Last Updated on 2025年7月16日 by 渋田貴正

会社を設立したばかりの方や、これから会社を立ち上げようと考えている方にとって、役員報酬の設計は大切な第一歩です。

その中でも「事前確定届出給与」という制度は、設立初年度に役員賞与(ボーナス)を法人の経費(損金)として計上できる唯一の方法です。

しかし、この制度には非常に厳格なルールがあり、届出内容と違う金額や支払い方をしてしまうと、税務上の損金として認められなくなるという大きなリスクがあります。

今回は、会社設立直後の経営者の方向けに、事前確定届出給与の基本から、よくあるミスやその影響までを、分かりやすく解説します。

役員へのボーナスは「事前確定届出給与」で損金にできる!

会社設立直後は、売上の立ち上がりが不安定なこともあり、役員賞与を出す場合はできる限り税務上も有利にしたいと考えるものです。

通常、役員賞与は法人税の計算上、損金に算入できません。しかし、次の3つの要件を満たした「事前確定届出給与」であれば、法人の経費として処理可能です。

要件 内容
① 決議の実施 株主総会・社員総会で支給金額・時期を決定すること
② 税務署への届出 決議から1か月以内に税務署へ届出書を提出すること
③ 届出通りの支給 届出通りの金額・時期で支給を実行すること

この制度は、設立時の株主総会議事録を使って決議するケースが多く、会社設立の準備段階から報酬設計を行う必要があります。特に設立1年目は設立日から2か月以内の届出といったタイトなスケジュールで届出が必要となる点に注意が必要です。

金額が違うと全額アウト? 届出と異なる支給のリスク

事前確定届出給与は「届出した通りの金額・支給日」で支給しなければなりません。たとえわずかな増減や遅れでも、原則として全額が損金不算入になるという非常に厳しい制度です。しかし、実際のところの運用がどのようになっているかを知っておくことも重要です。

【数値例】届出内容と異なる支給をした場合の取扱い

役員 届出金額 実際の支給額 税務上の扱い 損金算入可否
A代表取締役 100万円 100万円 届出通り
B取締役 100万円 80万円(減額支給) 届出と異なる ✕ 全額不算入
C取締役 100万円 100万円 届出通り

減額支給であっても、B取締役に支給した80万円は全額損金不算入となります。増額も同様にアウトです。

1人だけ支給しなかった場合

届出はしたが、ある役員には一切支給しなかった(不支給)というケースもあります。

この場合、その役員の分は当然ながら損金算入できません。ただし、他の役員が届出通りに支給されていれば、その分については損金算入可能です。

役員 届出金額 実際の支給額 税務上の扱い 損金算入可否
A社長 100万円 100万円 届出通り
B取締役 100万円 支給なし 支給されていない
C取締役 100万円 100万円 届出通り

事前確定届出書を出したけど結局誰にも支給しなかった場合は?

さらに、設立時に役員3名分について届出書を提出したものの、結果的に誰にも支給しなかったという場合もあります。

このような場合は、届出の効力が失われ、全員分の賞与が損金不算入となります。税務署に「支給しませんでした」といった追加の届出は原則必要ありませんが、実務上は注意点があります。

役員ボーナスを支給しない場合に変更届は必要なのか?

税務上の原則では、事前確定届出給与の金額や支給予定日を変更した場合には「変更届出書の提出が必要」とされています。

ただし、実務上は次のような事情も考慮されています。

  • 支給しなかった(不支給)場合:変更届は原則必要。ただし、実際には未提出でも形式的ペナルティはほぼなし。
  • 減額支給した場合:これも原則は変更届が必要ですが、提出しても税務上は減額支給=要件不充足と判断され、損金算入できないのが通例です。

つまり、変更届を出したかどうかに関わらず、届出内容と異なる支給をすれば損金不算入になると考えておくのが安全です。届出の内容に忠実な実行が最も重要なのです。ただし、不支給にする場合に変更届を出した置いたほうが安全ということは言うまでもありません。

よくある質問:複数の役員のうち1人だけ異なる支給でも、他の人は大丈夫?

はい、事前確定届出給与は「役員ごと」に判断されるため、1人だけ届出通りでなかったとしても、他の人には影響しません。

まとめると以下のようになります。

ケース 結果 損金算入
届出額より多く支給 定めと異なる ✕ 不可
届出額より少なく支給 定めと異なる ✕ 不可
支給なし(不支給) 定めと異なる ✕ 不可
一部未払い(資金繰りの都合) 恣意的でなければOKの可能性 △ 要注意
複数役員のうち1人だけ違う支給 他の役員には影響なし ○ 可

事前確定届出給与は、届出のタイミングだけでなく、その後の支給実行までトータルで設計することが大切です。

設立直後は資金繰りが不安定なこともあり、結果的に「支給できなかった」「減額した」となってしまうケースも少なくありません。しかしそれは税務上ではすべて損金不算入=税金が増えるリスクにつながります。

当事務所では、会社設立時の役員報酬の設計から、事前確定届出給与の届出書作成、提出、支給スケジュールのアドバイスまで一貫して対応しております。失敗のないスタートダッシュのために、ぜひお気軽にご相談ください。