Last Updated on 2025年10月26日 by 渋田貴正

ノルウェー国籍の被相続人の相続放棄の可能性

日本在住のノルウェー国籍の方が亡くなったときの相続放棄の可能性についてまとめました。

家事事件手続法

第3条の11 裁判所は、相続に関する審判事件(中略)について、相続開始の時における被相続人の住所が日本国内にあるとき、住所がない場合又は住所が知れない場合には相続開始の時における被相続人の居所が日本国内にあるとき、居所がない場合又は居所が知れない場合には被相続人が相続開始の前に日本国内に住所を有していたとき(日本国内に最後に住所を有していた後に外国に住所を有していたときを除く。)は、管轄権を有する。

上記の通り、日本に最後の住所があった場合には、ノルウェー国籍の被相続人であっても日本の家庭裁判所が管轄権を有します。

しかし、もう一点そもそもノルウェーの法律で相続放棄という制度があるかどうかという問題があります。いくら日本の家庭裁判所が管轄権を有していても、そもそも本国の法律で相続放棄が定められていなければ相続放棄をすることはできません。

その点、ノルウェーの相続法(Arveloven)では、「Avkall på arv(相続放棄)」という制度が規定されています。日本と異なり、ノルウェーでは生前の相続放棄も認められているのが特徴です。(もちろん日本で相続放棄を行う場合は、日本の法律に従うのでノルウェー国籍の人も生前の相続放棄はできませんが。)

ノルウェーの相続放棄は、被相続人の生前であれば本人に対して行い、死亡後であれば遺産管理者または遺産財産(dødsbo)に対して行うものとされています

したがって、ノルウェーの法律においても相続放棄の制度は存在し、日本の「相続放棄(民法915条)」と概念的に整合します。日本に最後の住所を有していたノルウェー国籍の被相続人については、日本の家庭裁判所に相続放棄の申立てを行うことが可能です。

もっとも、実際に申立てを行う際には、「ノルウェーの法律上、相続放棄制度が存在する」ことを示すため、ノルウェーの相続法の条文(Lov om arv og dødsboskifteなど)を翻訳して添付するなど、通常よりも多くの証明資料を求められます。また、同法では、被相続人が死亡時に「通常の居住地(vanlig bosted)」を日本に有していた場合、日本法が準拠法として適用される可能性があることも明記されています。

このように、ノルウェー国籍の方についても、制度的には相続放棄が認められていますが、実務上は法令の翻訳・証明の提出が必要であり、専門的な知識が求められます。

ノルウェー国籍の被相続人の相続放棄を検討されている場合には、国際相続に詳しい専門家に依頼することをおすすめします。当事務所では、ノルウェーを含む北欧諸国の相続法にも対応し、家庭裁判所への申立書類の作成や外国法の証明書類の取得サポートを行っております。