Last Updated on 2025年6月10日 by 渋田貴正
贈与税がかからない不動産の名義戻しの要件とは?
不動産や自動車、有価証券などを他人名義で取得した場合、贈与と見なされて贈与税の対象になることがあります(相続税法基本通達9-9)。
たとえば、父親が子供の将来のために購入した不動産を、登記上は子供名義にした場合や、祖母が孫の通勤用にと自動車を購入し、名義だけ孫にしたケースなどが該当します。このようなケースでは、実際に資金を出したのは父親や祖母ですが、名義は子供や孫になっているため、税務上は「贈与があった」と判断される可能性があるのです。
しかし、一定の条件を満たすことで、贈与と見なされずに済むケースもあります(いわゆる「名変通達」)。その条件は主に以下の2点です。
要件 | 内容 |
(1) 名義人がその事実を知らなかったこと | 例えば、名義変更当時に名義人が海外にいて登記済証などを保有していなかった等、具体的な状況証明が求められます。 |
(2) 名義人が使用・収益していないこと | 名義人が財産を利用したり、利益を得ていた場合は、贈与と判断されます。 |
たとえば、自動車が他人名義であることを知りながら日常的に使用していたり、不動産が自分名義になっていると認識して家賃収入を得ていたような場合は、贈与の成立が疑われます。
名義戻しをしたときに贈与税が課税されてしまうケース
一度名変通達の適用を受けた人や、名変通達を利用した贈与税の回避を意図したと認められる場合には、同通達の適用はできません。
具体的には、例えばAさんがAマンションについて名変通達の適用を受けて名義を戻した後、再びBマンションを親族の名義で取得し、その後に名義を戻したとしても、再度名変通達の適用を受けることはできないという意味です。こうしたケースは、継続的に名変通達の制度を利用して贈与税の回避を試みているとみなされる可能性が高く、税務署としてもその適用を認めないことが想定されます。
贈与税が課税されるケース | 内容 |
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同様の名義借用を繰り返す | 一度名変通達の適用を受けた人が、再び別の財産を他人名義で取得し、後に名義戻しをした場合。例:Aマンションの件で名変通達を適用された後、Bマンションでも同様の名義変更をした場合。 |
名義変更が贈与税回避の目的と認定される | 通達の趣旨に反し、最初から贈与税を回避するために他人名義を利用していたと税務署が判断した場合。名義人がその事実を知っていたり、使用収益していた記録があると適用は困難。 |
名義人が財産から利益を得ていた | たとえば、アパートを配偶者名義にしたあと、家賃を配偶者が受け取り確定申告していたような場合、「使用収益あり」と判断され、名変通達の適用は不可。 |
単純な誤解による誤登記を戻すなら名義戻しは贈与税がかからない
誤って不動産等の名義を他人にしてしまった場合も、一定の状況下では贈与とされません(名変通達5)。たとえば、自宅購入時に出資割合に応じた名義にすべきところを、単純に2分の1ずつの登記にしてしまったケースなどです。
自宅購入価格 | 6,000万円 |
夫の出資 | 5,000万円(5/6) |
妻の出資 | 1,000万円(1/6) |
実際の登記 | 夫1/2、妻1/2 |
贈与に該当する額 | 妻の持分過剰分=2,000万円 |
法令等や融資審査によりやむを得ず他人名義にした後の名義戻しは贈与税がかからないことも
住宅ローンの借入条件等で、やむを得ず他人名義で不動産を取得した場合でも、名義借用の事実が明確であれば贈与とはされません。
たとえば、本人(甲)が住宅を取得したいと考えていたが、当時の勤務状況や信用情報の問題で金融機関から融資を受けられなかったため、収入のある父(乙)の名義でローンを組み、乙の名義で登記を行ったというケースが挙げられます。
このように、実際には甲が自己資金を出し、ローンの返済も行い、住宅に住んでいるにもかかわらず、登記上は乙の名義となっている場合は、名義借用と認められる余地があります。
具体的には以下のような条件が揃っていることが必要です。
- 真実の所有者(例:甲)が頭金・ローン返済を行っている
- 名義人(例:乙)はその財産に住んでいない
- 水道・ガス等の契約も甲名義になっている
名義戻しの不動産登記
名義戻しを行う際には、税務上の対応とあわせて、不動産登記手続きも重要です。たとえば、実際の所有者に名義を戻すには、登記名義人が登記簿上の所有権を放棄する、または所有権移転登記を行う必要があります。
この場合、所有権移転登記を行うには、名義人と実際の所有者双方の協力が不可欠であり、登記原因証明情報として「贈与ではないこと」を明記する書類の作成が必要です。
この場合、「更正」や「真正な登記名義の回復」または「抹消」などいくつかのアプローチを検討することになります。
名義戻しの期限と注意点
名義戻しは、以下の期限までに行う必要があります。
区分 | 期限 |
最初の贈与税申告日 | 翌年の3月15日まで |
税務署による決定処分日 | 処分を受ける前まで |
更正処分日 | 処分を受ける前まで |
また、災害等で財産が消失しても、保険金等で新たに財産を取得し、それを真実の所有者名義とすれば贈与税はかかりません。
実務対応のポイント
- 「知らなかった」ことの立証は困難であるため、当時の状況や書類を丁寧に説明・保存することが重要です。
- 名義人が財産から利益を得ていると、その時点で贈与とみなされる可能性が高くなります。
- 特に相続対策で家族名義に変更する行為は、安易に行ってはなりません。
名義戻しの対応は、税務上のリスクを最小限にするうえで非常に重要です。当事務所では、他人名義で取得した財産の名義戻しや贈与税の相談について、個別事情に応じた丁寧なサポートを行っております。ぜひお気軽にご相談ください。

司法書士・税理士・社会保険労務士・行政書士
2012年の開業以来、国際的な相続や小規模(資産総額1億円以下)の相続を中心に、相続を登記から税、法律に至る多方面でサポートしている。合わせて、複数の資格を活かして会社設立や税理士サービスなどで多方面からクライアント様に寄り添うサポートを行っている。