Last Updated on 2026年3月17日 by 渋田貴正

「身内に財産をあげるだけ」「自分の会社に資産をタダで移すだけ」と思われがちな贈与ですが、税務世界では落としやすい落とし穴あります。特に、個人から個人への贈与と、個人から法人への贈与では、課税の仕組みが根本的に異なります。この違いを知らないまま進めると、思わぬ形で所得税や住民税がかかってしまうという事態になりかねません。ここでは、実務でよくあるケースをベースに、税金の違いをわかりやすく整理します。

個人から贈与する場合の法人相手、個人相手の違い

例えば、個人Aさんが保有している時価100万円の資産(取得費50万円)を、①親族Bさんに贈与する場合と、②自分が経営する会社C社に贈与する場合で考えます。この2つは見た目は同じ「贈与」ですが、税務上の扱いはまったく異なります。

個人から個人に贈与する場合

個人から個人への贈与では、受け取った側に贈与税が課されます。贈与税とは、「財産をもらった人」にかかる税金です。年間110万円までの基礎控除があるため、100万円の贈与であれば原則として贈与税はかかりません。
一方で、贈与した側には税金の問題は生じません。つまり、個人間の贈与は「もらった人に課税、あげた人は原則ノータッチ」というシンプルな構造です。
ただし、ここで重要なのが「取得費の引継ぎ」です。受贈者は、贈与者の取得費をそのまま引き継ぎます。つまり、将来売却したときにまとめて課税される“繰延べ”の仕組みになっています。もらった側に将来まとめて課税されるということになります。

個人から法人に贈与する場合

次に、個人から法人への贈与です。ここが税務上の最大の分岐点です。
個人から法人に資産を贈与した場合、実務上は「贈与しただけ」と思われがちですが、税務上はそうは扱われません。原則として、「時価で売却したもの」とみなされ、贈与した個人に譲渡所得税が課されます。これを「みなし譲渡課税」といいます。つまり、お金をもらっていなくても、「売ったことにされて課税される」というのがポイントです。

ケース① 時価100万円・取得費50万円
個人→個人
贈与税:0円(基礎控除内)
贈与者:課税なし
→含み益50万円は将来に繰延べ

個人→法人
贈与者:譲渡所得50万円に課税
・法人:受贈益100万円に法人税課税
→含み益はその場で課税

ケース② 時価50万円・取得費50万円
個人→個人
贈与税:0円
贈与者:課税なし

個人→法人
贈与者:譲渡所得0円 → 課税なし
・法人:受贈益50万円 → 法人税課税

このように、「利益が出ているかどうか」で贈与者側の課税は変わります。ただし法人側は、無償で資産を受け取る以上、原則として利益(受贈益)が発生します。

なぜ個人が法人相手に贈与したら個人に所得税が発生する?

その答えは、含み益を法人に逃がさないためです。
例えば、取得費50万円・時価100万円の資産を考えます。この時点で個人には50万円の含み益(まだ課税されていない利益)があります。本来、この資産を売却すれば50万円に対して所得税が課税されます。

しかし、この資産をそのまま法人に贈与できて、しかも課税されないとするとどうなるでしょうか。個人は税金を払わずに含み益を法人に移すことができます。そして法人は時価100万円で資産を持つことになります。つまり、本来は個人に課税されるべき利益が、丸ごと法人に移転してしまいます。

ここで「個人に贈与する場合も同じでは?」という疑問が出てきます。確かに、個人に贈与した場合も含み益は移転しています。しかし、この場合は受贈者が取得費を引き継ぐため、その後売却すれば、その含み益は所得税の枠組みの中で確実に課税されます。つまり、「課税を先送りしているだけ」で、税金そのものは消えていません。

一方で、法人に贈与した場合は事情が異なります。法人は個人とは別人格であり、取得価額も時価ベースでリセットされます。このままだと、個人の含み益は法人に移った時点で消えてしまい、所得税として課税する機会が失われてしまいます。

これを防ぐため、税法では「無償でも時価で譲渡したものとみなす」というルールを設けています。これが「みなし譲渡課税」です。
イメージとしては、「個人の中で生まれた利益は、法人に逃がす前にきちんと精算してください」という仕組みです。

なお、「譲渡所得は50万円まで非課税」という話を聞くことがあります。これは完全な誤りではありませんが、すべての資産に使えるルールではない点に注意が必要です。

この50万円控除は、主に生活用動産などの「総合譲渡所得」に適用されるものであり、不動産や株式などには適用されません。そのため、「50万円以内なら大丈夫」と一律に考えるのは危険です。

もっとも、見方を変えると、含み益が小さい資産であれば、法人へ移転する際の税負担を抑えられるケースがあるともいえます。例えば、時価と取得費の差がほとんどない資産であれば、みなし譲渡課税があっても所得税は実質的に発生しません。

また、資産の種類によっては50万円控除が使えるケースもあるため、結果として「税負担なく法人に移せる」こともあります。

いわば、法人成りの際は「含み益の小さい資産から動かす」というのが基本戦略です。ここを押さえておくと、無理なくスムーズに資産移転ができます。

まとめると以下のようになります。

区分 贈与者(個人) 受贈者
個人→個人 原則課税なし 贈与税(110万円超)
個人→法人 譲渡所得課税(みなし譲渡) 法人税(受贈益)

実務では、「どちらが得か」ではなく「どこで課税するか」を考えることが重要です。個人間贈与は課税の先送り、法人贈与はその場で精算という違いがあります。
また、含み益のある資産を安易に法人へ移すと、想定以上の課税が発生することがあります。一方で、適切に設計すれば税負担をコントロールすることも可能です。

贈与はシンプルに見えて、実は税務の分岐点が非常に多い分野です。特に個人と法人が絡む場合は、思わぬ課税や株価問題が発生します。「とりあえず移す」はおすすめできません。事前に設計すれば防げる税金は多くあります。当事務所では、税務と登記の両面から最適なスキームをご提案していますので、少しでも気になる場合はお気軽にご相談ください。