Last Updated on 2025年10月1日 by 渋田貴正
株式会社では「出資額=株数=議決権割合」と思われがちです。しかし、実際には同じ出資額でも議決権割合を変える方法はいくつも存在します。
たとえば、親族で会社を立ち上げるとき、資金は同じ額を出すが経営は子に任せたいという場面や、スタートアップが投資家から資金を受け入れながらも経営権は創業者に残したいといった場面では、議決権割合を工夫する必要があります。
ここでは、会社設立時から活用できる方法から、会社設立後の調整、種類株式の発行、株主間契約まで、それぞれの方法をメリット・デメリットとともに解説します。
株式会社で同じ出資額でも議決権割合を変える方法
方法1:会社設立時の株数配分で調整する
概要
設立時に発起人全員が同額を出資しても、割り当てる株数を変えることで議決権割合を調整する方法です。
メリット
設立段階から経営の力関係を明確にでき、特に共同経営の場合に意思決定をスムーズに進められるのが大きな利点です。経営を主導する発起人の議決権を多めに設定すれば、経営判断に余計な摩擦が生じにくくなります。さらに、後から株式移動をしなくてもよいため、手続きがシンプルで効率的です。
デメリット
一方で、不自然な株数配分は「なぜ出資が同額なのに議決権に差があるのか」と疑問を持たれやすく、将来投資家が入る際に不信感につながるリスクがあります。また、税務面では「一方の株主が他方に利益を与えたのではないか」とみなされ、贈与税課税の対象となる可能性もあるため注意が必要です。
方法2:会社設立後に株式を譲渡・贈与する
概要
設立時は出資額に比例して株数を配分し、その後のタイミングで株主間の株式を譲渡または贈与して議決権割合を調整する方法です。
メリット
設立時の登記がスムーズに行える点が最大の利点です。さらに、会社の成長や承継のタイミングを見ながら柔軟に株数を動かすことができるため、長期的な戦略に合わせた設計が可能です。親子会社設立の場合、当初は均等出資としておき、数年後に事業承継のタイミングで子に株式を集中させる、といった使い方ができます。
デメリット
ただし、贈与を行えば贈与税が発生し、譲渡を行えば譲渡益課税の対象になる可能性があります。さらに、株式譲渡契約書や株主リスト更新、場合によっては登記変更が必要となり、設立後の事務コストがかかるのもデメリットです。
方法3:種類株式の活用
概要
会社法では「種類株式」を発行することが可能で、議決権の有無や強弱を設計できます。
事例
- 親族経営の承継対策:親が出資しつつ、議決権を持たない株式(無議決権株式)を保有し、子が普通株式を持つことで経営権を集中させる。
- スタートアップでの資金調達:投資家には優先配当を受けられる株式を与え、創業者には議決権の強い株式を保有させ、経営権を確保しつつ資金を調達する。
メリット
種類株式は法律上認められた制度であるため、制度自体の安定性が高く、第三者に対しても説明しやすいのが特徴です。出資者に配当などの経済的メリットを与えつつ、経営権は別に設計できるので、資金調達や事業承継の場面で特に有効です。
デメリット
一方で、種類株式を発行するには定款変更や登記が必要となり、専門家の関与を欠かせません。小規模会社にとってはコストに見合わない場合もあり、また投資家との交渉次第で経営者の自由度が制限されることもあります。
方法4:株主間契約による議決権の拘束
概要
株主間契約で議決権の行使方法を制限し、実質的に議決権割合を調整する方法です。
メリット
株式数を動かさずに済むため、種類株式を導入するより簡単でコストも低く抑えられます。契約によって「重要事項は特定の株主の意見に従う」などと取り決めれば、実質的な経営権コントロールが可能です。信頼関係のある株主同士であれば柔軟に利用できます。
デメリット
ただし、契約違反があった場合の強制力は裁判を通じても限界があり、第三者に株式が譲渡された際には効力が及びにくいという欠点があります。事実上は株主同士の信頼関係に依存するため、関係性が悪化すると大きなリスクとなる点には注意が必要です。
それぞれの方法を簡単に比較すると以下の通りです。
方法 | メリット | デメリット | 実務難易度 | 想定ケース |
設立時の株数調整 | 設立時に自由に比率を設定でき、後の手続き不要 | 贈与税リスク、第三者から不自然と見られる可能性 | 中 | 共同経営で代表者の発言力を強めたい場合 |
設立後の譲渡・贈与 | 登記がスムーズ/承継や成長に合わせ柔軟に対応 | 贈与税や譲渡益課税/契約や登記手続きが必要 | 中 | 親子設立で後から承継時に調整する場合 |
種類株式 | 法律上の制度で安定性が高い/資金調達・承継に有効 | 定款変更や登記が必要/交渉次第で制約あり | 高 | 親族承継/スタートアップの資金調達 |
株主間契約 | 株数を動かさず柔軟に対応/コストが低い | 強制力に限界/第三者への効力が弱い | 中 | 小規模会社、信頼関係ベースの経営 |
同じ出資額でも議決権割合を変える方法は、設立時の株数調整、設立後の譲渡・贈与、種類株式の発行、株主間契約などさまざまです。どの方法にもメリットとデメリットがあり、目的や会社の将来像に応じて適切な選択が求められます。
親族経営の事業承継やスタートアップの資金調達など、状況によって最適な方法は異なります。当事務所では、税理士・司法書士として登記と税務の両面からサポート可能ですので、安心してご相談ください。

司法書士・税理士・社会保険労務士・行政書士
2012年の開業以来、国際的な相続や小規模(資産総額1億円以下)の相続を中心に、相続を登記から税、法律に至る多方面でサポートしている。合わせて、複数の資格を活かして会社設立や税理士サービスなどで多方面からクライアント様に寄り添うサポートを行っている。