Last Updated on 2025年12月3日 by 渋田貴正

遺言による未成年後見人の指定とは

未成年の子どもがいる家庭では、万が一のときに誰が子どもの権利を守るのかは非常に大切な問題です。そのための制度として「遺言による未成年後見人の指定」があります。

民法
(未成年後見人の指定)

第839条
  1. 未成年者に対して最後に親権を行う者は、遺言で、未成年後見人を指定することができる。ただし、管理権を有しない者は、この限りでない。
  2. 親権を行う父母の一方が管理権を有しないときは、他の一方は、前項の規定により未成年後見人の指定をすることができる。

この制度は親が亡くなったときに備えて、遺言によってあらかじめ信頼できる人を後見人として選んでおける仕組みです。

未成年後見人の指定とは、親が遺言で「自分が死亡した後に未成年の子どもを保護・監督し、財産管理を行う人」を指定する制度です。民法では「最後に親権を行う者」が遺言で後見人を選べると定めています。ここでいう「最後に親権を行う者」とは、単独で親権を行使している親を指します。例えば、夫婦の一方が亡くなり、残る一方が単独で親権を行っている場合、その親が遺言で後見人を指定できます。

また、親権を持っていても管理権(財産管理の権限)を家庭裁判所から失っている場合には、遺言で後見人を指定できません。未成年後見人の指定ができるのは「親権・管理権の両方を行使している親」に限られるためです。

遺言によって未成年後見人を指定しない場合に起こる問題

遺言によって後見人を指定しないまま親が亡くなると、家庭裁判所が後見人を選任することになります。

民法
(未成年後見人の選任)

第840条
  1. 前条の規定(注:遺言による指定)により未成年後見人となるべき者がないときは、家庭裁判所は、未成年被後見人又はその親族その他の利害関係人の請求によって、未成年後見人を選任する。未成年後見人が欠けたときも、同様とする。
  2. 未成年後見人がある場合においても、家庭裁判所は、必要があると認めるときは、前項に規定する者若しくは未成年後見人の請求により又は職権で、更に未成年後見人を選任することができる。

しかしこの選任には時間がかかることが多く、その間は子どもの生活上・財産管理上の大切な手続きが進まないという不都合が生じます。特に、学校手続き、医療同意、預貯金や保険の手続きなど、日常に密接に関わる事項で困難が出ることがあります。この空白期間を防ぐためにも、遺言で未成年後見人を指定しておく意義は非常に大きいといえます。

遺言によって未成年後見人に指定できる人・できない人

未成年後見人には誰でもなれるわけではありません。民法では、後見人になれない人を以下のように定めています。

区分 内容
未成年者 自身が未成年のため後見人にはなれない
破産者 財産管理能力に問題があるとして除外される
行方不明者 監護・財産管理が不可能となるため
裁判で免ぜられた代理人など 法定代理人・補佐人・補助人として不適格とされた者
後見人と訴訟関係のある者 利益相反が生じるおそれがあるため

信頼できる親族や、子どもとの関係性が良好な人を選ぶのが一般的ですが、平成23年の民法改正により、複数の後見人を指定することも可能になりました。生活面は親族、財産管理は専門家というように役割を分担する柔軟な体制を作ることもできます。

さらに、法人を後見人に指定することも可能になりました。法人後見人は担当者が交代しても法人として後見を継続できるため、「継続性」を重視したい方にも選ばれています。

遺言によって未成年後見人を指定した場合の効果

遺言で指定した未成年後見人は、親が死亡した瞬間にその権限が発生します。家庭裁判所の選任を待つ必要がないため、子どもの生活に空白期間が生じません。これが未成年後見制度の大きなメリットです。特にシングルマザー、シングルファーザーの家庭では、遺言によって後見人を指定しておくことで、子どもの将来の不安を大きく取り除くことができます。

また、遺言書はできる限り公正証書遺言で作成することをお勧めします。自筆証書遺言では形式不備により無効となるリスクがあるためです。公正証書遺言であれば、公証人が法律に合致する内容で仕上げてくれるため安心です。

遺言による指定と、家庭裁判所の選任の違いは次のとおりです。

項目 遺言による未成年後見人の選任 家庭裁判所による未成年後見人の選任
根拠法 民法839条 民法840条
開始時期 親の死亡と同時に自動的に開始 申立後、審理を経て選任。開始まで時間差あり
手続きの迅速性 非常に迅速。空白期間が生じない 選任まで数週間~数か月かかることがある
親の意思の反映 親の意思が最大限尊重される 裁判所が子の利益を基準に最適な者を選ぶ
柔軟性(複数後見人・法人選任) 可能(複数指定・法人指定どちらも可) 可能(必要に応じて追加選任あり)
選任の確実性 形式不備がなければ確実に後見開始 親族間の意見対立等により調整が必要なこともある
費用 遺言書作成費用(公正証書遺言なら約数万円) 家庭裁判所への申立費用は比較的低額(数百円~)
家庭への影響 子の生活に中断期間が生じないため負担が少ない 選任までの間、生活・財産管理に支障が出る可能性あり

遺言で後見人を指定しておくことが、子どもの生活を守るうえでいかに重要かが分かると思います。

未成年後見人の指定は、法律・家族関係・財産管理・相続の知識が複雑に絡む手続きです。誰を後見人にするか、複数にするか、法人を指定するか、財産管理の体制をどうするかなど、検討項目も多岐にわたります。当事務所では、司法書士業務と税理士業務の双方からアドバイスし、家庭の事情に合わせた最適な遺言内容をご提案できます。遺言書の作成、公正証書遺言の準備、相続発生後の登記手続きや税務申告まで一貫してお任せいただけますので、ぜひお気軽にご相談ください。