Last Updated on 2026年1月25日 by 渋田貴正
日本で不動産運用を行う外国法人にとって、最初につまずきやすいのが「日本で法人税の申告が必要なのかどうか」という点です。日本に従業員も事務所も置いていない場合、「日本では課税されないのではないか」と考えられがちですが、不動産貸付事業についてはそういうわけにはいきません。
日本の法人税法では、外国法人であっても、日本国内の不動産を貸して賃料収入を得ている場合、一定の形で日本の課税関係が生じることが明確に定められています。
外国の法人が所有する不動産の賃料収入は国内源泉所得に該当
外国法人の法人税を考える際には、まず「どの種類の国内源泉所得に該当するのか」を確認する必要があります。法人税法では、外国法人に課税される所得をいくつかの類型に分けて整理して、課税される所得の範囲を「国内源泉所得」と呼んでいます。不動産の賃料収入がどこに位置づけられるのかを理解するため、まず全体像を簡単に見ておきましょう。
| 類型 | 内容の概要 |
|---|---|
| ① 恒久的施設(PE)に帰属する所得 | 日本の拠点を通じて行う事業から生じる所得 |
| ② 国内にある資産の運用・保有による所得 | 配当、利子、使用料などの投資的な所得 |
| ③ 国内にある資産の譲渡による所得 | 日本国内の不動産や一定の株式の売却益 |
| ④ 人的役務提供事業の対価 | 日本国内で行ったサービス提供の報酬 |
| ⑤ 国内不動産等の貸付けによる所得 | 日本国内の土地・建物を貸して得る賃料収入 |
| ⑥ その他その源泉が国内にある所得 | 上記に当てはまらない国内源泉所得 |
日本にある不動産を貸して得られる賃料収入は、このうち「国内不動産等の貸付けによる所得」に該当します。配当や利子といった資産の運用収益とは異なり、不動産賃料は独立した類型として整理されている点が重要です。このため、日本に人や事業拠点がない外国法人であっても、不動産賃料については日本の課税関係が生じることになります。
日本国内で保有する不動産がPEになるわけではない
日本に所在する不動産そのものが、直ちに恒久的施設(PE)に該当するわけではありません。日本に役職員や契約締結権限を持つ代理人がいない場合、不動産を所有して賃貸しているだけでは、通常はPEとは判断されません。このため、「不動産がある=PEがある」という理解は誤りです。一方で、PEに該当しないからといって、日本での課税関係が一切なくなるわけではない点が、不動産貸付の難しいところです。
国内不動産等の貸付け対価は、PEの有無とは切り離して課税関係が生じ得る類型です。つまり、日本にPEがない外国法人であっても、日本の不動産から賃料収入を得ていれば、日本の税務が関係してきます。ここで重要なのは、「申告が必要かどうか」と「どの範囲まで課税されるか」を分けて考えることです。PEがない場合でも、源泉徴収や場合によっては法人税申告が問題になることがあります。
| 項目 | PEあり | PEなし |
|---|---|---|
| 不動産賃料の位置づけ | PE帰属所得として法人税課税 | 国内不動産等の貸付け対価として整理 |
| 法人税申告 | 原則として必要 | ケースにより必要 |
| 課税方法 | 所得計算のうえ法人税課税 | 源泉徴収の上、法人税課税 |
PEがない外国法人であっても、日本の不動産を貸して賃料収入を得ている場合、その賃料については原則として日本で法人税の課税対象となります。賃料の支払時には源泉徴収が行われますが、これは課税関係が完結するものではなく、あくまで法人税に対する前払いとして位置づけられます。
このため、源泉徴収がされている場合でも、原則として外国法人は法人税の確定申告を行い、源泉徴収税額を控除したうえで納税または還付を受けることになります。「源泉で引かれているから申告は不要」と誤解してしまうと、後から申告漏れを指摘されることもあるため注意が必要です。
PEなしの場合で、外国法人が日本国内の不動産収益を得た場合の課税フローは以下の通りです。
| 段階 | 内容 |
|---|---|
| ① 賃料支払時 | 日本側支払者が源泉徴収を行う |
| ② 課税関係 | 源泉徴収された税額は前払法人税として扱われる |
| ③ 確定申告 | 外国法人が法人税の確定申告を行う |
| ④ 精算 | 源泉税額を控除して納税または還付 |
| ⑤ 外国税額控除 | 同一所得について本店所在地国でも課税される場合、要件を満たせば外国税額控除の対象となる |
不動産の管理会社に委託している場合、PEに該当するか?
日本の不動産を管理会社に委託している場合、「すべて日本側で完結しているから安心」と考えられがちです。しかし、管理会社が単なる管理業務を行っているのか、実質的に契約締結に関与しているのかによって、税務上の評価が変わることがあります。また、管理会社の存在はPE該当性だけでなく、課税方法や実務対応にも影響します。この点は、契約書の内容だけでなく、実際の運用状況を踏まえて慎重に整理する必要があります。
外国会社の登記も必要になる場合がある
不動産貸付の場合、税務と並んで登記の問題も無視できません。日本に事業拠点を設けていない外国法人であっても、日本の不動産を所有している場合には、外国会社の登記が必要になることがあります。PEに該当しないから登記も不要、というわけではありません。税務上は問題がなくても、登記義務違反が生じているというケースもあり、このズレは実務上よく見られます。
外国法人の日本不動産運用は、構造だけを見ると比較的シンプルに見えます。しかし、PEがないことによる安心感が、かえって判断ミスを招きやすい分野でもあります。課税されるかどうか、申告が必要かどうか、どの段階で専門家に相談すべきかを誤ると、後から修正が難しくなります。
当事務所では、外国法人の不動産運用について、法人税の申告要否の整理から、必要に応じた申告対応、さらに外国会社の登記手続まで含めてワンストップでサポートしています。日本で不動産運用を始める段階で全体像を整理しておくことが、結果として最も安全で効率的な選択になります。

司法書士・税理士・社会保険労務士・行政書士
2012年の開業以来、国際的な相続や小規模(資産総額1億円以下)の相続を中心に、相続を登記から税、法律に至る多方面でサポートしている。合わせて、複数の資格を活かして会社設立や税理士サービスなどで多方面からクライアント様に寄り添うサポートを行っている。
