Last Updated on 2025年9月1日 by 渋田貴正
法人資産の低額譲渡とは
法人が保有している資産(不動産、株式、車両、備品など)を役員や従業員、またはその他の個人に対して、時価よりも低い金額で譲渡することを低額譲渡といいます。特に「時価」とは、通常の市場で取引されるとすれば妥当と認められる価額のことです。
この低額譲渡は一見すると自由に行えるように思えますが、税務上は「経済的利益を与えた」と判断されるため、法人・個人ともに課税関係が発生します。
法人資産の低額譲渡をした時の法人側の税務上の取り扱い
法人が資産を低額で譲渡した場合、譲渡価額と時価との差額については、法人が譲渡先の個人に「経済的利益」を供与したものと扱われます。具体的には次のように判定されます。
役員に対する譲渡 | 役員賞与や退職金とみなされる |
従業員に対する譲渡 | 給与や退職金とみなされる |
その他の個人に対する譲渡 | 寄付金や交際費とみなされる |
法人税の計算上、役員賞与は事前確定届出等の手続きを取っていない限り損金に算入できず、寄附金や交際費も損金算入限度額を超える部分は認められません。そのため、一般的には低額譲渡を行うことで課税される利益が増えることになります。
法人資産の低額譲渡をした時の個人側の税務上の取り扱い
一方で、譲渡を受けた個人は、その差額分の経済的利益について課税されます。
法人との関係によって以下のように扱いが分かれます。
- 役員や従業員が受け取った場合:給与所得・賞与・退職金
- 取引先などの第三者が受け取った場合:一時所得
したがって、法人と個人の双方に課税関係が生じる点が大きな特徴です。
具体的な数字だと以下のようになります。
譲渡対象 | 時価 | 譲渡価額 | 差額 | 法人側の取扱い | 個人側の取扱い |
社用車を役員に売却 | 100万円 | 50万円 | 50万円 | 役員賞与(損金不算入) | 給与所得として課税 |
不動産を従業員に売却 | 500万円 | 300万円 | 200万円 | 給与(損金算入可) | 給与所得として課税 |
株式を第三者に売却 | 200万円 | 80万円 | 120万円 | 寄附金(損金算入制限あり) | 一時所得として課税 |
特に会社清算時などには残っている資産を代表者などが個人的に引き継ぐことが多く、注意が必要です。会社清算の過程で、時価80万円の社用車が残っていたため、代表者に20万円で売却したとします。この場合、差額60万円が役員賞与とみなされ、法人側では損金不算入、代表者個人では給与所得または退職所得として課税されることになります。清算時は資産処分の一環として譲渡することが多いですが、通常の取引と同様に「時価との差額」が課税対象となるため、注意が必要です。特にこうした会社所有の資産の譲渡は、清算結了前の残余財産分配の前段階であり、「譲渡取引」として扱われる点に留意しなければなりません。
特に中古車など市場価値がある資産の場合、「時価」がどの価格を指すかが論点になります。
- 販売店の小売価格:一般消費者向けに表示されている価格で、やや高めに出る傾向があります。
- 買取業者の査定額:実際に法人が売却する際に成立しやすい金額で、税務上も妥当とされることが多いです。
- 客観的資料:日本自動車査定協会の査定額やオークション相場などを参考にすると、税務署にも説明しやすくなります。
たとえば、社用車の市場小売価格が120万円、買取業者の査定額が100万円とされた場合、役員に50万円で売却すれば「査定額100万円との差額50万円」として課税対象とされるのが一般的です。
このように、時価は販売価格よりも「実際の取引可能額=査定額」で判断されることが多く、査定書を残しておくことが重要です。
社用車だけでなく、会社が自社で不動産を所有していた場合にも同様に買取査定額を時価として扱えば安心です。
個人から法人へ譲渡する場合との違い
一方で、逆に「個人が法人に資産を低額で譲渡」した場合には、別のルールが適用されます。
所得税法上、個人が法人に無償または時価の1/2未満の価格で譲渡したときは、「時価で譲渡したもの」とみなして譲渡所得を計算します。つまり、個人は本来の時価で売却した場合と同じ課税が行われます。
この違いが生まれる理由は以下の通りです。
法人から個人への譲渡 | 法人が利益供与をしたものとみなし、法人税の計算を厳格にする必要があるため。 |
個人から法人への譲渡 | 個人が恣意的に安値で法人に資産を譲渡して課税逃れをすることを防ぐため、譲渡所得を時価で強制計算する仕組み。 |
つまり、いずれの場合も「税金逃れを防止する」ための制度ですが、法人税法と所得税法でアプローチが異なっているのです。
特に不動産や株式の譲渡の場合は、単に契約書を交わすだけでなく、登記や名義変更の手続きが必要になります。
- 不動産の場合:所有権移転登記が必要(司法書士が代理可能)
- 株式の場合:株主名簿の書換えや会社法上の手続きが必要
これらの手続きを怠ると法律上のトラブルにもつながる可能性があります。
法人から個人への資産の低額譲渡は、法人税・所得税・登記手続きが複雑に絡む分野です。誤った処理をすると二重課税や否認リスクに直結します。当事務所では税理士業務と司法書士業務をワンストップで対応しており、安全かつ有利に進めるためのサポートを行っています。ぜひ一度ご相談ください。

司法書士・税理士・社会保険労務士・行政書士
2012年の開業以来、国際的な相続や小規模(資産総額1億円以下)の相続を中心に、相続を登記から税、法律に至る多方面でサポートしている。合わせて、複数の資格を活かして会社設立や税理士サービスなどで多方面からクライアント様に寄り添うサポートを行っている。