Last Updated on 2025年12月7日 by 渋田貴正

離婚後に元配偶者に浪費癖や金銭トラブルがある場合には、子どもの将来を守るために早めの対応が欠かせません。ここで重要なキーワードとなるのが「管理権」です。管理権とは、子どもの財産を管理し、その財産に関する法律行為を代理する権限のことです。たとえば、子ども名義の預金の管理、学資保険の解約や契約、子ども名義の不動産に関する手続きなどを扱います。

親権と管理権の違い

親権は、「身上監護」と「財産管理」という二つの権限を含む大きな概念です。身上監護とは、生活・教育・医療・居所など、日々の暮らしに関する権限を指します。一方、管理権は子どもの財産に限定された権限です。

親権(包括的な権限)
身上監護権
子どもの生活や成長を守るための権限

  • 日常生活の世話
  • 教育方針の決定
  • 医療に関する同意
  • 居所(住む場所)の決定
財産管理権(=管理権)
子どもの財産を守り、法律行為を行う権限

  • 預貯金の管理
  • 学資保険など契約の管理
  • 不動産や金融資産の管理
  • 財産に関する法律行為の代理

親権と管理権はしばしば同じもののように扱われますが、実務では別物と理解することがとても重要です。

離婚後に管理権を制限するには

離婚後、親権は元配偶者が持つことになったものの、「財産管理だけは任せられない」というケースは決して珍しくありません。例えば元配偶者が以下に該当するようなケースです。

・浪費癖や金銭管理の甘さがあり、子ども名義の預貯金や学資保険が適切に守られているか不安がある
・生活費や資金繰りに困っており、子どもの財産に手を出してしまうおそれがある
・再婚や同居している第三者が、子どもの財産管理に不自然に関与しているように見える

管理権を制限したり、奪ったりするには、家庭裁判所に「管理権喪失の審判」または「管理権停止の審判」を申し立てます。これらは、子どもの財産に危険がある場合に認められる制度です。

民法
(管理権喪失の審判)
第835条 父又は母による管理権の行使が困難又は不適当であることにより子の利益を害するときは、家庭裁判所は、子、その親族、未成年後見人、未成年後見監督人又は検察官の請求により、その父又は母について、管理権喪失の審判をすることができる。

裁判所は「子の利益」を中心に判断します。そのため、感情的な不満や単なる不仲だけでは管理権制限は認められません。あくまで客観的な危険が必要です。

親権を持つ親について管理権が喪失・停止となった場合、原則として他方の親が管理権を担います。他方も適切でない場合には、家庭裁判所が特別代理人や未成年後見人を選任することもあります。

管理権は金融機関や法務局の実務で非常に重視されます。管理権のない親が手続きを行おうとしても、預金の引き出しや学資保険の変更、不動産の管理など、ほとんどの行為が認められません。いわば、「管理権の有無が財産管理のスタートライン」になります。

現在親権がない親でも、あらかじめ管理権を奪うことはできるのか

ここが最も誤解されやすい部分です。結論は、現在親権を持っていない親が、将来の心配を理由に「事前に管理権を奪う」ことは法律上できません。

たとえば、離婚の際に親権は相手方が持つことになったものの、これまでの生活を振り返ると、家計の管理があまり得意とは言えず、過去には借金や衝動的な支出が問題になったことがある、というケースがあります。さらに、再婚や同居の話が出てきており、将来的にその同居相手が子どもの財産に関与してくる可能性も否定できません。このような事情が重なると、「今この瞬間に問題が起きているわけではないが、このままで本当に子どもの財産は守られるのだろうか」と強い不安を感じる状況になります。

このような段階で、家庭裁判所に対して「将来、子どもの財産が使い込まれるかもしれないので、あらかじめ管理権を取り上げてください」と申し立てても、裁判所は基本的に認めません。

その理由は次のとおりです。

・管理権の喪失や停止は「今まさに危険が生じているか」が基準
・抽象的な将来の不安では審判の対象にならない
・親権を持っていない親はもともと管理権者ではないため「奪う」という構造にできない

とはいえ、これは「何もできない」という意味ではありません。実務では、次のような方法で「将来すぐ動ける体制」を整えることが非常に有効です。

対策の方向性 内容の概要
証拠を残す 金銭管理の問題や財産侵害の兆しについて、日記やメッセージ、記録など客観的な証拠を蓄積しておく
財産を動かしにくくする 預金や保険、不動産について、親が単独で自由に処分できない形に整えておく
申立ての準備 危険が現実化した場合に、管理権停止や喪失の申立てを速やかに行えるよう事前に準備しておく
制度を知っておく 親権喪失や停止時には未成年後見制度が使われることを理解し、将来の対応を想定しておく

管理権が必要となる代表的な手続き

手続き 管理権が必要か
子ども名義の不動産売却 必要(家庭裁判所許可も必要)
学資保険の解約 必要
子ども名義の預金の引き出し 必要

遺言で遺贈する財産について、親の管理権を及ばせないためには

祖父母やその他の親族、さらには血縁関係にない人が未成年の子どもに対して遺言で財産を遺贈する場合、原則としてその財産は親権者が管理することになります。しかし、遺言者が「この財産については、親に管理させたくない」と考えるケースも少なくありません。

このとき無償で子に財産を与える第三者が「親権者に管理させない意思」を明確に表示した場合、その財産は親の管理権に属さないことができます。この「無償で財産を与える第三者」には、遺言による遺贈者も含まれます。

民法
(第三者が無償で子に与えた財産の管理)
第830条 無償で子に財産を与える第三者が、親権を行う父又は母にこれを管理させない意思を表示したときは、その財産は、父又は母の管理に属しないものとする。
2 前項の財産につき父母が共に管理権を有しない場合において、第三者が管理者を指定しなかったときは、家庭裁判所は、子、その親族又は検察官の請求によって、その管理者を選任する。

したがって、遺言で未成年者に遺贈する財産について、親の管理権を及ばせたくない場合には、遺言の中でその意思を明確に示すことが不可欠です。単に心の中でそう考えているだけでは足りず、遺言書に明確な文言として落とし込む必要があります。

具体的には、「本遺贈財産については、受遺者の親権者に管理させない」という趣旨を遺言に明記します。さらに重要なのは、その財産を誰が管理するのかという点です。遺言者が管理者を指定した場合には、その指定された人物が財産管理を行うことになります。一方で、管理させない意思だけを示して管理者を指定しなかった場合には、家庭裁判所が管理者を選任することになります。

ここで注意したいのは、「親に管理させない」と書くだけでは、実務上は不十分になりやすいという点です。管理者が未定のままだと、結局は家庭裁判所の手続きが必要になり、時間や手間がかかることになります。スムーズな相続手続きを望むのであれば、遺言の段階で管理者まで指定しておくことが望ましいといえます。

なお、この方法は、親の管理能力に問題があるかどうかを裁判所に立証する必要はありません。管理権喪失や停止とは異なり、あくまで「遺言者が与える特定の財産」について、管理の帰属をコントロールする制度だからです。そのため、将来のトラブルを避けるための事前対策として、非常に実務向きの方法といえます。

未成年者への遺贈では、現金や預金だけでなく、不動産や有価証券などの管理が難しい財産が含まれることもあります。こうした財産について、親の管理権を当然視せず、遺言で管理方法まで設計しておくことは、相続後の混乱を防ぐうえで大きな意味を持ちます。

当事務所では、遺言者の思いを正確に汲み取りつつ、管理権との関係や相続実務まで見据えた遺言書の作成をサポートしています。「親に管理させたくない」という気持ちを、法的に有効で実務でも確実に機能する形に落とし込むには、条文の理解だけでなく、その後に起こる相続・登記・税務の流れまで踏まえた設計が欠かせません。未成年者への遺贈を検討されている方は、ぜひ一度、専門家にご相談ください。