Last Updated on 2026年3月1日 by 渋田貴正
海外に所有している不動産を売却した場合、日本に居住している方であれば、その譲渡益は原則として日本の所得税の課税対象になります。ここで最も重要になるのが「取得費」と「譲渡費用」です。譲渡所得は、売却代金から取得費と譲渡費用を差し引いて計算します。この差し引ける金額を正しく把握できるかどうかで、税額は大きく変わります。
例えば、日本在住の方がアメリカのコンドミニアムを売却したケースを考えてみましょう。購入価格が5,000万円相当、売却価格が8,000万円相当だったとします。この場合、差額の3,000万円がそのまま利益になるわけではありません。購入時の仲介手数料や登記費用などの取得費、そして売却時の仲介手数料や手続費用などの譲渡費用を差し引いた残額が課税対象になります。
海外不動産の場合は、日本ではあまり見慣れない費用が発生することもありますが、基本的な考え方は同じです。ここを正確に整理できるかどうかで、税額は数百万円単位で変わることもあります。
海外不動産の売却時の取得費に含まれるもの、含まれないもの
取得費とは、不動産を取得するために直接要した費用の合計額です。購入代金だけではありません。取得のために通常必要な費用も含まれます。取得費には、購入手数料、契約書の印紙代、登録免許税、不動産取得税などが含まれるとされています。これは海外不動産でも同じ考え方です。
また、相続や贈与で取得した場合は、被相続人や贈与者の取得費を引き継ぎます。相続時の時価ではありません。この点は海外不動産でも同様です。
取得費に含まれるもの
海外不動産の場合、具体的には次のような費用が取得費になります。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 購入代金 | 売買契約に基づく購入価格(円換算) |
| 仲介手数料 | 現地不動産会社へのコミッション |
| 登記費用 | 現地の登記費用、登録費用 |
| タイトル保険料 | 所有権保険(米国など) |
| 取得税・印紙税 | 現地で課される取得関連税 |
| 改良費 | 増築やリノベーション費用 |
取得費に含まれないもの
取得費は「取得のために直接必要な費用」に限られます。維持費や保有中の費用は含まれません。この区別は非常に重要です。添付資料でも、修繕費や固定資産税など維持管理費用は取得費に該当しないとされています。
海外不動産で特に迷いがちな取得費にならない費用は次のとおりです。
| 費用 | 理由 |
|---|---|
| 固定資産税(海外のProperty Tax) | 保有中の維持費であり取得費ではない |
| 管理費(HOA費用など) | 維持管理費であり取得費ではない |
| 修繕費 | 原状維持費であり取得費ではない(改良費は除く) |
| ローン利息(取得後の利息) | 取得費ではなく金融費用 |
| 火災保険料 | 維持のための費用 |
| 保有中の弁護士費用 | 取得と直接関係しない |
| 購入検討のための渡航費 | 取得の直接費用とは認められない |
| 為替手数料(資金移動のみ) | 資金移動費用であり取得費ではない |
| 現地所得税・固定資産税 | 税金は取得費ではない |
海外不動産の取得にあたり渡航費が発生することがありますが、原則として取得費には含まれません。ただし、その国の法律上、本人の現地出頭が法的要件となっており、代理取得が認められていない場合には、取得のために不可欠な費用として取得費に該当する可能性があります。この場合でも、その必要性を客観的に説明できる資料の保存が重要です。
重要なのは、「取得のための費用」と「保有するための費用」はまったく別物だという点です。取得費は入口のコストであり、固定資産税や管理費は保有中のコストです。この2つを混同すると、譲渡所得の計算を誤る原因になります。特に海外不動産は管理費や税金が高額になるため、誤って取得費に含めてしまうケースが非常に多く見られます。
取得費が不明な場合の概算取得費は海外不動産にも適用できる
取得費が不明な場合は、売却価格の5%を取得費とする「概算取得費」を使うことができます。ただし、この方法を使うと、実際に支払った仲介手数料や登記費用などを追加で取得費に含めることはできません。
海外不動産は取得時の費用が大きいことが多いため、安易に概算取得費を使うと不利になることがあります。
海外不動産の売却時の譲渡費用に含まれるもの、含まれないもの
譲渡費用とは、不動産を売却するために直接必要となった費用です。仲介手数料、登記費用、測量費、契約書の印紙代などが該当します。
海外不動産では、これに加えて外国特有の費用が発生します。
譲渡費用に含まれるもの
| 費用 | 該当性 | 理由 |
|---|---|---|
| 現地仲介手数料 | 〇 | 売却成立のための直接費用 |
| エスクロー費用 | 〇 | 売買決済に不可欠な手続費用 |
| タイトル会社費用 | 〇 | 所有権移転のための費用 |
| 現地弁護士費用(売却契約関連) | 〇 | 契約締結に直接必要 |
| 測量費・証明書取得費 | 〇 | 売却条件を満たすために必要 |
| 借家人の立退料 | 〇 | 売却のために支出 |
| 建物解体費(売却目的) | 〇 | 売却のための直接支出 |
| 違約金(より有利な条件で売却するための契約解除) | 〇 | 売却に直接起因 |
| 渡航費(法律上本人出頭が必須) | 〇の可能性 | 法的要件であれば直接費用 |
エスクロー費用は、日本でいう司法書士決済立会いに近い役割を果たします。売買代金の受領と所有権移転を同時に行うための仕組みであり、売却行為そのものに不可欠です。そのため譲渡費用に該当します。
特に重要なのが渡航費の扱いです。原則として渡航費は譲渡費用にはなりません。これは、その支出がなくても代理人などによって売却が可能だからです。
譲渡費用に含まれないもの
| 費用 | 理由 |
|---|---|
| 現地キャピタルゲイン税 | 税金は譲渡費用ではない(外国税額控除の対象) |
| 固定資産税(売却年分) | 保有中の維持費 |
| 管理費(HOA費用) | 維持管理費用 |
| 修繕費 | 売却の直接費用ではない |
| 抵当権抹消費用 | 原則として譲渡費用に該当しない |
| 任意の渡航費 | 代理人でも売却可能な場合は直接費用でない |
| 売却相談の税理士報酬 | 申告関連費用は譲渡費用でない |
| 引越費用 | 個人的支出 |
特に誤解が多いのが「外国で払った税金」です。これは譲渡費用にはなりませんが、外国税額控除という別の制度で調整することになります。ここを混同すると計算が崩れます。
また、迷いがちなのが渡航費の扱いです。原則として渡航費は譲渡費用にはなりません。これは、その支出がなくても代理人などによって売却が可能だからです。しかし、例外があります。例えば、その国の法律で本人の面前署名や本人確認が必須であり、代理人による売却が認められていない場合です。このような場合は、その渡航が売却の法的要件となるため、「譲渡のために直接必要な費用」として譲渡費用に該当する可能性があります。
実務上は、その支出がなければ、法的に売却が成立しなかったかという条件を満たす場合のみ、譲渡費用として認められる可能性があります。
海外不動産の売却は為替の影響にも注意が必要
海外不動産の譲渡所得は、日本円に換算して計算します。そのため、不動産の価格が同じでも、為替レートの変動によって利益や損失が発生します。
例えば、アメリカの不動産を10万ドルで購入し、同じ10万ドルで売却した場合でも、為替によって次のような違いが生じます。
| ケース | 取得時レート | 取得時円換算額 | 売却時レート | 売却時円換算額 | 譲渡所得 |
|---|---|---|---|---|---|
| 円安になった場合 | 1ドル=100円 | 1,000万円 | 1ドル=150円 | 1,500万円 | +500万円(課税対象) |
| 円高になった場合 | 1ドル=150円 | 1,500万円 | 1ドル=100円 | 1,000万円 | -500万円(譲渡損失) |
このように、ドルでは利益が出ていなくても、日本円では譲渡所得が発生することがあります。海外不動産の譲渡では、「不動産価格」だけでなく「為替レート」も税額に大きく影響するため、それぞれの取引時点の為替レートで正確に円換算することが重要です。
海外不動産の譲渡は、税務・為替・外国法・契約実務が交差する非常に専門性の高い分野です。適切に取得費と譲渡費用を整理することで、税額を適正化することができます。当事務所では、海外不動産の売却に関する税務申告から取得費の精査、必要書類の整理まで一括して対応しています。海外不動産の売却をご検討の方は、安心して当事務所までご相談ください。

司法書士・税理士・社会保険労務士・行政書士
2012年の開業以来、国際的な相続や小規模(資産総額1億円以下)の相続を中心に、相続を登記から税、法律に至る多方面でサポートしている。合わせて、複数の資格を活かして会社設立や税理士サービスなどで多方面からクライアント様に寄り添うサポートを行っている。
