Last Updated on 2025年12月14日 by 渋田貴正

外国籍の人が亡くなった場合、日本で相続税はかかるのか

外国籍の方が亡くなった場合、「日本で相続税はかかるのでしょうか」という質問は、国際相続の相談で必ずといっていいほど出てきます。しかし、この質問に対して「はい」「いいえ」で即答できるケースはほとんどありません。なぜなら、日本の相続税は国籍ではなく、「日本との結びつきの強さ」を基準に設計されているからです。

日本の相続税は、被相続人と相続人それぞれについて、住所、国籍、居住年数といった要素を細かく組み合わせて判断します。その結果、見た目は似ているケースでも、日本での相続税の課税範囲が「全世界」になる場合と、「国内財産のみ」にとどまる場合とで、大きく分かれます。まさに、制度が人の顔をしていない世界です。

そこで以下では、まず用語を整理したうえで、最終的に25通りのパターンに分解し、日本での相続税がどう扱われるのかを明示します。全体像を理解するために限りなく内容は簡素化してあります。

被相続人の区分

被相続人①
相続開始時に日本に住所があり、過去15年以内の日本居住期間が10年超

被相続人②
相続開始時に日本に住所があり、過去15年以内の日本居住期間が10年以下

被相続人③
相続開始時に日本に住所がなく、相続開始前10年以内に日本に住所があり、日本国籍を有する

被相続人④
相続開始時に日本に住所がなく、相続開始前10年以内に日本に住所があり、日本国籍を有しない

被相続人⑤
相続開始時に日本に住所がなく、相続開始前10年以内に日本に住所がない

相続人の区分

相続人A
相続開始時に日本に住所があり、一時居住者に該当しない

相続人B
相続開始時に日本に住所があり、一時居住者に該当する

相続人C
相続開始時に日本に住所がなく、日本国籍を有し、相続開始前10年以内に日本に住所がある

相続人D
相続開始時に日本に住所がなく、日本国籍を有するが、相続開始前10年以内に日本に住所がない

相続人E
相続開始時に日本に住所がなく、日本国籍を有しない

ここまでの定義を見ると、「なぜ日本に住所があるのに、日本国内の財産だけしか相続税の対象にならない外国人がいるのか」と疑問に思われるかもしれません。この点は、日本の相続税制度が在留資格や滞在の性質と深く結びついて設計されていることを理解すると、見え方が変わってきます。

日本では、高度外国人材の受入れをはじめ、研究者や経営者などが中長期的に日本で活動しやすい環境づくりが進められてきました。その一方で、「日本に数年住んだだけで、全世界の財産に日本での相続税が課される」となると、結果として日本で働くこと自体をためらわせてしまい、人材誘致の妨げになりかねません。

この点を踏まえ、数度の税制改正を経て導入されたのが、居住年数に着目した相続税の調整ルールです。相続開始前15年以内に日本に住所を有していた期間が10年以下にとどまる外国人については、日本との人的・生活的な結びつきは一時的なものにすぎないとして、相続税の課税関係が緩和されています。具体的には、こうした外国人が亡くなった場合、日本での相続税は制限納税義務者として扱われ、課税対象は日本国内にある財産のみに限定されます。

言い換えれば、この区分は「日本に腰を据えて生活してきた人」と、「一定期間、日本で活動したにすぎない人」とを、相続税の場面で明確に線引きするための制度です。被相続人②に該当するかどうかは、単なる年数の計算に見えて、実は国の人材政策や国際的な課税のバランスを背景とした、極めて政策的な判断要素といえます。

外国籍の被相続人について25通りの相続税パターン

ここからが本題です。以下では、被相続人①〜⑤と相続人A〜Eを組み合わせ、日本での相続税について25通りすべて列挙します。

パターン1(被相続人① × 相続人A)
日本での相続税 かかる
課税範囲 全世界

パターン2(被相続人① × 相続人B)
日本での相続税 かかる
課税範囲 全世界

パターン3(被相続人① × 相続人C)
日本での相続税 かかる
課税範囲 全世界

パターン4(被相続人① × 相続人D)
日本での相続税 かかる
課税範囲 全世界

パターン5(被相続人① × 相続人E)
日本での相続税 かかる
課税範囲 全世界

パターン6(被相続人② × 相続人A)
日本での相続税 かかる
課税範囲 国内財産のみ

パターン7(被相続人② × 相続人B)
日本での相続税 かかる
課税範囲 国内財産のみ

パターン8(被相続人② × 相続人C)
日本での相続税 かかる
課税範囲 国内財産のみ

パターン9(被相続人② × 相続人D)
日本での相続税 かかる
課税範囲 国内財産のみ

パターン10(被相続人② × 相続人E)
日本での相続税 かかる
課税範囲 国内財産のみ

パターン11(被相続人③ × 相続人A)
日本での相続税 かかる
課税範囲 全世界

パターン12(被相続人③ × 相続人B)
日本での相続税 かかる
課税範囲 全世界

パターン13(被相続人③ × 相続人C)
日本での相続税 かかる
課税範囲 全世界

パターン14(被相続人③ × 相続人D)
日本での相続税 かかる
課税範囲 国内財産のみ

パターン15(被相続人③ × 相続人E)
日本での相続税 かかる
課税範囲 国内財産のみ

パターン16(被相続人④ × 相続人A)
日本での相続税 かかる
課税範囲 国内財産のみ

パターン17(被相続人④ × 相続人B)
日本での相続税 かかる
課税範囲 国内財産のみ

パターン18(被相続人④ × 相続人C)
日本での相続税 かかる
課税範囲 国内財産のみ

パターン19(被相続人④ × 相続人D)
日本での相続税 かかる
課税範囲 国内財産のみ

パターン20(被相続人④ × 相続人E)
日本での相続税 かかる
課税範囲 国内財産のみ

パターン21(被相続人⑤ × 相続人A)
日本での相続税 かかる
課税範囲 国内財産のみ

パターン22(被相続人⑤ × 相続人B)
日本での相続税 かかる
課税範囲 国内財産のみ

パターン23(被相続人⑤ × 相続人C)
日本での相続税 かかる
課税範囲 国内財産のみ

パターン24(被相続人⑤ × 相続人D)
日本での相続税 かかる
課税範囲 国内財産のみ

パターン25(被相続人⑤ × 相続人E)
日本での相続税 かかる
課税範囲 国内財産のみ

被相続人\相続人 A B C D E
被相続人① 全世界 全世界 全世界 全世界 全世界
被相続人② 国内のみ 国内のみ 国内のみ 国内のみ 国内のみ
被相続人③ 全世界 全世界 全世界 国内のみ 国内のみ
被相続人④ 国内のみ 国内のみ 国内のみ 国内のみ 国内のみ
被相続人⑤ 国内のみ 国内のみ 国内のみ 国内のみ 国内のみ

国際相続では、「外国人だから日本の相続税は関係ない」という思い込みが、最も高くつく勘違いになります。逆に、「日本に少し住んでいただけ」で全世界課税になることもあります。この温度差こそが、国際相続の怖さです。

外国籍の方が関係する日本での相続税については、事実関係の整理段階で結論がほぼ決まります。当事務所では、被相続人・相続人双方の居住関係を丁寧に整理し、日本での相続税がどこまでかかるのかを明確にしたうえでサポートしています。