Last Updated on 2025年6月22日 by 渋田貴正

不動産の名義を相続人に変更する「相続登記」は、2024年4月から義務化され、3年以内の申請が必要になりました。しかし相続手続きの中には、「相続人の一人が自分の相続分を他の人に譲る(=相続分の譲渡)」という場面も少なくありません。この相続分の譲渡があった場合、登記の流れはどうなるのでしょうか。

相続分の譲渡とは?

相続人にはそれぞれ法定相続分という持分があり、不動産や預貯金などの遺産は原則としてその持分に応じて共有されます。しかし、相続人の中には「自分はもう相続財産を受け取らなくてもよい」と考える人がいたり、他の相続人に取りまとめてもらった方が手続きがスムーズになると判断するケースもあります。

このような場合に使えるのが「相続分の譲渡」という制度です。これは、相続人が自分の相続分(法定相続分や特定の割合)を他の人に譲り渡すことで、譲受人がその相続分を取得するものです。

項目 遺産分割協議 相続分の譲渡
定義 相続人全員で遺産の分け方を決める話し合い 相続人の一人が自分の相続分を他人に渡す行為
必要人数 相続人全員の合意が必要 譲渡人と譲受人の合意だけで可能(他の相続人の同意不要)
対象 遺産全体をどう分けるか 法定相続分など、割合としての権利を他人に渡す
形式 遺産分割協議書を作成(印鑑証明が必要) 相続分譲渡契約書を作成(譲渡人の印鑑証明が必要)
譲渡先 原則として相続人 相続人でも第三者でも可能
登記の影響 協議内容に従って登記 譲受人の持分で登記可能(相続人間なら直接登記)

譲渡先は、他の相続人である場合もあれば、相続人ではない配偶者や法人などの第三者である場合もあります。

相続分の譲渡先が相続人である場合の登記

相続人が甲・乙・丙の3人で、それぞれの法定相続分は3分の1ずつ。相続登記をする前に、丙が甲に自分の相続分(3分の1)を譲渡した場合。

このようなケースでは、いったん3人で法定相続分どおりに相続登記をしてから譲渡登記をする必要はありません。最初から、甲の持分を3分の2(自分の分と丙から譲り受けた分)、乙の持分を3分の1として、直接相続登記をすることが可能です。遺産分割協議を経ずに一部の相続人に他の相続人の持分を寄せることができるということです。

この場合に必要な書類

書類名 内容
戸籍類一式 被相続人の出生から死亡までの戸籍、除籍謄本等
相続関係説明図 または 法定相続情報一覧図 相続人間の関係を示した図
相続分譲渡契約書 譲渡の事実と内容を記載。丙の印鑑証明書が必要
または 丙が譲渡を認めた確認書(印鑑証明書付き)でも可

相続人のうち複数人が1人に相続分を譲渡した場合は、その譲受人の持分を合計し、その割合で直接相続登記を行うことが可能です。譲渡人の名前を登記簿に載せる必要はありません。

相続分の譲渡先が相続人以外の第三者である場合の登記

相続人以外の人、たとえば被相続人の配偶者・子の配偶者・法人などが相続分の譲渡を受けた場合には、取り扱いが異なります。

この場合は、一度相続人全員で法定相続分に基づく登記を行い、その後に譲渡を受けた第三者への持分移転登記を別途行う必要があります。

登記の流れ(第三者が譲受人の場合)

  1. 相続人全員で法定相続分に基づく相続登記をする
  2. 相続分の譲渡に基づいて第三者への持分移転登記を行う

第三者への譲渡時の必要書類

書類 内容
相続登記に必要な戸籍類 被相続人と相続人の関係を示すもの
相続分譲渡契約書 譲渡内容を記載し、譲渡人の印鑑証明書を添付
不動産の登記識別情報等 移転登記に必要

相続人が5人いて、それぞれが5分の1ずつの法定相続分を持っている場合に、うち3人が1人に相続分を譲渡した場合、その譲受人は合計5分の4を取得したことになります。このような場合、最初から譲渡後の割合で相続登記を申請することが可能です。

また、相続人が4人で、そのうち3人が1人に相続分を譲渡したときは、譲受人1人のみを相続人として相続登記をすることも可能です。この場合、譲渡を証明する書面として、譲渡人全員の印鑑証明書付きの契約書または確認書を提出する必要があります。

さらに、相続分を譲渡した相続人が登記前に死亡していたとしても、その相続人の遺族全員が「生前に相続分を譲渡していた」と認める書面を提出することで、譲受人のみでの相続登記が可能になるケースもあります。

このように、相続人間での譲渡であれば、登記実務において柔軟に対応が認められているのが実情です。

相続分の譲渡共有持分の譲渡は違うもの

注意が必要なのは、「相続分の譲渡」と「特定の不動産の共有持分の譲渡」は異なるという点です。

たとえば、乙と丙が「この土地の持分だけを甲に譲る」といった場合、これは遺産全体の相続分を譲ったのではなく、共有持分を売買・贈与したと見なされます。このときは、

  1. 一度、甲・乙・丙の3人で法定相続分に基づいて共同相続登記を行い、
  2. その上で甲に持分を移転する登記を別途申請する

という2段階の手続きが必要です。

譲渡の対象 登記方法 注意点
相続分全体(遺産全体) 譲渡後の割合で直接相続登記 譲渡人の印鑑証明書付き書類が必要
特定の不動産の共有持分 一度法定相続で相続登記 → その後持分移転登記 相続分の譲渡とは別の扱い

相続分の譲渡があった場合、その内容や譲渡先によって登記の進め方が大きく異なります。必要書類の作成や添付書類の確認、場合によっては税務上の判断も関わってくるため、登記と税務の両面からの専門的なサポートが必要になることもあります。

当事務所では、税理士・司法書士の両資格を活かし、相続分の譲渡に伴う相続登記や持分移転登記をワンストップでサポートしております。

相続分を譲りたい、あるいは譲り受けたが手続きがわからない、という方は、どうぞお気軽にご相談ください。複雑な相続登記も、分かりやすく丁寧にご案内いたします。