Last Updated on 2025年1月27日 by 渋田貴正
遺言の検認と目的
遺言の検認とは、家庭裁判所が遺言書の存在および内容を確認し、これを公式に記録する手続きです。検認の目的は、遺言書が紛失や改ざんされることを防ぎ、相続人間でのトラブルを未然に防ぐことにあります。ただし、検認は遺言の有効性や内容の適法性を判断するものではなく、遺言の真正な状態を保全するための手続きに過ぎません。
遺言の検認手続きは、遺言の存在を公式に確認し、相続人間の公平を保つ重要な手続きです。しかし、検認そのものは遺言の有効性を保証するものではない点に注意が必要です。例えば、検認を経た遺言書であっても、法的に無効であれば登記申請には使用できないなどの可能性があります。
遺言の家庭裁判所での検認手続きにおいては、次の点に注意が必要です。
- 検認請求のタイミング
遺言書が発見されたら、相続人間で争いが生じる前に速やかに検認手続きを進めることが重要です。遅れることで相続財産の管理や分配が複雑化する場合があります。 - 封印された遺言書の取り扱い
勝手に封印を開封すると過料の対象となるだけでなく、他の相続人からの不信を招き、相続手続きが混乱する原因になります。そのため、封印がある遺言については必ず家庭裁判所で開封するようにしましょう。 - 公正証書遺言や法務局での自筆証書遺言保管制度の活用
公正証書遺言や自筆証書遺言保管制度は検認が不要であり、迅速な相続手続きを進めることができるため、相続トラブルを避ける観点からも有用です。遺言を作成する際には、公正証書遺言や自室証書遺言保管制度の活用を検討するのが賢明です。
遺言の保管者の義務
民法では、以下の通り遺言書の保管者または相続人が家庭裁判所に遺言書を提出し、検認を請求する義務が定められています。ただし、公正証書による遺言は検認は不要です。公正証書遺言は公証人の立会いのもとで作成され、その信頼性が高いため、改めて検認する必要がないためです。
(遺言書の検認)
(過料)
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- 遺言書の保管者の義務
遺言書の保管者は、相続の開始(被相続人の死亡)を知った後、遅滞なく家庭裁判所に遺言書を提出し、その検認を請求する義務があります。「遅滞なく」とは、一般的に合理的な期間内での対応を意味し、相続人間でトラブルが発生する前に速やかに行う必要があります。 - 保管者がいない場合の対応
遺言書の保管者がいない場合、相続人が遺言書を発見したときには、同様に家庭裁判所に提出して検認を請求する義務があります。 - 封印された遺言書の扱い
封印のある遺言書については、相続人またはその代理人の立会いのもとで家庭裁判所が開封する必要があります。これは、封印された遺言書を勝手に開封することで内容が改ざんされるリスクを防ぐためです。封印は自筆証書遺言に必須の要件ではないので、封印が必ずしもないケースもありますが、封印があれば勝手に開封してはいけないということです。
上記のように、封印のある遺言は家庭裁判所での相続人や代理人の立会いのもとでないと開封ができないことになっています。そして、自筆証書遺言書を家庭裁判所に提出しなかったり、検認を経ずに開封したりした場合のペナルティも定められています。
具体的には、自室証書遺言について、以下のような行為が5万円以下の過料の対象になっています。「過料」は刑罰ではなく、行政上の秩序罰であり、違反行為に対する制裁として科されるものです。この過料は、法令の義務を怠った行為に対する抑止効果を狙っています。
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- 遺言書を家庭裁判所に提出しないこと。
- 検認を経ずに遺言の内容を実行すること。
- 家庭裁判所以外で封印された遺言書を開封すること。
遺言の「封印」とは
「封印」とは、遺言書が改ざんされていないことを保証するための物理的な手段です。具体的には、以下のような方法が用いられます。
封筒の封印
- 遺言書を封筒に入れ、その封筒をのりやシールなどで閉じる。
- 封筒の継ぎ目部分に封印として印鑑(実印や認印)を押す。
- 遺言者が署名を書き入れることで、封印の状態を明示する。
封ろう(ワックスシール)
昔ながらの方法として、封筒や紙の封じ目に溶かした蝋(ろう)を垂らし、その上から印章を押す。
この方法は、封印が破られると蝋が割れるため、改ざんされたことが一目で分かる特性があります。かなり古風で趣のある方法ですが、これも封印の一種です。
その他の封じ方
- 特殊なテープや封印専用のシールを用いて、開封時に痕跡が残るようにする。
- 封筒や保護紙に「未開封」の旨を明記し、改ざん防止のための注意書きを添える。
どのような方法にせよ、封印とは「遺言者自身がこの状態での保管を望んでいる」という意思を明確に示します。遺言者が中身を家庭裁判所での開封まで秘密にしておきたい場合に施した方法を「封印」を解釈すればよいでしょう。

司法書士・税理士・社会保険労務士・行政書士
2012年の開業以来、国際的な相続や小規模(資産総額1億円以下)の相続を中心に、相続を登記から税、法律に至る多方面でサポートしている。合わせて、複数の資格を活かして会社設立や税理士サービスなどで多方面からクライアント様に寄り添うサポートを行っている。