無効と取消しの違い

法律には「無効」と「取り消し」という言葉が出てきます。この2つは、行った行為を初めからなかったものにするということで同じ役割を果たしますが、その意味は大きく異なります。

「無効」とは選択の余地なく初めからなかったものとすることです。例えば、民法には「相手方と通じて行った虚偽の意思表示は無効とする」という条文があります。自分も相手も嘘だと分かって意思表示しているわけですから、初めからなかったものにしてもよいということです。

一方、「取消し」は初めからなかったものにするかどうかについて意思表示した側に選択の余地があります。「未成年者が法定代理人の同意を得ないで行った行為は取り消すことができる」という条文があります。未成年者が法定代理人(親など)の同意を得ないで行った契約などは無効ではなく取り消すことができるとなっています。契約内容によっては未成年者が単独で行ったものだったとしてもそのまま有効にしておいたほうが都合がよいということもあり得ます。例えば、未成年者が本来は3,000円くらいでしか買い取ってもらえない不用品を1万円で買い取ってもらったとして、これが無効になると未成年者が損をしてしまいます。このケースでは親として契約は取り消さずにそのままにしておいたほうがよいでしょう。このように、未成年者側に契約を生かすかなかったものにするかということについて選択肢が与えられているということです。

相続における「無効」と「取消し」

相続の現場では、無効といえば遺言の無効ということで争われることが多いです。遺言の方式が誤っているなどの形式的な形での無効などがあります。遺言の形式が民法の規定に反していれば本人の意思にかかわらずその遺言はなかったものとなります。

また、被後見人については、以下のような無効の規定もあります。

民法 第966条
被後見人が、後見の計算の終了前に、後見人又はその配偶者若しくは直系卑属の利益となるべき遺言をしたときは、その遺言は、無効とする。

相続では「取消し」は「無効」よりも重要な役割を持ちます。

・詐欺や強迫によって作成された遺言は取り消すことができます。

・成年後見監督人の同意を得ずに行った成年被後見人の相続放棄限定承認は取り消すことができます。

負担付遺贈を受けた者がその負担した義務を履行しないときは、相続人は、相当の期間を定めてその履行の催告をすることができ、その期間内に履行がないときは、その負担付遺贈に係る遺言の取消しを家庭裁判所に請求することができます。

相続に限らずですが、意思表示についてなかったことにする場合は、「無効」なのか「取消し」なのかということを意識しておくことが重要です。