Last Updated on 2025年12月15日 by 渋田貴正

株式会社の決算書を見た際に、「資本金が1,000万円しかないのに、資本準備金が何億円もある」みたいに資本金と資本準備金がアンバランスになっている株式会社があります。

この理由は設立時や増資時の話ではなく、その後の会社の歩み方にあります。数字だけを見ると一瞬で誤解しやすいのですが、そこには会社法上きちんとした手続と、経営上・税務上の判断が積み重なっています。

設立時・増資時の資本金、資本準備金の基本ルール

まず大前提として、株式会社の資本金と資本準備金についての基本ルールを整理しておきます。

会社法では、設立時や増資(株式発行)の際に払い込まれた金額は、原則としてすべて資本金になります。ただし、その払込金額の2分の1を超えない範囲であれば、資本金に計上せず、資本準備金として計上することが認められています。

会社法
(資本金の額及び準備金の額)
第445条

  1. 株式会社の資本金の額は、この法律に別段の定めがある場合を除き、設立又は株式の発行に際して株主となる者が当該株式会社に対して払込み又は給付をした財産の額とする。
  2. 前項の払込み又は給付に係る額の2分の1を超えない額は、資本金として計上しないことができる。
  3. 前項の規定により資本金として計上しないこととした額は、資本準備金として計上しなければならない。

この規定は、「払い込みを受けた出資金の50%は必ず資本金にしなければならない」という最低ラインを定めたものです。これは増資時だけでなく会社設立時であっても同じで、最初から資本金を極端に小さくし、残りをすべて資本準備金にすることはできません。いずれの場合も新株を発行しているという点は変わらないためです。

つまり、資本金と資本準備金が半分になっていない原因は、設立時や増資時の処理そのものではなく、その後に行われた資本の調整にあるということになります。

原因その1 無償減資によって資本金が引き下げられているケース

最も典型的な原因が、無償減資です。無償減資とは、株主にお金を返さずに資本金の額だけを減少させる手続です。欠損填補を目的として行われる資本金の減少も、実務上は無償減資の一類型と理解すると分かりやすいでしょう。いずれも会社の純資産の部の中で資本の内訳を組み替える手続であり、株主に対する払戻しを伴わない点が共通しています。

無償減資の主な手続の流れは、次のとおりです。
株主総会決議 → 債権者保護手続 → 効力発生 → 登記申請

資本金の無償減資を行う場合は、パターンに応じて以下の株主総会決議が必要となります。

以下のケース以外 株主総会の特別決議
資本金の減少額を全額欠損補てんに充てる場合 定時株主総会の普通決議
増資と減資を同時に行って、結果資本金の額が変わらない場合 取締役の決定または取締役会の決議

無償減資が行われる理由として特に多いのが、資本金を1億円以下に抑えるためです。資本金が1億円以上になると外形標準課税の対象となり、赤字であっても一定の税負担が生じます。また、消費税の免税判定においても、資本金の額が影響する場面があります。そのため、過去の増資により資本金が大きくなった会社が、無償減資によって資本金だけを引き下げる判断をすることがあります。

さらに、欠損填補を目的とする無償減資では、過去の赤字を整理し、見た目にも分かりやすい財務体質に整えるという狙いがあります。決算書上の累積欠損を一度リセットすることで、金融機関や取引先への説明がしやすくなるという実務上のメリットもあります。

このような手続を経ることで、登記簿上は結果的に「資本金が少なく、資本準備金が極端に多い会社」という状態が生まれます。帳簿上、資本準備金が膨らんだように見えますが、実態としては資本金を意図的に小さくした結果にすぎません。

原因その2 合併や会社分割など組織再編による影響

合併や会社分割といった組織再編も、資本金と資本準備金のバランスを大きく変える要因です。特に適格組織再編では、税務上の中立性を確保するため、資本金を引き継がず、資本剰余金として処理されることがあります。

この場合の手続は、合併契約書や分割計画書の作成、株主総会の特別決議、債権者保護手続、登記申請と、通常の会社設立や増資よりもはるかに複雑です。その結果として、見た目だけでは理由が分からない資本構成になることも珍しくありません。

ここまで見てきたように、資本金と資本準備金が半分になっていない背景には、無償減資や欠損填補、組織再編といった会社法上の手続があります。そして、これらの判断には、税務が強く関係しているケースが多く見られます。

資本金の額によって、外形標準課税の対象になるかどうか、消費税の免税が使えるかどうかなど、税務上の扱いが変わる場面があるためです。そのため、意図的に無償減資を行い、資本金を引き下げるケースもあります。

ただし、税務と登記は別物です。税金だけを見て資本政策を決めてしまうと、会社法上必要な決議や債権者保護手続が抜け落ち、後から登記の修正や是正を求められることもあります。資本金と資本準備金のバランスは、税務・登記・会社法の三点セットで考えることが重要です。

当事務所では、税理士業務と司法書士業務の両面から、株式会社の資本金・資本準備金の整理、無償減資や欠損填補の手続、会社設立や増資・減資の登記まで一体でサポートしています。ぜひ一度ご相談ください。