Last Updated on 2025年6月12日 by 渋田貴正
中国籍の方の相続登記で直面する「婚姻関係の証明」という課題
中国籍の方が日本国内に不動産を所有していた場合、その方が亡くなると不動産の相続登記が必要になります。
その際、相続人の確定のために、配偶者の有無や婚姻関係の継続についての証明を求められることが多くあります。しかし、日本と中国では婚姻制度や証明書類の考え方が異なるため、日本の実務にそのまま当てはめることができず、戸惑われるご家族も多いのが現状です。
以下の表は、日本と中国での婚姻関係の証明方法の主な違いをまとめたものです。
日本と中国における婚姻関係の証明の違い
項目 | 日本 | 中国 |
婚姻の登録制度 | 戸籍制度に基づく婚姻届 | 民政部による婚姻登記制度 |
証明書の名称 | 戸籍謄本 | 結婚証(婚姻登记证) |
婚姻継続の証明方法 | 戸籍上に婚姻継続の記載あり | 結婚証を保有していること自体が婚姻継続の証明とされる |
離婚時の対応 | 離婚届提出 → 戸籍に記載 | 結婚証を回収 → 離婚証(离婚证)を交付 |
公証による婚姻証明 | 必要に応じて作成可 | 結婚証があれば、婚姻継続を重複して証明する公証書は作成不可とされることが多い |
このように、中国では結婚証の保有が婚姻継続を示しており、公証書による再証明は原則不要という運用がなされています。
中国では「婚姻公証書」が発行できないことがある
日本では外国人配偶者の婚姻関係を公証書で証明することが求められることがありますが、中国の公証制度では、次のような理由で婚姻関係を証明する公証書が発行されないことがあります。
- 結婚証を保有していれば、婚姻関係は既に成立・継続していると認められる
- 離婚した場合には結婚証を公的機関が回収し、代わりに離婚証を発行するため、重複証明となる婚姻公証書は不要
- 死亡後に「再婚していないこと」などは証明できるが、「婚姻継続」を明示する公証は不要かつ不可との判断が一般的
このような制度上の背景から、婚姻公証書の取得が難しいという事例は少なくありません。
中国での婚姻公証書がない場合の日本での相続登記に必要な対応とは?
登記実務では、「婚姻関係を合理的に証明できる」のであれば、公証書がなくても対応できることがあります。以下のような資料と対応が考えられます。
- 結婚証の提出(日本語訳付き)
中国の結婚証(婚姻登记证)の原本のほか、日本語に翻訳したものを添付し、これが婚姻関係継続の証明であることを説明します。中国の法律では離婚すれば、結婚証が回収され離婚証が交付されるので結婚証の保有そのものが婚姻関係の継続(または亡くなるまで婚姻関係が継続していたこと)の証明になります。
翻訳には翻訳者の署名や訳文証明が必要です。
- 公証書が取得できないことの説明書(申述書)の添付
公証書が取得できなかった理由を、申述書として提出することで、実情を補足することが可能です。当事務所ではそうした申述書の作成も行っています。
死亡の証明:日本の書類で対応できるか?
死亡証明についても、中国側で死亡登記をしていない(できない)場合、日本で発行された書類をもとに登記申請を進める必要があります。
書類名 | 記載される情報 | 補足事項 |
死亡診断書 | 死亡日・死因・発行医師の署名等 | 医療機関で作成 |
住民票除票 | 氏名・住所・死亡日・世帯情報など | 市区町村役場で取得可 |
これらの書類に同一の死亡日が記載されており、かつ日本での居住歴が明らかであれば、日本側の書類で登記官が死亡日を認定することが可能です。
登記実務上の取り扱いと法的根拠
登記官は、不動産登記法および不動産登記規則に基づき、相続の原因(死亡)とその日付を確認し、相続人の資格を審査します。
つまり、中国籍の方であっても、婚姻関係や死亡日が日本側の合理的な証明資料で説明できれば、公証書がなくても説明を尽くすことで相続登記は受理される可能性があるということです。
税務の視点:中国籍配偶者が相続人の場合の注意点
婚姻関係が認められた配偶者が相続人となる場合、相続税法上の配偶者控除(相続税法第19条の2)が適用されます。ただし、いくつかの注意点があります。
- 被相続人が日本居住者であれば、日本にある財産は課税対象
- 配偶者が非居住者であっても、一定の条件下で申告義務が生じる
- 非居住者であることを理由に控除が制限されることもあるため、事前の税務確認が不可欠
中国籍の被相続人に関する相続登記では、婚姻関係の証明や死亡日の特定、書類取得の困難さといった課題が複雑に絡みます。また、相続税の申告が必要になるケースもあり、税務と登記の両方の知識が求められます。
当事務所では、司法書士として登記実務を、税理士として相続税申告までワンストップで対応しております。
中国籍の相続に関してお困りの方は、どうぞお気軽にご相談ください。

司法書士・税理士・社会保険労務士・行政書士
2012年の開業以来、国際的な相続や小規模(資産総額1億円以下)の相続を中心に、相続を登記から税、法律に至る多方面でサポートしている。合わせて、複数の資格を活かして会社設立や税理士サービスなどで多方面からクライアント様に寄り添うサポートを行っている。