Last Updated on 2025年10月31日 by 渋田貴正

遺言執行者が指定されている場合の不動産登記

遺言の内容を実現するために、遺言者の代わりに手続きを行う人を「遺言執行者」といいます。
遺言執行者は必ず指定しなければならないわけではありませんが、遺言書に遺言執行者がいない場合、遺言で財産を取得した相続人が自ら各種の相続手続きを進めることになります。

遺言執行者を指定する目的は、信頼できる者に遺言の実行を託し、円滑かつ確実に遺言内容を実現させるためです。特に、相続人以外の第三者に遺贈する場合には、遺言執行者を指定しておくことで、他の相続人を関与させずに登記を完了させることができるという大きなメリットがあります。

遺言執行者になれる者とは?

遺言執行者には、相続人の一人を指定しても構いませんし、まったくの第三者を選んでも問題ありません。弁護士法人や司法書士法人などの法人も遺言執行者に指定できます。
ただし、未成年者と破産者は遺言執行者になることができません。

遺言執行者の欠格事由)

第1009条
未成年者及び破産者は、遺言執行者となることができない。

また、令和3年民法改正により、遺言執行者の権限や義務が明確化され、利害関係人への通知義務なども定められています。相続関係人の間で誤解やトラブルを防ぐためにも、専門家を指定するケースが増えています。

遺言執行者が指定されている場合の不動産登記手続

不動産登記の取扱いは、「相続」と「遺贈」のどちらにあたるかで大きく異なります。

①登記原因が「相続」の場合

遺言に「〇〇に相続させる」「〇〇が取得する」と記載されている場合は、相続登記として扱われます。
この場合、遺言執行者が指定されていたとしても、登記申請できるのは不動産を取得する相続人本人であり、遺言執行者が代理して申請することはできません。
したがって、登記義務者も承諾も不要で、相続人単独で登記申請を行います。

②登記原因が「遺贈」の場合

遺言に「〇〇に遺贈する」と記載されている場合は、遺贈登記として取り扱われます。
このときは、遺言執行者と受遺者が共同で登記申請を行う必要があります。
したがって、受遺者が単独で申請することはできず、遺言執行者の協力が必要になります。

相続と遺贈の比較表

項目 相続(「〇〇に相続させる」などの記載) 遺贈(「〇〇に遺贈する」などの記載)
法的性質 被相続人の死亡により当然に権利が移転 遺言によって財産を譲り渡す行為
登記原因の表記 「相続」 「遺贈」
登記の申請人 不動産を取得した相続人(単独申請可) 遺言執行者と受遺者の共同申請(※相続人が受遺者の場合は単独申請可)
遺言執行者の関与 原則として登記申請できない 原則として登記申請を行う(共同申請)
印鑑証明書 相続人本人の印鑑証明書のみ 遺言執行者と受遺者の印鑑証明書(ただし受遺者=遺言執行者の場合は1通で可)
不動産登記の取扱い 相続人単独での登記が可能 受遺者が相続人以外の場合は遺言執行者との共同登記が必要
実務上の注意点 登記義務者が不要なため比較的簡便 遺言執行者がいない場合、相続人全員+受遺者での申請が必要となり煩雑
改正後の取扱い(令和6年4月〜) 変更なし 相続人が受遺者である場合は単独登記申請が可能に

相続人に対する遺贈と法改正の影響

2024年(令和6年)4月の不動産登記法改正により、受遺者が相続人である場合には、相続登記と同様に単独申請が可能になりました。
これにより、従来は遺言執行者との共同申請が必要だったケースでも、相続人であれば一人で登記ができるようになり、手続きの簡略化が図られています。

ただし、受遺者が相続人以外の第三者である場合には、従来どおり遺言執行者との共同申請が必要です。
このとき遺言執行者が指定されていないと、相続人全員と受遺者が共同で登記申請を行う必要があり、相続人全員分の印鑑証明書を添付しなければなりません。
そのため、せっかく遺言を残しても、財産を受け取れない相続人の協力が必要になるという非現実的な状況が生じます。

このようなトラブルを避けるため、受遺者自身を遺言執行者に指定しておく方法がよく用いられます。
受遺者が遺言執行者を兼ねていれば、受遺者の印鑑証明書のみで登記申請が可能になり、実質的に受遺者単独で遺贈登記が完結します。
これは実務上も多く採用されている方法で、特に不動産の単独遺贈において有効です。

遺贈があるけど遺言執行者が選任されていない場合

とくに自筆証書遺言のケースで遺言執行者が遺言書で指定されていない場合や、辞任・死亡などにより不在の場合には、家庭裁判所に遺言執行者選任の申立てを行うことができます。
特に、相続人以外の第三者への遺贈がある場合には、遺言執行者の存在は実務上ほぼ必須です。
遺言書を作成する際には、単に「誰に財産を渡すか」だけでなく、その遺言を誰が実行するのかまで定めておくことが重要です。

遺言執行者を指定しておくことで、登記手続や相続人間の調整をスムーズに行うことができます。
特に、相続人以外への遺贈を予定している場合には、信頼できる専門家(司法書士・弁護士など)を遺言執行者に指定しておくと安心です。
当事務所では、遺言作成・遺言執行・相続登記まで一括してサポートしております。
複雑な相続関係や海外在住の相続人がいる場合でも対応可能ですので、ぜひ一度ご相談ください。