Last Updated on 2025年5月18日 by 渋田貴正

遺言によって、特定の人が多くの財産を受け取ったり、生前に一部の人だけが贈与を受けたりすることがあります。こうした場合、他の法定相続人の最低限の取り分である「遺留分」が侵害されている可能性があります。

そのようなときに行うのが遺留分侵害額請求です。

多くのケースでは遺留分侵害額請求は相続人に対して行うので「遺留分侵害額請求は相続人に対してしかできない」されていますが、それは正しくありません。相続人以外であっても、遺言や契約によって財産を得た人に対しても請求が可能です。

以下で、具体的な請求対象とその順番、請求可能な金額の範囲などを詳しく見ていきましょう。

遺留分侵害額請求できる相手とは?

遺留分侵害額請求の対象は、以下のように相続人に限られず、財産を得た全ての人が対象となり得ます。

遺留分侵害額の請求)

民法 第1046条
  1. 遺留分権利者及びその承継人は、受遺者(特定財産承継遺言により財産を承継し又は相続分の指定を受けた相続人を含む。)又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。
法定相続人以外の請求対象者
包括受遺者 遺言により、財産の全部または一定割合を受け取った人(相続人でない場合もある)
特定受遺者 遺言により、特定の財産(例:土地や株式)を受け取った人
死因贈与の受贈者 死因贈与契約に基づき、死亡によって財産を取得した人
生前贈与の受贈者 相続開始前に、被相続人から財産を贈与された人(例:不動産、生前贈与信託など)

これらの人々は、相続人であるか否かにかかわらず、財産を受け取った事実がある限り、遺留分侵害額請求の対象となります。

遺留分侵害額請求を行う順番

誰から順番に遺留分侵害額の請求できるかは、民法で細かく規定されています。

組み合わせ 優先される相手
遺贈 vs 贈与 遺贈が先
同順位の遺贈または贈与 財産の価額割合に応じて分担
異時の贈与(例:2015年と2020年) より新しい贈与(例でいえば2020年)から請求

この「順番ルール」は強行規定とされており、遺留分権利者の意思で変更することはできません。また、贈与の時期については、契約日・履行日・条件成就日などを基準とする複数の学説が存在し、実務上も判断が分かれる部分です。

多少迷うのが死因贈与の場合です。「死因贈与」とは、贈与契約でありながら、被相続人の死亡によって効力を生じる契約です。その性質から、遺留分請求においては以下のような中間的扱いを受けます。

請求順位 対象
第1順位 遺贈(包括・特定)・財産承継遺言
第2順位 死因贈与
第3順位 生前贈与(新しい順)

これは、判例(東京高判平成12年3月8日)でも認められており、学説もこの「中間説」が主流です。

無資力者(財産のない人)が対象の場合は請求を飛ばすことができる?

請求相手が実際には無資力(財産がない)で、たとえ請求しても回収できない場合、他の人に請求できるのでしょうか?

答えはNOです。

遺留分侵害額請求は、順番が法律で定められているため、先に請求すべき相手が無資力であっても、次の人に飛ばして請求することはできません(民法1047条4項)。

また、同順位に複数の対象者がいる場合も、全体の財産価額に応じて分担請求をする必要があり、一部の人にまとめて請求することはできません。

負担する金額の上限は?

遺留分侵害額請求では、相手方に請求できる金額にも上限があります。

請求相手の立場 上限額の考え方
遺留分を持つ相続人 受け取った額 - 本人の遺留分
遺留分のない人(放棄含む) 受け取った額全額

例えば、ある相続人が遺留分を放棄していた場合、その人には遺留分が存在しないため、受け取った額全体が請求対象となります。

【具体例】長男Aが遺留分を請求するケース

  • 遺産:0円(法定相続財産なし)
  • 妻(丙)への特別受益:7000万円
  • 次男Bの特別受益:1000万円
    → 全体の基礎財産:8000万円
    → Aの遺留分(1/8):1000万円
ケース 説明 Aが請求する相手
Bが遺留分を放棄していない Bは1000万円受けており、ちょうど遺留分に相当する → 請求できない 丙に1000万円請求
Bが遺留分を放棄している Bに遺留分なし → 全額が請求対象 Bに1000万円請求

遺留分侵害額請求は、一見単純に見えても、法律に基づいた請求相手の選定や金額の計算、順番の判断など、非常に高度な判断を求められます。

また、遺言の文言次第で負担割合を変更できる点も、争いになりやすいポイントです。

誤った相手に請求をしてしまうと、時効が進行して回収不能になるおそれもあります。請求するかどうかの判断も含めて、専門家への早めの相談が非常に大切です。「どこに請求すればいいのかわからない」「遺言の内容が不公平で納得できない」
そんなお悩みをお持ちの方は、どうぞ税務と法務の専門家が両方揃う当事務所へご相談ください。

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