Last Updated on 2025年6月16日 by 渋田貴正

外国籍の所有者が行方不明でも、日本の法律で対応できます

外国籍の方が日本の不動産を所有していたが、母国へ帰国した後に長年連絡が取れない。このようなケースでは、不動産の管理・相続・売却などができず、周囲にも多大な影響を与えることがあります。

結論からいえば、被相続人や不動産の所有者が外国籍であっても、日本の法律に基づいて対応可能です。以下でその理由と手続きの流れを、根拠法令を交えて分かりやすく解説します。

不在者財産管理人の選任が最初のステップ

行方不明の所有者が日本に不動産を残している場合、不在者財産管理人の選任申立てが有効な手段です。

 外国籍の不在者でも不在者財産管理人の申立ては可能です。

  • 財産が日本にある以上、その所在地法(日本法)が適用されます。
  • 管轄裁判所は不動産の所在地を管轄する家庭裁判所です。
  • 所有者が外国籍でも、日本にある財産管理は日本法で行えるという考え方です。

【不在者財産管理人の申立てできる人】

区分 具体例
利害関係人 隣地所有者、不動産共有者、相続人、債権者など
検察官 公益に関わる場合

【主な権限】

種類 内容
保存行為 建物の修繕、塀の補修など
利用・改良行為 雑草除去、短期賃貸借など
裁判所の許可が必要 売却、解体、相続協議など
長期間行方不明なら「失踪宣告」も検討

7年以上行方がわからない場合は、失踪宣告を申し立てることで法律上「死亡した」とみなされ、相続手続きを進めることができます。

法の適用に関する通則法

(失踪そうの宣告)
第6条 裁判所は、不在者が生存していたと認められる最後の時点において、不在者が日本に住所を有していたとき又は日本の国籍を有していたときは、日本法により、失踪そうの宣告をすることができる。

失踪宣告の申立てできる人】

  • 法律上の利害関係人(相続人、受遺者、不動産共有者など)

【手続きの流れ】

  1. 申立て(所在不明の証拠提出、入管照会など)
  2. 官報公告(3カ月以上)
  3. 届出がなければ失踪宣告審判→確定
相続財産管理人の選任と国庫帰属までの流れ

失踪宣告により「死亡」とみなされた後、相続人が不明・不存在の場合には、相続財産管理人の選任を申し立てます。

【相続財産管理人の選任申立てできる人】

区分 具体例
利害関係人 相続債権者、受遺者、不動産の隣人など
検察官 必要がある場合

【相続財産管理の流れ】

ステップ 内容
①選任 裁判所へ申立て。30~100万円程度の予納金
②公告(債権申出) 官報公告で債権者・受遺者を募る
③公告(相続人捜索) 相続人不明ならさらに6カ月以上の公告
④特別縁故者の申立て 縁のある人は財産分与を申請できる(民法958条の3)
⑤国庫帰属 誰も現れなければ残余財産は国へ引き継ぎ

表:各手続きの比較と外国籍所有者への対応可否

手続き名 管轄裁判所 適用法(準拠法) 外国籍でも申立可能?
不在者財産管理人 所在地を管轄する家庭裁判所 日本法(通則法32条) ✅ 可能
失踪宣告 最後の住所地を管轄する家庭裁判所 日本法(通則法32条) ✅ 可能
相続財産管理人 相続財産の所在地を管轄する家庭裁判所 所在地法が準拠(反致もあり) ✅ 可能

外国籍でも日本で対応できる、という安心感を

被相続人や不動産所有者が外国籍であっても、不動産が日本にある限り、日本の法律で処理できます。裁判所の管轄も日本で、申立権も一定の利害関係があれば広く認められています。

そのため、「外国人だからどうしようもない」とあきらめる必要はありません。放置すれば不動産の劣化、隣地とのトラブル、固定資産税の未納など、状況は悪化する一方です。

当事務所では、外国籍の不在者や被相続人に関する問題を、司法書士と税理士の両方の視点からサポートしております。難しい準拠法の判断や申立書類の作成まで、どうぞ安心してご相談ください。