Last Updated on 2025年12月28日 by 渋田貴正
ベトナム国籍の方が日本で亡くなった場合、その相続関係(相続人の範囲・相続分・遺留分に相当する制度の有無・遺産管理の方法など)は、原則としてベトナム法に基づいて判断されます。ベトナムでは2015年民法(2017年施行)により相続制度が体系化されていますが、日本とは相続の考え方や手続構造が異なる点も多く、実務では判断に迷う場面が少なくありません。
特に、日本に不動産や預貯金を残したまま亡くなった場合、「日本法とベトナム法のどちらで相続人を判断するのか」「日本とベトナムで別々の手続が必要なのか」といった点が大きな問題になります。
実務で最も相談の多い無遺言相続を前提に、ベトナム法を日本の国際私法に当てはめながら、日本側の相続登記・預貯金手続、ベトナム側の相続手続までを整理します。
相続法の基本構造とベトナムへの当てはめ
国際相続では、各国がどのように「相続の準拠法」を決めているかが出発点になります。
まずはベトナム相続法の構造を表で整理します。
| 分類 | 説明 | ベトナムの扱い |
|---|---|---|
| 相続統一主義か相続分割主義か | 相続統一主義:財産の種類を問わず本国法で判断/分割主義:不動産は所在地法、動産は本国法など | 不動産は所在地法、動産は被相続人の本国法(つまりベトナム民法)を適用(限定的分割主義) |
| 人的不統一法国か | 宗教・民族により複数の相続法体系が併存する国 | 該当しない(全国一律の民法体系) |
| 場所的不統一法国か | 財産の種類により準拠法が変わる国 | 該当(不動産所在地法を採用) |
日本の国際私法は、相続の準拠法を原則として「被相続人の本国法」と定めつつ、外国法が日本法へ差し戻す場合(反致)があれば、日本法を適用します。
ベトナム法は、不動産について所在地法を適用するとしているため、
・日本にある不動産
→ ベトナム法が日本法を指定
→ 反致が成立
→ 日本法が適用
という構造になります。
一方、動産(預貯金・株式など)については、原則としてベトナム法が適用される点がベトナム民法の特徴です。
ベトナムの法定相続人制度(無遺言相続の基本)
ベトナム民法では、無遺言相続における法定相続人を順位制で定めています。
| 相続順位 | 相続人の範囲 | ポイント |
|---|---|---|
| 第1順位 | 配偶者・父母(養父母含む)・子(婚生子・非婚生子・養子) | 同順位内で均等相続。孫は代襲相続が可能。 |
| 第2順位 | 祖父母・兄弟姉妹 | 第1順位がいない場合に相続。 |
| 第3順位 | 叔父・叔母・甥・姪 | 第2順位もいない場合に相続。 |
また、ベトナム法には日本の遺留分に近い考え方として、保護相続人制度があります。
未成年の子、労働能力を失った配偶者や父母などは、遺言があっても一定の相続分を確保される点が実務上重要です。
ベトナム国籍の被相続人が所有していた日本にある不動産の相続登記
ベトナム国籍の方が日本に不動産を所有したまま亡くなった場合、その名義変更は日本の不動産登記法に従って行われます。
ベトナム国籍の被相続人の場合、不動産を相続する上で重要なポイントは次の2点です。
① ベトナム法が不動産について所在地法を指定しているため、相続人・相続分は日本法で確定する
② 相続登記は日本の登記実務に従って行う
必要書類(例)
・日本の死亡届、住民票の除票(海外死亡の場合は現地死亡証明書)
・ベトナム発行の出生証明書、婚姻証明書、家族関係証明
・相続関係説明書(日本形式)
・日本語翻訳文
相続登記義務化(2024年施行)により、相続開始から3年以内の登記が必要となるため、ベトナム側書類の取得に時間を要する点には注意が必要です。
ベトナム国籍の被相続人が所有していた日本にある預貯金・株式・動産の相続手続
預貯金・証券などの動産については、原則としてベトナム法が準拠法となります。そのため、不動産の相続に比べて、預貯金などの動産の相続はより複雑になる可能性があります。
金融機関に提出する主な書類
・ベトナムの出生証明書、婚姻証明書
・相続人全員の合意書(実質的な遺産分割協議書)
・署名証明書(在外公館)
・翻訳文
ベトナム国内にある不動産・預貯金の相続手続
ベトナム国内の財産については、すべてベトナム法に基づいて手続が行われます。
典型的な流れ
・公証役場での相続公証
・土地使用権証明書の名義変更
・銀行口座の解約・名義変更
・財産分配
ベトナムでは、公証手続が実務上ほぼ必須となり、日本の書類についても翻訳・公証・領事認証が求められます。
国際相続は、日本とベトナムの法律の違いに加え、準拠法の判断、反致の有無、必要書類の種類や取得方法など、一般の方がご自身だけで整理するには非常にハードルが高い分野です。特に、日本と海外にまたがって不動産や預貯金が存在する場合、どこから手を付けるべきか分からず、手続が長期化してしまうケースも少なくありません。
当事務所では、司法書士・税理士によるワンストップ体制で、日本側の相続登記や預貯金手続はもちろん、海外書類の整理、翻訳・認証の手配、相続人関係の法的整理まで、一貫してサポートしています。国ごとの相続制度の違いを踏まえた実務対応により、「日本の手続は終わったが海外側で止まってしまう」といった事態を防ぐことが可能です。「どの国の法律が適用されるのか分からない」「海外の書類取得に不安がある」「相続登記義務化の期限が迫っている」といったお悩みをお持ちの方は、ぜひ一度ご相談ください。初回相談は無料で承っております。

司法書士・税理士・社会保険労務士・行政書士
2012年の開業以来、国際的な相続や小規模(資産総額1億円以下)の相続を中心に、相続を登記から税、法律に至る多方面でサポートしている。合わせて、複数の資格を活かして会社設立や税理士サービスなどで多方面からクライアント様に寄り添うサポートを行っている。
