Last Updated on 2025年9月17日 by 渋田貴正

消費税は通常、年に1回申告・納税を行います。しかし事業の実態に応じて、申告や納税のタイミングを調整する制度が2種類あります。

それが「仮決算による中間申告」と「課税期間の特例」です。どちらも消費税の支払い時期に関わる制度ですが、目的や仕組みが大きく異なります。混同しやすいこの2つの制度の違いを説明します。

仮決算による中間申告とは

中間申告の基本

消費税額が一定額以上になると、年1回の納税だけでは国の税収管理上支障が出るため、途中で一部を前払いする制度が設けられています。これが「中間申告」です。

例えば、前年度の消費税額が48万円を超えると、年の途中で中間納付が義務になります。納付回数は税額に応じて年1回から年11回まで増えていきます。

仮決算による申告

中間申告には2つの方法があります。

予定申告方式

前年度に確定申告で納めた消費税額を基準にして、中間納付額を計算する方法
具体的には、前年度の確定消費税額(国税7.8%のみで判定)に一定の割合を掛けて算出

  • 前年度の確定消費税額が 48万円超~400万円以下 の場合 → 1回納付(その年の前期分)

  • 400万円超~4,800万円以下 の場合 → 年3回納付

  • 4,800万円超 の場合 → 年11回納付

つまり「前年並みの売上が続く」と想定して、国があらかじめ計算式で中間納付額を決める仕組み

仮決算方式

仮決算方式は、実際にその期間の売上や仕入を締めて、実際の課税標準に基づき消費税額を計算して納める方法
期中に「ミニ決算」を行うイメージ

例えば、4月から始まる事業年度であれば、9月末までの売上・仕入をまとめ、消費税額を計算して申告書を提出

仮決算方式を選ぶと、実際の業績に応じた中間納付額を計算できるため、資金繰りに配慮した納付が可能になります。

仮決算のメリット

  • 実際の業績に基づいて納付額を算出できる
  • 売上が減少しているときに、予定申告方式よりも納税額を抑えられる
  • 過大な納税を防ぎ、資金繰りへの負担を軽減できる

仮決算のデメリット

  • 期中で仮決算を行うため、経理の事務負担が増える
  • 還付を受ける制度ではないため、納税が減る場合はあっても資金が戻るわけではない
  • 適用には実務的に帳簿整理が必要で、税理士がいないような小規模事業者では負担が大きい場合もある

仮決算が向いている業種

  • 売上が景気に左右されやすい業種(飲食業、小売業など)
  • シーズンによって売上が大きく変動する業種(観光業、イベント関連業)
  • 年度によって業績の波が大きい業種(建設業、不動産業)

こうした業種では、仮決算方式を選ぶことで、実態に沿った税額で納付ができ、資金繰りの安定につながります。

消費税の課税期間の特例とは

消費税の課税期間の仕組み

通常、消費税の課税期間は「事業年度(1年間)」です。これを原則にすると、消費税の申告・納付は年1回となります。

しかし「課税期間の特例」を選択すると、この期間を短縮し、年3回(四半期ごと)や年12回(月ごと)に分けて申告・納付することができます。

消費税の課税期間の特例が適用できる人

課税期間の特例を選べるのは、前々年の課税売上高が5億円以下などの条件を満たす事業者です。申請には所轄税務署への届出が必要になります。

消費税の課税期間の特例のメリット

  • 消費税の還付を早く受けられる(設備投資で多額の仕入税額控除がある場合など)
  • キャッシュフローを安定させやすい

消費税の課税期間の特例のデメリット

  • 申告回数が増えるため、経理の負担が大きくなる
  • 適用には事前の届出が必要で、原則として一定期間は継続適用しなければならない

消費税の課税期間の特例が向いている業種

  • 輸出業者(仕入にかかった消費税は控除できるが、輸出売上には消費税がかからないため還付が発生しやすい)
  • 大規模な設備投資を行う業種(製造業、不動産開発業など)
  • 仕入にかかる消費税が大きい業種(商社、IT機器販売業など)

還付を受けられる点が最大の特徴のため、還付申告が頻繁に発生する業種にとって有効です。

両者の仕組みを分かりやすく整理すると、次のようになります。

項目 仮決算による中間申告 課税期間の特例
対象 消費税の中間納付が発生している事業者 課税期間の特例の届出を提出している事業者
仕組み 年途中に消費税を前払い 課税期間を短縮して複数回申告
提出書類 中間申告書(仮決算に基づく) 課税期間特例選択・変更届出書
メリット 実績に基づく税額計算で過大納付を防げる 還付を早く受けられる、資金繰り改善
デメリット 期中の経理処理が増える/還付は受けられない 申告回数が増える/継続適用が必要
事前手続き 不要(申告書提出のみ) 必要(届出を事前に提出)
還付の可否 還付は受けられない 還付を受けられる
申告期限 事業年度開始日から6か月を経過した日から2か月以内 各課税期間終了日の翌日から2か月以内
向いている業種 売上が変動する業種(飲食・観光・建設など) 輸出業者など恒常的に消費税の還付を受けられる業種

仮決算による中間申告は「国の安定財源確保」のための制度、課税期間の特例は「事業者の資金繰り改善」のための制度です。

似ているように見えますが、目的も利用方法もまったく異なります。自社の業況や業種を考慮し、どちらを利用すべきか慎重に判断することが大切です。

当事務所では、消費税の申告や届出の作成だけでなく、業種や資金繰りの実情に合わせた最適な制度の選択についてもご相談を承っています。ぜひお気軽にご相談ください。