Last Updated on 2025年9月28日 by 渋田貴正
日本人が亡くなった場合は、戸籍に死亡の事実が記載され、市区町村からいわゆる「戸籍謄本」を取得すれば足ります。日本では戸籍が各種の相続手続き上、オフィシャルに死亡を証明する書類となります。
しかし、外国籍の方には日本の戸籍がありません。そのため、日本国内で相続や銀行の手続きをするには「外国政府などの本国官憲が発行した死亡証明書(death certificate)」が必要になります。
死亡証明書(death certificate)とは?
死亡証明書(death certificate)は、外国籍の被相続人が亡くなった事実を公的に証明する最も基本的な書類です。
日本人の場合は戸籍制度によって死亡の事実が自動的に記録され、市区町村役場から戸籍謄本や除籍謄本を取得すれば済みます。ところが、外国籍の方には日本の戸籍がないため、死亡の事実を証明できる唯一の根拠が「本国で発行された死亡証明書」となります。
この死亡証明書には、次のような内容が記載されるのが一般的です。
- 氏名(英語表記や現地表記)
- 生年月日
- 死亡年月日
- 死亡した場所(市区町村名や病院名など)
- 死亡原因(国によっては記載がある)
- 発行日、発行機関の名称
これらの記載事項により、亡くなった人が誰であり、いつどこで亡くなったのかを客観的に確認できるのです。
海外発行の死亡証明書を日本で使用する際のポイント
外国で発行された証明書を単独でそのまま提出先に出せば終わりというわけではありません。通常は以下の対応が必要です。
- 和訳の添付
証明書が外国語で作成されている場合、日本語に翻訳した文書を添付する必要があります。翻訳は誰でも可能ですが、正確性が求められるため専門家に依頼するのが安心です。 - 翻訳者の署名
翻訳文には翻訳者名を記載し、署名を加えます。これにより公的手続に耐えうる書類として扱われます。 - アポスティーユや領事認証について
外国文書には「アポスティーユ」や領事認証が必要と説明されることがありますが、実務上、日本での相続登記や銀行での相続手続においては、これらの認証を求められることはほとんどありません。基本的には死亡証明書の原本と和訳があれば足ります。
死亡証明書の各種手続きでの取り扱い
相続登記での取扱い
相続登記をするには、被相続人の死亡が証明できる書類が不可欠です。外国籍の方が日本に不動産を所有していた場合、その国の死亡証明書と和訳を提出して、登記所で死亡の事実を確認してもらいます。
例えば、アメリカ国籍の方が日本に土地を所有しており、アメリカで亡くなった場合、現地郡(County)が発行する死亡証明書を和訳付きで提出します。これによって初めて相続人への名義変更が可能になります。
金融機関での相続手続き
不動産の登記だけでなく、銀行口座や証券口座の解約・名義変更でも死亡証明書は必ず必要です。
金融機関は、口座名義人が確かに亡くなったことを確認できなければ相続手続きを進められません。
また、銀行によっては死亡証明書に加えて、現地大使館の証明や追加書類を求められる場合もあります。金融機関ごとに求められる書類が異なるため、早めに確認して準備することが大切です。
相続税申告での取扱い
相続税の申告においても、死亡日を証明できる書類の添付が必要です。
税務署は死亡日を基準にして申告期限(原則10か月)を計算するため、死亡証明書の提出は不可欠です。
また、死亡日を基準に資産評価や為替換算を行うため、証明書の日付は税務計算上も大きな意味を持ちます。
死亡証明書の実務でよくある国別ケース
外国籍の方が亡くなった場合、死亡証明書の形式や取得方法は国によって異なります。
ここでは、日本での相続登記や金融機関手続きでよく用いられる代表的な国別のケースをまとめました。
国・地域 | 発行機関・証明書 | 日本での利用時の注意点 |
アメリカ | 州または郡(County)が発行する「Death Certificate」 | アポスティーユは通常不要。州によって書式が異なるため、必ず原本を取得。和訳を添付すれば相続登記・銀行手続で使用可能。 |
フィリピン | PSA(フィリピン統計局)発行の死亡証明書 | 銀行によっては現地領事認証など追加書類を求められる場合がある。複数部を取得しておくと安心。 |
中国 | 地方政府(民政局や公安局)が発行する死亡証明 | 英文の併記がないことが多く、必ず和訳が必要。金融機関によっては翻訳者の印鑑や署名を厳格に確認される場合あり。 |
韓国 | 家族関係登録簿の記載事項証明により死亡事実を確認 | 「死亡証明書」という名称ではなく、家族関係登録制度で確認する。翻訳文を添付して登記や税務に利用。 |
ヨーロッパ(例:ドイツ、フランス) | 市役所(Standesamt)が発行する死亡証明書 | EU加盟国では「多言語国際証明書」が発行されることもあり、日本語がなければ和訳が必要。手続き自体は比較的スムーズ。 |
その他の国 | 各国の自治体・役所が発行 | 国ごとに書式や発行機関が異なるため、取得前に日本での利用可否を確認するのが望ましい。 |
このように、国ごとに発行機関や書式が異なるため「どこから取得するのか」「和訳は必要か」といった点が実務上のポイントになります。特に銀行手続きでは金融機関ごとに追加の確認書類を求められる場合があるため、事前の準備が重要です。
外国で発行された証明書を日本で使う際には、翻訳や提出先の判断など細かな実務対応が必要です。
相続登記・銀行手続・相続税申告など複数の手続きが重なり、提出期限もあるため、ご自身で進めるのは大きな負担になります。
当事務所では、外国発行の死亡証明書の取扱いに精通した司法書士・税理士が、登記から税務申告、銀行手続まで一括でサポートいたします。海外に住むご家族や現地の機関との調整も含めて対応可能ですので、安心してご相談ください。

司法書士・税理士・社会保険労務士・行政書士
2012年の開業以来、国際的な相続や小規模(資産総額1億円以下)の相続を中心に、相続を登記から税、法律に至る多方面でサポートしている。合わせて、複数の資格を活かして会社設立や税理士サービスなどで多方面からクライアント様に寄り添うサポートを行っている。