Last Updated on 2025年11月6日 by 渋田貴正
海外に住む日本人や外国人が日本国内の不動産を購入したとき、忘れがちなのが外国為替及び外国貿易法(外為法)に基づく届出です。登記などの相続手続きが終わった後にこの手続きが漏れがちなので注意が必要です。
| 外国為替及び外国貿易法 (資本取引の報告) 第55条の3 居住者又は非居住者が次の各号に掲げる資本取引の当事者となつたときは、政令で定める場合を除き、当該各号に定める区分に応じ、当該居住者又は非居住者は、その都度、政令で定めるところにより、当該資本取引の内容、実行の時期その他の政令で定める事項を財務大臣に報告しなければならない。ただし、第六号に掲げる資本取引のうち第二十三条第一項の規定により届け出なければならないとされるものについては、この限りでない。 (中略) 十二 第二十条第十号に掲げる資本取引のうち、非居住者による本邦にある不動産又はこれに関する権利の取得 非居住者 |
外為法における「非居住者」とは
外為法では、取引の当事者が「居住者」か「非居住者」かで手続きが変わります。
この「非居住者」の定義は所得税法上のそれとは異なるため、外為法上の「非居住者」を誤解している方が非常に多く、ここが最初の判断ポイントです。
| 比較項目 | 外為法 | 所得税法 |
|---|---|---|
| 法の目的 | 国際取引・資本移動の監督 | 個人の所得課税範囲の判定 |
| 主な判断基準 | 住所・居所の所在(おおむね2年以上海外) | 日本国内での住所・居所(1年以上) |
| 対象 | 個人・法人いずれも対象 | 原則として個人のみ |
| 典型例 | 外国在住者の不動産取得、投資、送金など | 居住者・非居住者の課税範囲、源泉徴収の有無 |
非居住者に該当する人
| 区分 | 該当の例 |
| 外国人 | 日本に住所・居所を持たず、海外で生活している外国籍の方 |
| 日本人 | 留学・赴任などで2年以上海外に滞在している方(海外永住者・駐在員含む) |
| 法人 | 海外に本店を置く会社、または日本法人でも実質的に海外で管理されている会社 |
たとえば、以下のようなケースはいずれも「非居住者」として扱われます。
- アメリカ在住の日本人が東京のマンションを購入
- 香港法人が日本のオフィスビルを取得
- 海外赴任中の日本人が将来帰国予定で別荘を購入
一方、海外勤務でも「単身赴任」や「1年程度の駐在」で住民票を日本に残している人は「居住者」です。この区分を間違えると、届出の要否判断を誤ります。
どんな場合に外為法上の届出が必要か
非居住者が日本国内の不動産を取得すると、原則として外為法上の資本取引に該当し、取得日から20日以内に日本銀行を通じて財務大臣へ報告する義務があります。
| 項目 | 内容 |
| 対象者 | 非居住者本人または非居住法人 |
| 対象取引 | 不動産の売買・贈与・相続・遺贈による取得(対価の有無を問わない) |
| 提出期限 | 取引成立から20日以内 |
| 提出先 | 日本銀行(本店国際局 外為法手続担当50番窓口/各支店営業課) |
| 提出方法 | 郵送または窓口(代理提出可、委任状不要) |
取得金額の多寡にかかわらず、少額の物件や相続による取得でも届出は必要です。政府が外国資本の動きを正確に把握し、統計・監督を行うためであり、個々の納税者の利益・損失や税務上の規模とは関係がないということです。
届出が不要になる主なケース
一方で、すべての取得に届出が必要というわけではありません。
「居住目的」「非営利目的」「非居住者間の取引」など、一定の条件を満たす場合は免除されます。
次の表で、ご自身が届出対象かどうかを簡単に確認できます。
| ケース | 例 | 届出の要否 |
| ① 自分や家族の住まいとして購入 | 海外赴任中に、将来帰国後に住む家を日本に購入 | 不要 |
| ② 親族・従業員の社宅用 | 非居住者が日本支社の駐在員住宅を購入 | 不要 |
| ③ 非営利事業用 | 海外のNPOが日本で非営利活動拠点を設置 | 不要 |
| ④ 自分の事務所用 | 非居住の個人事業主が日本で打ち合わせスペースを購入 | 不要 |
| ⑤ 非居住者同士の取引 | 香港法人がシンガポール法人から日本の不動産を買う | 不要 |
| ⑥ 投資・賃貸用・別荘用 | 海外在住者が賃貸収入目的でマンションを購入 | 必要 |
| ⑦ 相続・遺贈・贈与 | 海外在住の相続人が日本の土地を相続 | 原則必要(居住用なら不要) |
つまり、「住むため」なら届出不要、投資目的なら届出必要というのが基本的な判断基準です。
ただし、「将来住む予定」としても、すぐに賃貸に出す場合は「投資用」とみなされることがあります。
注意すべきは相続や遺贈、贈与による取得も、外為法上は「資本取引」にあたるということです。つまり、売買でなくても届出対象となる点に注意が必要です。
| 取得の形態 | 届出の要否 | 備考 |
| 相続 | 原則必要 | 居住目的なら免除可 |
| 贈与 | 必要 | 対価の有無を問わない |
| 遺贈 | 必要 | 相続登記時に同時報告が望ましい |
たとえば、海外在住の子が日本の親から実家を相続する場合は届出が必要です。
ただし、その家を「帰国後に自宅として使う」なら免除の対象になります。
外為法上の届出の手続きと書き方
届出書は、日本銀行の公式サイトからダウンロードできます。なぜ日銀が窓口かといえば、外為法の目的が「国の国際収支・資本取引の監督」であり、そのデータを集約・分析するのが日本銀行の重要な役割だからです。
具体的には「資本取引に関する報告書」という様式を使用し、次の内容を記入します。
- 取得者(非居住者)の氏名・住所・国籍
- 不動産の所在地・種類・面積
- 取得年月日・取得価額
- 取得原因(売買・贈与・相続など)
記載例は日本銀行や財務省サイトで公開されています。代理人が提出する場合は、委任状は不要です。
税理士・司法書士に依頼すれば、登記や税申告と一括して処理することが可能です。
外為法上の報告を怠ると、外為法第55条違反として50万円以下の過料が科される可能性があります。
また、将来的に不動産売却や送金を行う際、銀行で「外為法報告済証明書」の提示を求められることがあります。
報告控えを残しておくことで、後々の税務・資金移動の際にスムーズに手続きできます。
外為法の届出は形式上の報告ですが、税務・登記・送金すべてに関係します。
特に、海外からの送金経路や名義の違いがある場合、銀行で資金凍結リスクが生じることもあります。
外為法の届出は、税金や登記とは別の制度です。税金や登記は済ませても、「外為法の報告」を怠るケースは少なくありません。実はこの届出をしないと、外為法違反として過料(罰金)の対象になるおそれもあります。
当事務所では、税理士・司法書士の両資格を持つ専門家が、外為法届出・登記・税務申告をワンストップでサポートしています。
- 登記:司法書士が法務局へ「所有権移転登記」
- 税務:税理士が「不動産取得税・登録免許税」申告
- 外為法:本人または代理人が「日本銀行へ報告」
これらを一括して行うことで手続きの漏れを防止できます。
海外居住者や外国法人の方で、日本の不動産購入を検討されている方は、ぜひ一度ご相談ください。

司法書士・税理士・社会保険労務士・行政書士
2012年の開業以来、国際的な相続や小規模(資産総額1億円以下)の相続を中心に、相続を登記から税、法律に至る多方面でサポートしている。合わせて、複数の資格を活かして会社設立や税理士サービスなどで多方面からクライアント様に寄り添うサポートを行っている。
