Last Updated on 2025年11月25日 by 渋田貴正
外国法人が日本の不動産を取得するケースは年々増えています。しかし、日本の不動産登記制度は国内法人向けに構築されているため、外国法人が登記名義人になる場合には特別な情報の提供が必要になります。その代表が「法人識別事項」です。この点を理解せずに手続きを進めてしまうと、売買契約が成立していても登記が受理されず、手続きが大幅に遅れることがあります。ここでは、外国法人の不動産登記に必要な情報と実務上の注意点を、一般の方にもわかりやすく説明します。
法人を登記名義人とする場合に必要な「法人識別事項」とは
日本の不動産登記では、登記名義人となる法人を正確に特定するため、法人識別事項を申請情報として提供する必要があります。これは「その法人が何者であるか」を法律上明確にするためのもので、日本法人であれば会社法人等番号が一般的ですが、外国法人の場合は事情が異なり、国ごとに必要書類の形式も違います。
法人識別事項には、会社法人等番号、設立準拠法国、設立根拠法のいずれかを記載します。どれを記載するかは法人の種類によって異なり、ここを誤ると補正が必要となります。特に外国法人の場合は、会社法人等番号がないケースが多いため、現地の法律に基づいて適切な情報を提供する必要があります。
以下に、法人識別事項の整理をわかりやすくまとめます。
| 法人の種類 | 提供すべき法人識別事項 | 必要な証明書類 |
|---|---|---|
| 日本で会社法人等番号を持つ外国法人 | 会社法人等番号 | 不要 |
| 会社法人等番号を持たない外国法人 | 設立準拠法国 | 政府作成書面等 |
| 外国財団・協会など | 設立根拠法 | 公務員作成の情報など |
会社法人等番号を持つ外国法人の場合
外国法人であっても、日本に支店登記などをして会社法人等番号が付与されている場合には、登記はきわめて簡単です。番号を申請情報として記載するだけで足り、追加の証明書類も不要です。日本法人とほぼ同じ扱いのため、書類準備の負担も軽く、最もスムーズに手続きを進められるケースです。
会社法人等番号を持たない外国法人の場合
一般的に多いのが、この会社法人等番号を持たない外国法人のケースです。この場合、法人識別事項として「設立準拠法国」を提供します。設立準拠法国とは、法人がどの国の法律に基づいて設立されたかを示す情報です。
アメリカ法人ならデラウェア州法、香港法人ならCompanies Ordinance、台湾法人なら公司法などが設立準拠法国になります。これを証明するためには、現地政府が作成した会社登録証明書や住所証明書などが必要であり、日本の法務局は民間団体発行の証明書を認めません。
書類に設立準拠法国の記載がなくても、書類の作成国と法人の住所国が一致する場合は、当該国を準拠法として扱えることが明確化されています。ただし、住所国と異なる国で作成された証明書は原則認められず、ここが実務上最もトラブルになりやすいポイントです。
財団・協会などの外国法人の場合
外国の財団、協会、組合など、会社法人等番号も設立準拠法国も明確に判断できない法人の場合には、法人識別事項として「設立根拠法」を提供します。
設立根拠法とは、法人がどの法律を根拠に成立しているかを示すもので、公務員が職務上作成した書類から判断します。法律名が明確に書かれていなくても、書類全体から根拠法を推定できる場合は認められることがあり、実務上は柔軟に扱われます。しかし、国ごとに書類の様式が異なるため、専門家が書類の妥当性を確認することが不可欠です。
外国法人が日本で不動産を取得する場合の手続きの流れ
外国法人による不動産登記は、日本法人よりも準備の段階が多く、書類の取得にも時間がかかるため、手続きの把握がとても重要です。
まず、法人の種類と登記区分を確認し、必要な政府作成書面(会社証明書や住所証明書など)を現地で取得します。続いて、日本語への翻訳文を準備し、不動産の売買契約を締結します。最後に、法人識別事項を含めた登記申請書を作成して法務局へ提出します。
提出書類に不備があると補正が必要になり、外国法人の場合は追加書類の手配に時間がかかるため、事前準備がとても重要です。
外国法人が日本で不動産を所有すると、日本国内で法人税や固定資産税などの税務が発生する可能性があります。賃貸物件であれば法人税の申告が必要になり、日本国内に事務所がない場合には納税管理人の選任が求められます。不動産を売却する際には譲渡所得税も発生します。
登記手続きだけでなく、税務対応も同時に行う必要があり、外国法人にとっては理解が難しい場面も多いのが現実です。
外国法人の不動産登記は、日本法人と比べて必要書類が多く、国ごとに形式も異なるため、個別判断が欠かせません。当事務所では税理士と司法書士が連携し、登記と税務の両面からサポートできますので、外国法人の不動産取得を検討されている方はぜひ一度ご相談ください。専門家がワンストップで対応いたします。

司法書士・税理士・社会保険労務士・行政書士
2012年の開業以来、国際的な相続や小規模(資産総額1億円以下)の相続を中心に、相続を登記から税、法律に至る多方面でサポートしている。合わせて、複数の資格を活かして会社設立や税理士サービスなどで多方面からクライアント様に寄り添うサポートを行っている。
