Last Updated on 2025年7月23日 by 渋田貴正

会社を解散した後、残された財産や債務の整理を行う「清算手続き」は、清算してなくなる会社の最後の処理として非常に重要なステップです。この清算業務の中心を担うのが「清算人」ですが、その選任方法によって登記や実務対応に大きな違いが生じます。とくに会社名義の不動産を処分する場合には、誰が会社を代表して登記申請をするのかが極めて重要です。本記事では、通常の清算人選任方法と、裁判所が選任する場合の違いを明らかにし、不動産登記や税務の観点からその実務的なポイントを解説します。

清算人とは何をする人なのか

清算人とは、解散した会社を代表して残務整理を行う役割を担う者で、具体的には以下のような業務を行います。

  • 会社の資産を売却・換価する(不動産の売却やそれに伴う不動産登記申請を含む)
  • 債権回収・債務の弁済を行う
  • 残余財産を出資者に分配する
  • 税務署への申告・納税
  • 解散や清算結了の登記申請

つまり、清算人は会社の最終代表者として重要な法的責任を負います。

通常の清算人の選任方法

会社法では、清算人の選任について明確にルールが定められており、通常は会社内部で選任が行われます。

会社形態 清算人の選任方法 根拠条文
株式会社 ① 定款に定めた者
② 株主総会決議で選任された者
③ 上記不在時は取締役が就任
会社法478条1項
合同会社 ① 定款で定めた者
② 業務執行社員の過半数による選任
③ 上記不在時は業務執行社員
会社法647条

このように、内部の取締役や社員が清算人となることで、迅速かつ円滑に手続を進められるのが通常です。

裁判所が清算人を選任するのはどんなときか

しかし、会社内部で清算人を決められない場合には、家庭裁判所が清算人を選任することになります。具体的には、以下のような状況が該当します。

  • 定款に清算人の定めがなく、また株主総会や社員の過半数の同意が得られない
  • 解散当時の代表者や社員が死亡・所在不明で連絡がつかない
  • 相続や争いにより関係者が多数存在し、合意形成が困難
  • 株主構成が複雑で、機関決議による選任が不可能
  • 合同会社で代表社員が一人だけで死亡し、他の社員が存在しない

このような場合、会社内部のルールが機能しないため、株主・債権者・取引先・不動産取得予定者などの利害関係人が家庭裁判所に対して清算人の選任を申し立てることができます。

申立てが認められるには、上記のように通常選任ができない事情の裏付けが必要です。また、裁判所は、会社法で定められた清算事務のすべてを求めず、たとえば「不動産の譲渡」や「債権譲渡通知の受領」など、特定の清算目的に限定して選任する運用も実務上行っています。

裁判所選任の清算人による登記や不動産取引

裁判所が選任した清算人は、会社を法的に代表する立場となり、不動産の売却や契約の締結、登記申請を行うことができます。

裁判所選任の清算人が行う主な業務

  • 不動産の売買契約締結
  • 所有権移転登記の申請(法務局への登記代理)
  • 限定された目的の清算業務(例:譲渡、通知のみ)

通常、裁判所は外部の弁護士や司法書士など、清算業務に精通した専門家を選任します。登記実務を伴う場合でも、必要な登記原因証明情報や委任状などを備え、正確に申請が行われます。

裁判所が選任する清算人は、必ずしも会社法に定められたすべての清算手続を行う必要はありません。たとえば「不動産の名義変更だけしてほしい」「債権譲渡の通知だけ受け取ってほしい」といった限定的な清算事務のために清算人が選ばれるケースもあります。このような場合、必要な業務が終わった時点で、裁判所は清算人の選任を取り消し、その登記も裁判所の手続きで自動的に抹消されます。実務ではこうした柔軟な対応が行われることがあります。

裁判所選任による清算人の登記と抹消の流れは次のとおりです。

  1. 裁判所選任の登記申請
     選任された清算人が自ら、登記簿に「清算人就任」の登記を行います。
     登記原因:裁判所選任(会社法478条2項)
  2. 不動産登記の実施
     登記簿上、会社の代表者として登記された清算人が、不動産の売買契約を締結し、所有権移転登記を実行
  3. 清算事務の終了と報告
     所定の業務が完了すれば、家庭裁判所に報告し、「選任取消決定」(非訟事件手続法59条1項)を受ける
  4. 清算人登記の抹消
     登記簿上の清算人記録は、裁判所書記官の職権で抹消登記されます(登記官嘱託)

このように、選任・就任から終了・抹消までが法的手続として一貫して行われる点が特徴です。

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