選定は「相続を見越した設計」が鍵
不動産管理会社の目的のひとつは、不動産オーナー個人に集中する不動産収入を会社を通じて分散させることにあります。このとき、オーナー本人が株主になると、以下のような問題が発生します。
株式の相続課税 | 管理会社が利益を積み上げると株価が上昇し、将来的にその株式を相続する際の課税対象となる可能性が高まる |
そのため、あらかじめ子どもなどの推定相続人を株主にしておくことで、会社の成長に伴う資産の移転をスムーズにし、相続税の圧縮にもつながります。
配偶者も候補に挙がりますが、年齢的にオーナーと近いため、子どもに比べて「もう一世代先への承継効果」が得にくいというデメリットがあります。そのため、原則として子どもを株主とする設計が望ましいといえるでしょう。
出資者は「名義」だけでなく「資金の出どころ」に注意
出資者(株主や合同会社の社員)の名義だけを整えていても、実際の資金の出どころが不明確である場合、税務上問題が生じるおそれがあります。たとえば、3歳の子どもが500万円を出資して株主になっているようなケースでは、税務署は次のような点を疑います。
- 本当に子ども自身の資金で出資したのか?
- 実際は親が拠出した資金ではないか?
もし親の資金を使って出資したのであれば、それは「親から子への贈与」と見なされ、贈与税の課税対象となります。
さらに問題となるのが、「受贈者としての能力」です。税務上の贈与は、「贈与する者(親)と、贈与される者(子)が、財産の無償移転について合意していること」が前提とされます。つまり、贈与を受ける側(子ども)にも意思能力が必要なのです。
しかし、乳幼児など明らかに贈与の意味を理解できない年齢の子どもに対して形式的に贈与したとしても、実質的には贈与が成立していないと判断されることがあります。そのような場合、贈与契約自体が無効とみなされる可能性や、税務署から形式的な名義だけの移転として否認されるリスクもあるのです。
したがって、仮に子どもを出資者・株主にする場合であっても、
- 相続などで本当に子ども自身が保有する財産を出資していること
- 贈与の場合は、年齢や判断能力を踏まえ、適切な手続きと記録があること
これらをしっかり確認し、名義だけでなく実質にも根拠がある出資であることが求められます。安易に子ども名義にするのではなく、税務的な整合性も含めて慎重に設計することが重要です。
役員の選定は「誰に給与を出すか」で決める
会社の設立後は、役員に対して役員報酬を支払うことができます。これは、オーナー個人に集中していた収入を、会社を通じて家族に分散させる方法のひとつです。
ただし、役員の選び方を間違えると、せっかくの節税効果が台無しになることもあります。
不動産オーナー自身が代表取締役になって給与を受け取ると、もともとの収入構造とあまり変わらなくなり、所得の分散効果が得られません。これでは設立の意味が薄れてしまいます。
そのため、子どもや配偶者などの推定相続人を役員に据え、その人たちに給与を支払う形にするのが望ましいといえます。
役員構成例 | メリット |
オーナーが代表取締役、家族は取締役 | 形式的に経営責任を持ちつつ、給与は業務をする家族に支払える |
家族を代表取締役にし、オーナーは役員にしない | 所得分散効果が高くなる |
ただし、所得の分散という言葉に気を取られすぎて忘れがちな重要ポイントがあります。それは、業務をしない家族への報酬はNGということです。実際に業務に関与していない家族に役員報酬を支払っても、税務上は「給与の否認」の対象になります。
よくあるNG例:
- 小学生の子どもを役員にして報酬を支払う
- 管理物件が東京にあるのに、沖縄に住む親族に給与を出す
- 実態のない「名ばかり役員」への報酬
これらはすべて税務調査で問題視される可能性が高く、適切な業務内容と報酬のバランスが重要です。
また、もう一つ注意すべきポイントが登記手続きです。未成年者でも、法律上は取締役等の役員に就任することは可能です。ただし、実際に登記する場面では注意が必要です。
とくに中学生などの若年者を役員にする場合、以下のような登記手続き上の課題が生じます。
よくある質問(FAQ)
- 株主を途中で変更することはできますか?
A. 可能ですが、株式譲渡には贈与税や譲渡所得税が発生する場合があります。初期の段階で適切な株主を選定することが望ましいです。 - 役員にしない家族に給与を支払えますか?
A. 役員ではなく「従業員」として雇用契約を結べば可能です。ただし、業務実態があることが必要です。
不動産管理会社は、節税や相続対策として有効な手段ですが、株主や役員の選定を誤ると逆効果になることもあります。税務署や登記官の視点を意識し、名義や実態、役員報酬の妥当性など、あらゆる面に配慮することが必要です。不動産管理会社の設立をお考えの方は、税務と登記の両方に対応できる当事務所へぜひご相談ください。節税効果を最大限に引き出すご提案をいたします。

司法書士・税理士・社会保険労務士・行政書士
2012年の開業以来、国際的な相続や小規模(資産総額1億円以下)の相続を中心に、相続を登記から税、法律に至る多方面でサポートしている。合わせて、複数の資格を活かして会社設立や税理士サービスなどで多方面からクライアント様に寄り添うサポートを行っている。