Last Updated on 2025年11月28日 by 渋田貴正

近年、都市部を中心として新築マンションの価格が高騰しています。その理由の一つとして外国籍の個人や法人による不動産取得が指摘されており、こうした背景を受けて国土交通省は不動産登記に所有者の国籍記入を義務化する方向で検討を進めています。

なぜ不動産登記への「国籍記入義務化」が検討されるのか

マンション価格高騰と外国籍の人の取得の背景

これまでの不動産登記では所有者の国籍が記載されないため、外国籍者や外国法人の取得状況が見えにくい状態が続いていました。さらに、短期間で売買を繰り返す「短期転売」が都市部で増え、価格上昇の一因となっていると指摘されています。

日本人が自宅用として購入するケースでは、長期保有が前提であるため市場を大きくゆがめる可能性は高くありません。しかし、海外在住の外国人が購入し短期間で売却するケースでは、価格形成に影響を与える可能性があります。
国籍記入義務化後は、このような不動産の動きがより明確に把握できるようになり、適切な価格設定や源泉徴収などの税務処理が求められるようになるでしょう。
短期売買が多いとマンションに住みたいという実需者ではなく投機目的の取引が増え、市場が不安定になる可能性があります。こうした状況を改善し、取得者の属性を整理するために国籍記入が検討されています。

現行制度では国籍が登記簿に記載されないため、外国籍取得の全体像を把握できませんでした。国籍記入義務化によって、取得者の国籍や取引目的を分析しやすくなり、短期売買などの価格形成に影響する動きを把握しやすくなります。
また、実需者が適正価格で不動産を取得できる環境を整えるという政策的なねらいもあります。

不動産登記への「国籍記入義務化」による影響

不動産登記手続き面での影響

今後、所有権移転登記などの申請書類に国籍記入欄が追加される可能性があります。外国籍者が所有者となる場合には国籍を正確に記載する必要があり、国内在住か海外在住かによって必要書類が異なる場合があります。
在留カードやパスポートの提示が求められることも考えられ、法人の場合は外国法人・日本法人で添付書類が異なるため注意が必要です。

国籍記入義務化によって生じる「登記・税務のポイント」を表に整理します。

分類 想定される変更点・影響
登記手続き 申請書に国籍欄が追加され、外国籍者の場合は国籍を記入する必要がある。国内在住か海外在住かにより添付書類が異なる可能性がある。
必要書類 パスポート、在留カード、外国法人の登記証明書など、国籍や在住地に応じた資料の提出が求められる可能性がある。
税務(取得) 外国人・外国法人の取得が把握しやすくなり、不動産取得税や登録免許税の審査が厳格化する可能性がある。
税務(売却) 非居住者の譲渡所得の課税管理が容易になり、源泉徴収や申告の確認が強化されることが予想される。

相続への影響

国籍記入義務化は相続が発生した場合にも一定の影響があると考えられます。
相続によって不動産を取得する際には、相続人の住所と国籍が確認されるため、海外居住の相続人や外国籍の相続人が関与するケースでは、これまで以上に書類の準備が複雑になる可能性があります。
特に、海外在住の相続人が単独で相続登記を行う場合には、本人確認書類としてパスポートの提示や現地の公証人による署名証明が必要になることが多く、国籍情報が登記に反映されることで、提出書類の正確性が厳格に求められることが想定されます。

また、外国籍の相続人がいるケースでは、日本の相続税法に基づく課税関係の確認も重要です。相続税は国籍よりも「被相続人・相続人の住所」で判定されますが、国籍情報が登記で把握できるようになると、税務署による相続税の調査や資料照会がスムーズになり、海外資産の有無について確認を受けるケースも増える可能性があります。

不動産売却場面での影響

国籍情報が登記事項に記録されるようになると、外国籍の人が売却したときの相手国が税務署から把握されやすくなるため、税務調査の対象となる取引も増える可能性があります。
非居住者の不動産売却には国内源泉所得として源泉徴収制度があり、買主にもよりますが、売主が海外居住者の場合には特に慎重な対応が必要になります。また、高額の取得や短期売買があると税務上の確認が行われやすくなるため、記録の管理が重要になります。

買主は契約段階から国籍記入義務の有無を把握し、登記や税務の負担を理解したうえで取引を進める必要があります。特に海外居住者や外国法人が売主の場合は、取得後の税務リスクや書類準備が複雑化する可能性があるため注意が必要です。
売主についても、外国籍者や海外居住者の場合には譲渡所得の申告や源泉徴収の確認が必要になり、登記簿に国籍が表示されることで過去の取引履歴が把握されやすくなるため、帳簿や資料の保存がより重要になります。

当事務所では、外国籍者や外国法人が関与する不動産取引を数多く取り扱っており、登記と税務を同時にサポートできることが強みです。取得時の登記だけでなく、不動産取得税や登録免許税、売却時の譲渡所得税のシミュレーションも行い、取引が安全に進むようサポートしています。
契約段階からのチェックにも対応しており、国籍記入義務化後の制度に適合した形で書類を整えるお手伝いも可能です。

国籍記入義務化は、不動産市場の透明性を高め、健全な取引環境をつくるための制度です。しかし、外国籍や海外居住者が関係する取引では複雑な登記や税務が必要になり、事前準備が欠かせません。
当事務所では登記と税務をまとめてサポートできますので、不動産の取得や売却を検討されている方は、どうぞ安心してご相談ください。