Last Updated on 2025年7月15日 by 渋田貴正

自筆証書遺言は、費用を抑えつつ自身の意思を遺す手段として公正証書遺言と並んで広く利用されています。しかし、一定の形式を守らなければ無効になるリスクがあるため、注意が必要です。

中でも誤解されやすいのが、「財産目録」の扱いです。実は、自筆証書遺言に目録を添付する場合、その目録については手書きでなくても構わないというルールがあります。

自筆証書遺言の原則は「全文手書き」

まず大前提として、自筆証書遺言の基本ルールは以下の通りです。

  • 遺言者が全文、日付、氏名を自書(=手書き)
  • 最後に押印を行うこと

「自筆」というだけあって、遺言者の手書きであることが要求されています。このルールにより、本人の意思による遺言であることが明確になります。ただし、近年の法改正により、財産目録部分のみ自筆ではなくパソコンなどで作成してもよいという例外が認められるようになりました。

財産目録は自書不要!コピーや印刷でOK

2019年の民法改正により、遺言に添付する目録については、手書きでなくても良いことが明記されました。

(自筆証書遺言)

第968条
  1. 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
  2. 前項の規定にかかわらず、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産(第997条第1項に規定する場合における同項に規定する権利を含む。)の全文又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない。
  3. 自筆証書(前項の目録を含む。)中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。

(民法第968条第2項)。遺言書の話になると「目録(もくろく)」という言葉がよく出てきますが、普段あまり耳にすることのない言葉のため、「難しそう」と感じる方も少なくありません。

目録とは、簡単にいえば“内容を一覧で示した資料”のことです。
書籍の目次や、引っ越し業者が作る荷物リストをイメージすると分かりやすいでしょう。

具体的には次のような資料が使用できます。

種類 添付できる資料の例
不動産 登記事項証明書の写し、固定資産評価証明書の写し
預貯金 通帳のコピー、銀行の残高証明、口座番号一覧
株式・投資信託 証券会社からの残高報告書、取引明細書
自動車・動産 車検証のコピー、所有権証明書など
その他財産 借入金の契約書、ゴルフ会員権の証書など

ここで注意していただきたいのが、「目録」という言葉の誤解です。

一般の方は「目録」と聞くと、箇条書きで「1. ○○銀行 普通預金 1234567」「2. 東京都○○区の土地」など、リスト形式で手書きやパソコンで作る一覧表をイメージする方が多いのですが、実務上はそのような「目録」よりも、通帳や登記事項証明書などの書類のコピーを添付するのが一般的です。

なぜなら、法的にも財産の特定がしやすく、相続人間のトラブル予防にもつながるからです。

目録への署名・押印を忘れると無効に!

目録部分は印刷やコピーで構いませんが、その各ページの「両面」に遺言者が署名・押印する必要があります。

  • ページが複数にわたる場合は、各ページごとに署名・押印
  • 両面印刷のときは、両面にそれぞれ署名・押印

これを怠ると、目録が無効となるおそれがあります。目録の形式不備が原因で、せっかくの遺言が一部無効となるケースもあるため、形式的なルールを正確に守ることが大切です。自筆証書遺言は形式が非常に重要ですので、注意しましょう。

法務局の保管制度を利用する場合もルールは同じ

2020年7月からスタートした「法務局による自筆証書遺言書保管制度」を利用する場合でも、目録に関する様式ルールは同じです。

■保管制度での提出要件(抜粋)

項目 内容
遺言本文 全文を自書・日付と氏名入り・押印必要
財産目録 パソコン作成・コピー添付OK
目録の署名・押印 各ページの両面に遺言者の署名・押印が必須
用紙サイズ A4縦、両面印刷も可(法務局によっては片面推奨)

また、法務局では形式面の確認はしますが、内容の法的有効性まではチェックしてくれません。形式が整っていれば受理されるため、「実際にはトラブルを招く遺言内容だった」という事態も起こり得ます。

そのため、法律的に意味のある遺言内容かどうかを事前に専門家がチェックすることが非常に重要です。

自筆証書遺言は加除訂正にも要注意

自筆証書遺言では、後から内容を修正したい場合にも特別な手続きが必要です。

  • 修正箇所を明示
  • 変更の旨を付記
  • 該当箇所に署名・押印

これらを満たさなければ、修正が無効となります。とくに日付の誤記や氏名の記載漏れ、押印忘れなどは無効となる原因となるため、慎重に作成する必要があります。

遺言書は「書き方よりも内容が大事」だからこそ専門家へ

自筆証書遺言は手軽に作れる反面、形式的なミスで無効になるリスクが高く、内容があいまいだと相続人間の争いを招きやすいものです。

とくに次のような方は、専門家に相談することをおすすめします。

  • 財産が複数の種類にわたる方(不動産・預貯金・株式など)
  • 相続人以外に財産を遺したい方
  • 前妻・後妻間にまたがる相続がある方
  • 海外資産や外国籍の相続人がいる方

当事務所では、遺言書の作成から財産目録の準備、法務局での保管制度の利用支援まで、司法書士・税理士の立場から総合的にお手伝いしています。将来の相続トラブルを避けるためにも、正確で有効な遺言書作成をご希望の方は、お気軽にご相談ください。税務・法務の専門家が丁寧にサポートいたします。