Last Updated on 2026年2月19日 by 渋田貴正

共同遺言の禁止とは、2人以上の者が同一の証書で遺言をすることを認めないというルールです。これは民法に明確に規定されています。

民法
(共同遺言の禁止)

第975条
遺言は、二人以上の者が同一の証書ですることができない。

「証書」とありますが、単に書面と思っておけばよいでしょう。同じ書面に2人以上が遺言者となる遺言書の作成は無効ということです。

この規定は一見すると少し不思議に思われるかもしれません。たとえば、長年連れ添った夫婦が「お互いに全財産を相手に相続させる」と同じ遺言書に書けば効率的で合理的なように見えます。しかし、法律はこのような方法を認めていません。つまり、夫婦であっても、1通の遺言書に2人の意思を書くことはできず、それぞれ別々の遺言書を作成する必要があります。

これは形式的なルールというより、遺言の本質を守るための極めて重要な原則です。遺言は「個人の最終意思表示」であり、誰かと共同で決める契約とは性質がまったく異なるからです。遺言はあくまで一人一人の自由な意思の産物であり、連名の遺言書というものは法律上存在しないのです。

共同遺言は無効となります。これは「一部だけ有効」という扱いではなく、原則として遺言全体が無効になる可能性があります。その結果、遺言による相続ではなく、法定相続による分割となります。
例えば、「すべての財産を配偶者に相続させる」という共同遺言が無効になると、配偶者と子が法定相続分で財産を分けることになります。これは遺言者の意思とはまったく異なる結果になる可能性があります。
つまり、共同遺言は「無効になるリスクが非常に高い遺言形式」といえます。せっかく時間をかけて作成した遺言が、形式の問題だけで無効になるのは非常にもったいないことです。

共同遺言が禁止されている理由とは?

共同遺言が禁止されている理由は、大きく分けて次の二つです。

遺言は自由に撤回できなければならないため

第一に、遺言は自由に変更・撤回できなければならないという点です。民法では、遺言はいつでも自由に撤回できるとされています。しかし、共同遺言を認めてしまうと、一方が撤回しようとしても他方の意思に影響を受ける可能性があります。これは「自由な意思表示」という遺言の本質に反します。

遺言者一人ひとりの独立した意思を守るため

第二に、意思の独立性を確保する必要があるという点です。共同遺言を認めると、例えば夫婦の一方が他方に心理的に影響されて遺言を作成する可能性があります。本来、遺言は本人の純粋な意思でなければなりません。共同遺言を禁止することで、遺言者の意思の独立性を守っているのです。どんなに仲の良い夫婦であっても、法律はそれぞれの意思を別々に確認することを求めています。

夫婦がそれぞれ同じ内容の遺言を書くことは問題ない

ここで多くの方が誤解するポイントがあります。それは「夫婦で同じ内容の遺言を書くこと自体が禁止されているのではないか」という点です。しかし、これは誤解です。
禁止されているのは「同一の遺言書に共同で書くこと」であり、「同じ内容の遺言をそれぞれ別々に作成すること」は問題ありません。
例えば、次のようなケースを見てみましょう。

<table border=”1″ cellpadding=”6″> <tr> <th>ケース</th> <th>有効性</th> <th>理由</th> </tr> <tr> <td>夫婦が1通の遺言書に連名で署名</td> <td>無効</td> <td>共同遺言に該当するため(民法975条)</td> </tr> <tr> <td>夫と妻がそれぞれ別の遺言書を作成(内容は同じ)</td> <td>有効</td> <td>各自が単独で遺言しているため</td> </tr> <tr> <td>別々の遺言書だが、ホチキスで綴じて一体化</td> <td>紛争の可能性あり</td> <td>共同遺言と誤解されるリスクあり</td> </tr> </table>

つまり、「内容」ではなく「形式」が重要なのです。たとえ内容が完全に同じであっても、遺言書が別々であれば問題ありません。

共同遺言の該当性が問題となった裁判例として、最高裁平成5年10月19日判決があります。この事件では、作成名義の異なる2通の遺言書が契印され、合綴されていましたが、容易に分離できる状態でした。最高裁は、これを共同遺言には該当しないとして有効と判断しました。

この判決は重要な示唆を与えています。つまり、
・遺言書が別々に作成されていること
・それぞれが独立した意思表示であること
が明確であれば、有効と認められる可能性があるということです。もっとも、このような紛らわしい形式は紛争の原因になりますので、実務では完全に別々の遺言書として作成することが推奨されます。

安全な遺言書の作成方法として公正証書遺言の活用

共同遺言の問題を確実に回避するためには、公正証書遺言の利用が最も安全です。法律のプロである公証人が関与するため、形式不備による無効リスクを大幅に減らすことができます。夫婦で遺言を作成する場合の正しい手順は次のとおりです。

手順 内容
1 夫の遺言書を単独で作成
2 妻の遺言書を単独で作成
3 それぞれ別の証書として公証役場で作成
4 別々に保管する

ここで重要なのは、「夫婦で同時に作成してもよいが、遺言書は必ず別々にする」という点です。
公正証書遺言であれば、遺言の内容だけでなく形式も公証人が確認しますので、共同遺言による無効リスクを回避できます。また、紛失や改ざんのリスクも低く、相続登記や預金解約の手続きもスムーズになります。

共同遺言が無効になると、遺言による相続登記ができません。その結果、法定相続人全員の合意による遺産分割協議が必要になります。これは非常に大きな違いです。遺言が有効な場合は、遺言書だけで相続登記が可能です。しかし、遺言が無効になると、次の書類が必要になります。
・相続人全員の戸籍
・遺産分割協議書
・相続人全員の印鑑証明書
・相続人全員の署名押印
相続人が海外にいる場合や関係が疎遠な場合、この手続きは極めて困難になります。つまり、共同遺言の禁止は単なる形式的な問題ではなく、実際の相続手続きの難易度を大きく左右する重要なルールなのです。

遺言は「形式」が命です。どんなに完璧な内容でも、形式を誤れば無効になります。共同遺言のような形式不備は後から修正できないため、作成時点で適切な対応が必要です。当事務所では、税理士・司法書士の立場から、相続税対策と相続登記の両面を踏まえた公正証書遺言の作成支援を行っております。遺言書の作成をご検討の際は、ぜひ一度ご相談ください。