Last Updated on 2025年8月28日 by 渋田貴正
政府は、在留資格「経営・管理」の許可基準を見直す省令改正案を公表しました。資本金要件は500万円→3,000万円に、雇用は常勤1名以上を併せて必須とする方向です。さらに、「3年以上の経営・管理経験」または「経営・管理に関する修士相当以上の学位」の新要件、そして公認会計士や中小企業診断士等による新規事業計画の確認を原則義務化する案が示されています。省令案は意見募集を経て、2025年10月ごろ改正見込みと報じられています。
なぜ要件が厳格化されるのか?背景を知ろう
形式的設立(ペーパーカンパニー)対策
少額資本でも形式的に法人を作り、実業性の乏しい事業(不動産投資などや、そもそもビジネスを行わないペーパーカンパニー)で在留を得る事案が問題化しました。資本金引上げと雇用要件の同時充足は、事業の持続性・雇用創出の実効性を最低限担保する狙いです。
量より質への転換
主要国は一定規模の投資・雇用・経営能力を重視します。日本も「量」より「質」の受入へ軸足を移し、経営者本人の資質(経験・学位)と第三者(専門家)による事業計画の実現性確認を組み合わせる方向です。
在留制度の信頼性の確保
在留制度の不正利用や名義貸しへの懸念を踏まえ、事前審査の強化と客観的証拠(資本・雇用・経歴・計画)で信頼性を高めるのも狙いの一つです。
改正案における要件の新旧比較表
区分 | 現行 | 改正案 |
資本金 | 500万円以上 | 3,000万円以上 |
雇用 | 「資本金500万円」又は「常勤2名」 | 常勤1名以上を必須(資本金と併せて) |
経営者の経歴・学歴 | 明文要件なし | 3年以上の経営・管理経験 又は 経営・管理に関する修士相当以上の学位 |
事業計画の第三者確認 | 制度上の義務なし | 公認会計士・中小企業診断士等の確認を原則義務化 |
外国人が取り得る現実的な対策
こうした改正を見据えて、実際に日本でビジネスをしたい外国の方が取りうる方策としては以下のようなものが考えられます。
方法 | 概要 | ポイント | 留意点 |
---|---|---|---|
① 自己資金・親族からの贈与 | 本国や親族からの援助を返済不要の出資として払い込む | ・贈与契約書(金額・日付・当事者・返済不要の明記)作成 ・送金証明・為替書類・通帳履歴を保存 ・払込取扱機関を通じた正式な払込み |
・日本居住者が受領する場合は贈与税(相続税法)の課税可能性・国際贈与は条約・居住性の判定に注意 |
② 日本の知人・取引先からの借入→自己資金化 | 知人や取引先から借入→代表者個人資金として出資 | ・金銭消費貸借契約書・返済計画・利息条件を整備 ・入出金履歴を保存 ・会社は純資産(資本金)として計上、個人借入は会社帳簿に計上しない |
・借入金を直接資本金にできない ・「すぐに返済」は見せ金と疑われるリスク大 |
③ 日本在住者を代表取締役に据える共同創業 | 日本在住者を代表に据える。外国人は実務担当 | ・意思決定・株主構成・報酬を実態に即して整備 ・実質的支配者(UBO)情報の整合性を確保 |
・単なる名義貸しと判断されないよう、経営実態を伴わせる必要 |
④ 段階的な資本形成(増資・準備金組入れ) | いったん海外居住段階で設立後に増資や資本準備金組入れで3,000万円に到達 | ・第三者割当増資や既存株主追加払込の登記 ・資本準備金の資本金組入れ |
・手続・登記が必須 ・要件や株主間の合意形成に注意 |
⑤ スタートアップビザ(特定活動44号) | 認定自治体支援の下、最長2年の準備期間で起業準備し、その後「経営・管理」へ切替 | ・自治体との事前調整 ・準備期間中に資本金3,000万円調達、オフィス確保、雇用契約、専門家確認を整える |
・暫定的な在留資格のため延長不可 ・2年以内に要件充足しなければ切替できない |
見せ金に注意!
一時的に資金を口座へ入れ、登記後に直ちに引き上げるなど、実質的に会社に資本が残らない状態で「あるように見せる」手口を指します。預合い(金融機関等からの一時借入→払込→即返済)や循環入金(知人→代表→払込→即返金)も典型です。
見せ金は会社設立後の経営面もさることながら、以下の点から法的にも問題があります。
- 会社法の趣旨:払込みは実際に会社資本を充実させる行為でなければなりません。仮装払込みは払込みとして無効とされ得ます。
- 刑事リスク:虚偽の資本金額で登記させれば公正証書原本不実記載等罪の対象となり、5年以下の懲役または50万円以下の罰金の可能性があります。未遂も処罰対象です。
- 入管審査への影響:資金源や入出金の合理性、残高の推移を精査され、形式的な入金→即出金は実態否認されます。審査で不利に働き、将来の更新にも悪影響です。
見せ金でないことを証明することは会社設立の手続き上求められていませんが、以下の点に注意しておきましょう。
- 返済不要の出資(贈与・自己資金)であることを契約・証憑で明確化。
- 同額の即時引出し禁止。運転資金として事業支出のトレースを残す。
- 送金経路の連続性(送金人=契約当事者、日付の整合)と通帳・明細の原本性を確保。
- 専門家(税理士・司法書士)が払込み時系列表と証憑ファイルを作成・保管。
ケース別 NG例/OK例
ケース | 判断 | 理由・補足 |
知人から入金→登記翌日に同額返金 | NG | 典型的見せ金。実質が資本でなく、刑法157条リスク。 |
親族からの贈与で出資、贈与契約と送金証明を保存 | OK | 返済不要で出資の実質あり。証憑で資金源を立証。 |
取引先から借入→代表個人の資金として出資(契約・返済計画あり) | 条件付OK | 借入は会社資本にできないが、個人資金化→出資であれば可。会社設立後、即時の返済は厳禁。 |
金融機関の短期融資で払込み→即日返済 | NG | 預合い型。実質的に資本が残らないため無効評価・刑事リスク。 |
先に設立→第三者割当増資で3,000万円到達 | OK | 実質資本が会社に残る。登記と証憑整備を確実に。 |
当事務所では以下のポイントから、海外の方の会社設立をサポートします。
- 資金準備スキーム設計(贈与・借入の契約書、送金・払込み証憑の整理)
- 設立登記一式(定款、払込証明、議事録、登記申請)
- 会計・税務(初年度体制づくり、月次・決算、在留更新を見据えた数値設計)
- 在留申請書類と専門家確認の連携(公認会計士・中小企業診断士との実行可能性レビュー)
ご不安や状況は一人ひとり異なります。見せ金と疑われない資金準備から登記・税務・在留まで、当事務所が安全第一で伴走します。まずはお気軽にご相談ください。

司法書士・税理士・社会保険労務士・行政書士
2012年の開業以来、国際的な相続や小規模(資産総額1億円以下)の相続を中心に、相続を登記から税、法律に至る多方面でサポートしている。合わせて、複数の資格を活かして会社設立や税理士サービスなどで多方面からクライアント様に寄り添うサポートを行っている。