Last Updated on 2025年11月24日 by 渋田貴正
2024年4月の相続登記の義務化により、多くの方から「相続人の一部が協力しなくても相続登記はできるのか?」というご相談が寄せられています。
結論から申し上げると、一部の相続人だけで「全員分の法定相続分による相続登記」を申請することは合法であり、法的に全く問題ありません。
さらに重要なのは、この方法で相続登記を行えば、3年以内に申請すべき相続登記義務を履行したものと扱われるという点です。
他の相続人が協力しなくても、義務化に伴う過料(10万円以下)を避けることができるため、非常に合理的な選択肢となります。
法定相続登記は相続人の「保存行為」なので単独申請できる
相続登記は原則共同申請ですが、相続による権利移転は例外で、登記権利者(相続人)が単独申請できる と定められています。
法定相続分による相続登記は、民法252条にいう「保存行為」に該当すると解されているため、本来であれば共有者全員の同意が必要な登記申請であっても、相続人全員が揃って申請することはもちろん、共同相続人のうちの一人が代表する形で相続人全員のために申請することも可能とされています。
これは、法定相続分による登記が、財産を処分したり価値を変動させたりする行為ではなく、単に現状を登記簿上に明確に反映させるための行為に過ぎないという法的性質に基づいています。
保存行為とは、民法252条で定められている概念で、「財産を維持し、価値が減らないように保全するための行為」を指します。共有財産に関する行為は、原則として共有者全員の同意が必要ですが、保存行為だけは例外で、共有者の一部が単独で行うことができるとされています。たとえば、建物が雨漏りしたため最低限の修繕をする、老朽化した鍵を交換する、といった行為が典型例です。
この原則を相続の場面に当てはめると、相続開始後の不動産は相続人全員の“準共有”のような状態に置かれています。そのため、法定相続分による相続登記は、不動産の価値を変えたり処分したりするものではなく、「誰がどの持分を有しているか」を公的に明確にするだけの手続きにすぎません。つまり、財産の保全を目的とする保存行為と同じ性質を持つため、相続人全員が揃わなくても、一部の相続人が代表して申請することが認められているのです。
この保存行為という性質があるからこそ、相続人間で意見がまとまらない場合でも、法定相続分での登記をまず進めておくことが可能となり、相続登記義務化に対応するための実務上の有効な手段となっています。
自分の持分だけの登記を単独ですることはできない
相続人の一部だけが自分の持分のみについて相続登記を単独で申請することはできません。また、相続人が複数いる場合に、それぞれが別々に自分の持分だけを個別案件として同時に申請する方法も認められていません。
しかし一方で、共同相続人のうちの一人が、他の相続人を含めた全員分の法定相続分をまとめて申請することは可能とされています。
つまり、「自分だけの持分」に限って単独申請することはできないものの、「全員分の法定相続分を反映させる」という趣旨であれば、一人の相続人が代表して申請を行うことができるという点に、この先例の大きな特徴があります。
相続登記義務との関係:いったん法定相続分で登記すれば義務を履行した扱いになる
2024年4月から相続登記の申請が義務化され、相続開始を知った日から3年以内に「相続による所有権移転登記」を行うことが求められるようになりました。この義務の対象となる登記には、遺産分割が成立した後に行う登記だけでなく、法定相続分どおりに名義を移す相続登記も含まれています。
したがって、たとえ遺産分割協議がまだまとまっていない状況であっても、あるいは相続人の中に協力してくれない人がいたり、海外在住や行方不明で連絡が取れない相続人が含まれていたりしても、相続人の一部が全員分の法定相続分を内容とする相続登記を申請すれば、それだけで相続登記の申請義務を履行したことになります。これは、義務化に伴う過料リスクを回避するうえで非常に大きな意味を持つ措置です。
さらに、いったん法定相続分による相続登記を済ませておけば、その後に遺産分割が整った際には、改めて「遺産分割による所有権移転登記」を申請することができます。また、遺産分割協議の成立日が相続開始日に遡るという民法上の溯及効の性質を踏まえ、法定相続分で行った登記を後から実体に合わせて修正するための更正登記で対応することも可能です。いずれの手法を選ぶ場合でも、一度法定相続分で登記したからといって、後の手続きに不都合が生じるわけではありません。
相続人間の調整が難しく、3年以内の期限だけが迫っているようなケースでは、とりあえず法定相続分による相続登記を済ませて義務違反を避け、そのうえで後から遺産分割内容に合わせて登記を整えるという進め方が、実務上きわめて合理的で効果的な方法となっています。
| 状況 | 法定相続分での登記をする際に相続人から除外できるか | 登記への影響 |
| 相続欠格が確定 | 除外可 | 家庭裁判所の資料が必要 |
| 廃除が確定 | 除外可 | 審判書を添付 |
| 相続放棄 | 除外可 | 受理証明書が必要 |
| 超過特別受益者 | 除外可 | 法務省先例あり |
| 行方不明者 | 除外不可 | 他の相続人だけで“全員分の法定相続分”の申請は可能 |
| 遺留分放棄者 | 除外不可 | 遺留分放棄は相続権そのものには影響なし |
| 海外在住者 | 除外不可 | 住所が海外でも相続人として当然に含まれる |
| 外国籍相続人 | 除外不可 | 国籍は相続権に影響しない 日本の民法が適用される限りは法定相続人扱い |
相続登記は「法的にできること」と「実務上安全な進め方」が必ずしも一致しません。
また、一部相続人で登記する場合でも、将来の売却や金融機関対応を見据えた計画が必要です。
当事務所では、司法書士と税理士が一体となって、相続登記・戸籍・税務のすべての側面から最適な手続きの流れをご提案しています。
相続人間の調整が難しい場合や、海外在住の相続人が含まれる場合でも、まずはお気軽にご相談ください。
クライアント様のご状況に合わせて、最も確実で負担の少ない相続登記の方法をご案内いたします。

司法書士・税理士・社会保険労務士・行政書士
2012年の開業以来、国際的な相続や小規模(資産総額1億円以下)の相続を中心に、相続を登記から税、法律に至る多方面でサポートしている。合わせて、複数の資格を活かして会社設立や税理士サービスなどで多方面からクライアント様に寄り添うサポートを行っている。
